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電話対応という関門と社会の洗礼

「また新人さんに捕まっちゃったよ~!」

私座っているデスクの向かいにいるTさんは、いつものように電話を切り終わった後、普段とは少し異なった口調で愚痴をこぼしている。

どうやら電話慣れしていない新人さんが対応していたらしく、何度も同じ台詞を言う場面を見受けられた。それだけでなく、回答をもらうまでにだいぶ時間を要されたりして、どうも苛立っている様子がデスク越しに伺えたのである。


新年度を迎えてから、あっという間に10日が過ぎた。今じゃほとんどの取引先に電話をかけると一定の確率で、この春に学校を卒業したばかりであろう新人さんが出るようになってきている。

およそ一週間が経過したとはいえ、早速新人さんに電話対応をさせているその会社さんは、相当厳しそうスパルタな方針を取っているようだ。私はその一連の会話を、小耳に挟みつつ思い耽っていた。

そしてやはり、こう思わずにはいられないのだ。自分が新人だった頃はどうしていたのかと。


私が新卒であった頃の電話対応は、入社して研修を経てからおよそ一ヶ月後にをおこなうようになった。

それでこそ最初は受話器を取るにも、人一倍以上に勇気が要るものであった。もし会話の内容を正確に聞き取ることができなかったら、あるいはその場で収まることができなかったらどうしよう…などと。

当時大人の着ぐるみを羽織った子供のままであった私は、そうした失敗を恐れる不安という、まるで一面が霧だらけの先入観を常日頃から抱えていたのである。


社会人になってから10年以上経験してきたことを踏まえて振り返ってみれば、その要素を自然と持ってしまうのは、至極当然のことだった。

対応の仕方を含めた経験と回数が年齢と吊り合っていないから、双方のバランスがどうしても整えないわけである。是が非でも、何度もこなして体に馴染ませるようにしていかなければ、次も似たようなことでつまづいてしまうと。

今さらこの年齢になって、私は一つの対処法を確率することができた。といっても、むしろそこに気づくまで遅すぎると云っていいくらい、時間はものすごくかかり過ぎてしまったが…。


何事も不慣れな新人さんに対応しなくちゃいけない年輩と、一方でこれから経験を重ねていかなくてはいけない新人の双方は、もしかしたら不安…もとい見えない課題に頭を抱えていることかもしれない。

中立な立ち位置から見て、両者の気持ちはわからなくもない。立場は違えど、ここから当たり前じゃないことを当たり前にしていくうえで、また一つ長く付き合っていくために乗り越えていかなければならない。

特に新人さんはこの先、今まで形成されてきた社会の洗礼を真っ向から浴びることになるだろう。時と場合あるいは人によって、自ら意を決して振り絞った勇気が無残に散ってしまうことも中にはあるに違いない。

これは誰もが通る道であり、誰しもが通ってきたからこそ、めげずとも挫けずともこの関門をどうか乗り越えてほしいと影ながらそう願いたい。



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