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日本とシンガポール、医療の差

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記事一覧

人生に乾杯 36(術後1周年)

人生に乾杯 36(術後1周年)

先週土曜日6月26日は、昨年シンガポールで開頭手術を受けた日。いわば一周年に当たる日だ。前日の金曜日には、当時お世話になったシンガポールの医師ら医療関係者何人かに、2点を伝えるためにメールを送った。一つは、今でも自分は生きている、と。脳腫瘍の方は全摘の上帰国した日本の病院でも、予後治療がスムーズに行っている(でも明日30日はMRI検査)。主治医や、毎月自宅に来る機器メーカーの方には感謝する他ない。

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人生に乾杯 20(医師への評価と、「悪人」へのススメ)

人生に乾杯 20(医師への評価と、「悪人」へのススメ)

自分がこんなことになり、とにかく家族に申し訳ないと思っている。その家族には感謝で一杯。これまでブログで書いてきた通りだ。

一方、幼少期からの病院通いの経験(脳腫瘍やがんに限らず)を顧みて、一部の医療従事者にどうしても敬意を払えない理由に思いを巡らせる。彼らは一様に偉そうだったり、タメ口だったり、こちらが尋ねても知識未消化だったり、言い始めるときりがない。今でこそ2人の主治医がとてもいい人たちなの

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人生に乾杯 19(季節の移り変わり)

人生に乾杯 19(季節の移り変わり)

7月半ばに成田病院に入った時、関東圏はまだ雨が降っていた。病室のベッドに寝転び、夜のニュースを見ては「明日はまた北総は雨か」とか「少し晴れそう」などと思いながら、翌朝を迎えていた。その間、妻とっこと家族は目黒時代からの、またシンガポールから日本に帰還した友達のサポートをもらいながら、今の都内自宅に引越しの準備を整えていた。帰国直後、僕が1人アジトでそれまでの数年借りていた港区の小さなマンションに、

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人生に乾杯 18 (新型コロナの社会的文脈)

人生に乾杯 18 (新型コロナの社会的文脈)

新型コロナ(Covid-19)が第3派を迎えている。免疫が落ちている自分としては、遠出は気が気でないし、密になるのも嫌だ。そんな話を先日も山井大輔(医師で予備校時代からの友人)と電話でしてたら、人がすべからくかかる疾病について「社会的文脈」という言葉を教えてくれた。僕は脳腫瘍(膠芽腫)と肺に大腸がん転移の腫瘍が複数あるので、要はこの病気と新型コロナの個人的関わりについて、ということにる。少し長くな

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人生に乾杯(訂正)

<訂正、2020年11月6日> 本ブログ8回(10月8日掲載)にノボキュアの記述があります。11月6日に担当の方が自宅に来られた際、訂正のお話がありました。正しくは、「現在日本でオプチューンを使う人が約200人、ノボキュアの日本支社は総勢50人」です。僕の担当者は技術職で、技術職は日本で15人、ということでした。関係者にお詫びし訂正いたします。

人生に乾杯 17(保育士さん)

人生に乾杯 17(保育士さん)

井上さく子先生は、うちの2人の子どもたちが通った保育園の園長先生だった。大層朗らか、純朴、なおかつ「滅私」の人で、保育士稼業を「卒業」後も、全国各地に呼ばれては講演や指導をしている。本人は「ワタシ、回遊魚なのよ」と仰る。さく子先生のお陰で我が子2人の今がある。

当時住んでいたマンション6階の窓から、我が子を投げれば3メートル先にある反対側の窓から先生方が手を出して受け取ってくれそうなところに、保

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人生に乾杯 16(医療費に関すること 2)

人生に乾杯 16(医療費に関すること 2)

以前、医療費に関することをこのブログで紹介した。本号はその続きになる。

シンガポールに移住した2012年当時、外国人である我々家族は外国資本のプライベートの保険に入る他、選択肢がなかった。2015年を過ぎるころからNTUC(National Trade Union Congress)というシンガポール地場の半官半民会社が加入制限を永住権(PR)保持者から就労ビザ(EP)保持者にまで対象を拡げた。

