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“個”が自由に行き交うことで、地方都市はもっと面白くなる。 「ヤマガタデザイン株式会社」代表 山中さん対談 | 前編

「n’estate(ネステート)」の新たな拠点に追加される山形県鶴岡市の「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(ショウナイホテル スイデンテラス)」。今回は同ホテルを運営するヤマガタデザイン株式会社 代表の山中大介さんと「n’estate」プロジェクトリーダー櫻井の対談をお届けします。まず前編では、“個”の働きかたが問われる時代に「n'estate」のサービスがもたらす地方都市への可能性について伺いました。


プロフィール

山中大介 | Daisuke Yamanaka
1985年生まれ、東京都出身。2008年、三井不動産株式会社に入社。大型商業施設の開発と運営に携わったのち、2014年に山形県庄内地方に移住し、街づくりを担うヤマガタデザイン株式会社を設立。山形庄内から全国にも展開可能な課題解決のモデルづくりに挑む。             
櫻井 公平 | Kohei Sakurai
1985年生まれ、千葉県出身。2008年、三井不動産株式会社に入社。経理・税務、オフィスビル再開発、住宅用地取得営業などを担当。個人的なスタディとしていた「多拠点居住/二地域居住」を切り口に、あたらしいすまいとくらしのあり方を提案するサービスを社内新規事業化し、事業創造部に合流。2022年秋より「n’estate」を立ち上げ。共働き、2児の父。ラーメン二郎とサウナをこよなく愛する元バンドマン。                                 

「社会で生き抜く力」を試したかった、20代。

櫻井:山中と僕の出会いは、三井不動産株式会社に内定をもらって入社するまでのあいだ。同じ大学で三井不動産の先輩が呼びかけてくれて、集まったのが最初だったよね。入社してから最初の1カ月くらい、研修の帰りに同期のみんなでご飯に行ったり遊んだりするなかで、年齢も卒業した大学も一緒ということもあって、特に仲良くなったんだよね。

山中:そうそう、懐かしいなあ。

櫻井:その後、僕が経理部経理グループに。山中が商業施設の運営事業部に配属されて。

山中:運営事業部では「ラゾーナ川崎プラザ」や「ららぽーと」といった施設の開発と運営を4年間担当。最後の2年間は、用地取得(不動産開発事業のための土地や建物を仕入れる業務)を担当していました。

櫻井:逆に、6年間しか在籍していなかったんだね!

山中:そう、28歳まで。だってもう僕、辞めてからの方が長いもんね。

櫻井:そっかあ。じつは僕、山中が会社を辞めるって聞いたときにえらいショックだったんだよね。自分は最初に配属されたのが経理部で、そこに5年間在籍して。そのあいだ、リアルには不動産を一切触っていない。対して、山中は6年間不動産事業に携わって、さらにあたらしい道を見つけて進もうとしている。その決断力がすごいなと思ったし、うらやましかった。

山中:そうだったんだ! でもね、櫻井が言っていたような不動産を触っていないとか、ずっと経理部だったとかって確かにそうなんだけれど、いろいろな事業を手掛けるようになった今感じるのは仕事の本質って結局は同じということ。それに気が付くことさえできれば、どこに行ってもパフォーマンスを発揮できるんだよね。

でも、当時の僕はどちらかというと「もっと社会を知りたい」というのが働くモチベーションとして一番にあって。だから、入社当初からひとつの会社で働き続けようとは思っていなかったし、社会で自分がどれだけ生き抜いていけるのかということに挑戦したかった。

櫻井:それで山形県のSpiber株式会社という、クモの糸からヒントを得て独自の人工たんぱく質素材を開発・販売する会社に転職したんだよね。

山中:うん。バイオベンチャーの会社。しかも、東京でのくらしとは生活環境も激変する田舎で。それが純粋に面白そうだなと思って。

櫻井:そこに求めてた、刺激や変化はあったの?

山中:結論から言うと、半分あって、半分はなかった。人工たんぱく質素材とか、テクノロジーとか全く未知の世界だし、いかにして価値を生むのかというところからのスタートで。不動産業界で培ってきた「この施設がいくら稼ぐのか」といった考え方とは全く違うのよ。あたらしい価値観、まだ世の中にないサービスがいくらで売れるか、ゼロから決めなきゃいけない環境は、それはもうエキサイティングだったね。

櫻井:でも、その後に起業して「ショウナイホテル スイデンテラス」をつくることになるわけだよね。それは、どういった経緯からだったんだっけ?

