【短編小説】可愛くないモノ Vol.2

私と先生が出会ったのは、中学二年生の時。先生が、私のいる中学校へ赴任してきたのだ。
当時の私は今よりも不安定で、いつも学校が嫌だった。今考えると、もう少し上手く楽しめたのではないかと思うこともあるけど、きっと戻ることが出来たとしても、やっぱり私はまた同じように悩むのだろう。
 二年生になる新学期の初日私は、学校までは来られたのに、どうしても教室へ向かうことが出来ず下駄箱に立ち尽くしていた。しまいに遅刻になり、ますます入り辛くなった。だからと言って帰る勇気も無くて、私は今にも泣き出しそうだった。その時声を掛けてきたのが先生だ。

「どうしたの?」先生にそう声をかけられた瞬間、怒られると思った私は、咄嗟に「気分が悪くて」と答えた。「そうか、歩けるかな?」と先生に尋ねられ、私が首だけで、こくんと返事をすると先生は、私を保健室ではなく美術室へ連れて行った。だから私は生徒の中の誰よりも先に、先生が美術担当だってことを知った。

「コーヒー飲める?」机の上に逆さにして乗せてある丸い椅子を2つ下ろして、私に腰掛けるよう促すと、先生は缶コーヒーを差し出した。
「そんなもの生徒に出していいの?」
「ダメなの?」そう言って先生も丸椅子に腰かけた。
「ふふ。先生、今日入って来たんでしょ」
「あ、分かる?」
「分かるよー。だって見たことないし」
「そうだよね」
「だって若いし」
「そっか」全然先生らしくない先生の対応に、私は親近感を覚えた。
「だって格好いいし」私は言ってすぐ恥ずかしくなった。
「格好いい?君見る目あるね~」その時の先生の笑顔が、私の中学校生活を変えた。

先生は、私に何も聞かなかった。保健室へ連れて行かなかったということは、本当は具合なんて悪くないってこと、気付いていたはずなのに。どうしてあんなところで立ち尽くしていたのか、聞こうとしなかった。まあ、聞かれたところで何と答えて良いのか分からなかったけれど。
人に話して理解されるような理由なんてなかったから。苛められているわけでも、友達がいないわけでもなかった。ただ校則の厳しい学校に息苦しさを感じ、集団が持つ特有の圧力のようなモノに押しつぶされそうだったのだ。こんなこと、きっと誰にも理解されないとあの頃の私は思っていた。大人になって、意外と多くの人がそんな想いを抱えながら思春期を過ごしていたことを知ったのだけど。

とにかくあの頃の私にとって、先生は唯一の理解者であり味方だった。その日から先生と私の美術室デートは始まったのだ。

to be continued……

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