山中:それが“なかった”半分の部分で。何かというと、まだ人工たんぱく質素材ができていなかったの(笑)。正確には研究開発段階でまだ売るものがなかった。僕はビジネスデベロップメントの担当として入社したんだけれど、お給料をいただいている以上は何か価値を生まなくてはと困っていたら、ちょうど会社の横にサイエンスパークという未利用地があって。そこの開発という課題を鶴岡市が抱えていた。もともと不動産屋だったこともあるし、何かできることがあればやりましょうかとアドバイザーというかたちで関わりはじめたんです。

櫻井:そこから、どうしてホテルをつくることに?

山中:唯一、サイエンスパークというお題はあったけれど、その研究者たちのためになる、彼らに資する土地機能であれば何をつくってもよかったんです。ただ、行政単体で進めていくには予算面などでなかなか難しい部分も多くて。要は、民間主導の開発が求められていたんですよね。

そこでいろいろと考えたのだけれど、分譲住宅とか賃貸住宅を建てて投資するのは、地域全体で人口が減少しつつある現状、中長期的に見てリスクにもなる。それに地域の事業者さんと内需を取り合うことにもなりうる。ならば地域で今までやってこれなかったことをやろうということで、交流人口・関係人口を地域に呼び込むことに挑戦しようと。そのために全国、そして世界からの目的地となるホテルをつくろうと考えたのがはじまりです。

地方に住む人こそ、すまいを、くらしを、動かす楽しさを知ってほしい。

櫻井:なるほど。「スイデンテラス」に来てもらうことで交流人口・関係人口を増やして、さらに地域でお金を使ってもらって経済も活性化させようと。

山中:あくまで研究者向けの施設としてはじまってはいるけれど、直近の年間来館者の6万人のうち95%程は「スイデンテラス」を目掛けて来てくださっているので、当初の目的を実現することはできたんじゃないかな。

櫻井:交流人口・関係人口の創出という意味では、僕たちが見据えているものも「スイデンテラス」と近しいものを感じます。「n’estate」というサービスは、今あるすまいをより自由化して、人々が地域・地方を活発に往来しやすい状況をつくることで、利用者と地域・地方との間にあたらしい価値や結びつきが生まれるんじゃないかと考えていて。

山中:僕が「n’estate」のいいなと思うところは、すまいを自由にすることで、それ以外のいろんなものからも解放される、自由になるっていう発想。地方って、ともするとそういった選択肢がなかったり、与えられた状況が当たり前という考え方の人がまだまだ多くて。
だから、多拠点居住も都市部の人たちだけのものじゃなくて、むしろ地方にいる人たちこそ、自分たちのすまいを流動化できるという発想をもっと持ってほしい。そうすることで地方のよさ、自分の住んでいる地域のよさの再認識にもなると思うんだよね。

櫻井:僕たちも「n’estate」をはじめてみて分かったことなんだけど、山中が言ってくれたみたいに、基本的に東京と大阪とかの大都市圏に住んでる人が自然豊かな田舎に行くとか、リゾート地に行くとか、そういうニーズが多いのかなと思っていたんです。
実際にそういう人たちもいるんだけれど、想定以上に地方から大都市という矢印で利用してくれてる人もいて。だから、地方で暮らしている方々にも「こういう選択肢もあるんだ」ということを「n’estate」を通じて実感してもらえたらいいなと思うし、きちんと届けていきたいです。

山中:ここでなければ生活ができないとか、この会社を辞めてしまったら自分は生きていけないみたいな考え方って、多くの場合はある種の思い込みなんだよね。その固定観念から自分を解放して、自由にしてみるともっと生きやすい世の中になるし、人はもっと行き交うようになるんじゃないかな。
その入り口を「n’estate with kids」という保育の切り口から考えたのは、とてもセンスがいいよね。これは今後、どんどん需要が出てくると思う。

櫻井:ありがとう! 「n’estate with kids」は“保育”や“教育”という軸だけれど、「n’estate」では今後もさまざまな体験ベースで拠点を選んでもらえるような施策を考えていきたくて。移動や滞在というアクションの先に、面白そうと思える“コト”があればやってみようって人もいると思うんだよね。

「働く」と「暮らす」  両方の切り口から、地域の魅力を伝えていく。

山中:フリーランスの人やリモートワークで働ける人には、そういったニーズはきっとあるよね。せっかく多拠点生活をするんだったら、地域のコミュニティとのつながりも生まれていった方が絶対にいいし、そういうのも「n’estate」で実現していきたいことなんじゃない?

櫻井:まさに、その通り。 入り口は地域のイベントへの参加、それこそ稲刈りとか、もう一歩踏み込んだ地域との関わりが生まれていくといいよね。普段の生活では得られない体験をすることで、日々がより豊かになると思うから。

山中:いろんな可能性が広がっていると思う。そのためには、地域の受け入れ側の意識も変えていかなきゃいけないよね。例えば、地方企業と「n’estate」の利用者をマッチングするとか。そこまでデザインできるとさらに盛り上がるだろうし、面白そう!

櫻井:それ、いいね。地方でリモートワークというと東京の仕事を持って行って滞在先にこもって働くイメージがあるけれど、そうじゃなくて、週に1~2回ちょっと地方の仕事をしてみるといった働き方があってもいいよね。ワークシェアの概念に近い。

山中:サービスのひとつとして、あるといいと思うんだよね。例えば、僕たちがやっている「ショウナイズカン」という地域特化型のリクルートメディアがあるんだけれど、ここには庄内エリアの求人情報が約200件載っていて、求職者も1300人以上登録されていて。山形県の庄内エリアで企業情報を調べるなら、おそらくナンバーワンのメディア。

それこそ「n’estate」を利用して「スイデンテラス」に来た人たちが庄内エリアが気に入ったとして、「ショウナイズカン」に登録しておいてもらえれば地域にどんな仕事があるのかを調べることができるし、副業人材の募集を見つけることができるかもしれないよね。

櫻井:このサービスって、庄内エリア以外でも展開しているんだっけ?

山中:チイキズカン」として、イワイ(岩手県南・宮城県北)、山形、富山、石川、兵庫(明石市・神戸市西区エリア)、島根、広島の全国9地域でも展開しています。

櫻井:なんだか、展開しているエリアがどれも分かりやすいところじゃないのがいいね。

山中:いわゆる北海道とか沖縄のような人気がある地域は、それこそ大手の採用メディアが参入しているんだけれど、もっとニッチなエリアでどうやって仕事を掘り起こすかに取り組んでいて。
さらには地域のガイドブックとしての機能も兼ね備えているので、その地域に来たときに何があるのか、滞在中にサイトを訪ねてもらえれば、おいしいお店や名勝など、いわゆる観光マップみたいな情報も載っています。

櫻井:面白い! リクルートメディアなんだけれど、その地域での「くらし」をちゃんとイメージできるように設計されているところがすばらしいです。

山中:結果として、地方企業でも個人で活躍する人たちに仕事を委託する文化がもっと根付いたらいいと思っていて。その地域での仕事を受託することができれば、週に2~3日は地方に行くようなくらしができるようになる。逆に、家族みんなで移住して月に数日だけ東京に行くとかね。

櫻井:とてもいいと思うし、「n'estate」にも取り入れていきたいなあ。

山中:これからの時代、個人が業務委託を受けて働くような社会になっていくし、そうやって優秀な人材が流動化して、面白い仕事やプロジェクトベースで人が集まってくるようになる。だからこそ、地方都市はもっと自由になるためにも、自分たちでちゃんと自走する経済をつくっていかなきゃいけないし、企業は(働き手にとって)面白い会社であり、魅力的な存在でいなければいけない。それが地方企業の経営者に課せられたミッションなんだと思っています。

櫻井:間違いなく、人々の働き方は変わっていくし、それを感じています。プロジェクトごとにチームが編成されて、専門性を持ったメンバーがその都度集まってくる。そうなりゆく時代に「n’estate」がきっかけになって、地方都市との接点をつくることができたらいいと思う。さらに、こうして地方の情報インフラが整うことで、より深く地域に入っていけそうな気がするよね。

山中:「すまい」を自由にすることに加えて、仕事という面での「くらし」のハードルを下げる仕組みも提供できると面白いよね。そうやって地方都市の関係人口を広げて、さらには移住・定住というところにまで影響を与えるサービスに「n’estate」はなっていけるんじゃないかと期待しています。

> 後編の記事はこちら
“後伸び”の力をはぐくむ教育が、地方都市の未来を変える。

>「スイデンテラス」で、家族みんなの特別なひとときを。
「n'estate with kids」0~2歳児プラン
「n'estate with kids」3〜5歳児プラン

> サービスや拠点について、さらに詳しく。
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