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人生に乾杯 15(「腫瘍持ち」の多さ)

人生に乾杯 15(「腫瘍持ち」の多さ)

周りに癌(悪性腫瘍)患者が多いことに気づいたのは、自分が罹患してから。「これほど多いとは思わなかった」というのが正直な感想だ。癌、悪性、患者、どれも自分で好んで使う感じではないが、本回では避けえないので、読者には漢字使用の頻度が少し多くなることをお許し願いたい。

まずは実母。昭和15年(1940年)生まれの現在80歳。4年ほど前に胃がんになり、築地のがん研で全摘した。当時は実父が介護付き老人ホー

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人生に乾杯 14(病気、自己責任、そして愛)

人生に乾杯 14(病気、自己責任、そして愛)

成田病院での日記に戻る。

8月31日(月)の欄に「病気になったのは自分のせいか」という言葉がある。「それとも、病気になったのは病気のせいで自分は悪くないのか」と続く。その後を少し長いが引用する。

「今日(註、8月31日)、高橋幸宏(さん、元Yellow Magic Orchestraメンバー)が8月初旬に脳腫瘍と診断され、術後も後遺症のないことがニュースになっていた。当人は『ご迷惑をおかけし…

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人生に乾杯 13(医療費に関すること)

人生に乾杯 13(医療費に関すること)

沖縄の #金城楓空 ちゃんの腹膜悪性中皮腫手術が今月22日、終了した。まずは無事終わったことに心から安堵した。10月10日の琉球新報を見て、彼女を救う会である「ふうあの会」に僕は1万円の寄付をしたのもあったし、そもそも、がん(悪性腫瘍)の治験、治療には極めて高額な研究費がかかるからだ。たかだか1万円と思っていたが、2000万円を目標にしたクラウドファンディングは3700万円余りが集まった。保険適用

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人生に乾杯 12(医療業界のタメ口)

人生に乾杯 12(医療業界のタメ口)

先日、医師と思われる方の書き込みをTwitterに見つけた。「患者さんにタメ口をきいてはいけない」とある。筆者はその意図をこう説明する。「患者さんが何歳でもどんな性別、背景でもだ。唯一許されるのは、長い長い時間をかけ信頼関係が出来た患者さんに、親しみを込めて使うときだけ。なぜあなたは指導医の私には敬語を使い、患者さんにはタメ語なのか。それを考えよ」。僕は、Twitterは看護師向けの言葉だと想像し

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人生に乾杯 11

人生に乾杯 11

大卒後に就職した新聞社で、数年後に入ってきた後輩2人と、先日荻窪で旧交を温めた。僕の体調を気遣い、わざわざ地元まで来てもらった。後輩とは付き合いが長く今はいい友だち。自分のシンガポール時代、日本に帰国しては年に1、2回東京で一緒に飲んだ。太田侑也さん(「ゆうくん」、仮名)は1年後輩だけど、大学生活で「寄り道」があり僕より数年上。入社後は別の競合へ移った敏腕だ。こちらが何を言っても「そうだよね、そう

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人生に乾杯 10

人生に乾杯 10

成田に入院した直後の7月下旬、廊下を挟んだ向かいの部屋に入っていた40代の女性と少し話す機会があった。僕がシンガポールで6年以上続けたヨガを、病院の廊下でやっていて向こうから話しかけてきた。「精が出ますね」。そこからお互い症状の話になった。彼女は地元北総の出身で、馬舎で調教をしているという。「馬の後ろ足で後頭部を蹴られた、と思うんです」。本人にはその時の記憶がないらしい。後ろ足で後頭部を蹴られて、

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人生に乾杯 9

人生に乾杯 9

患者情報の病院間共有について、日本とシンガポールの違い光を当てて話したい。

2012年春、シンガポールにほぼ初めて降り立った年に驚いたことがある。地下鉄(MRT)に乗ると、病院のX線画像を袋に入れて持ち歩いている人を一定の率で見かける。何かと思っていると、しばらくして謎が解けた。病院が画像を患者本人に渡してくれるのだ。X線だけではない。CTもMRIもCD-ROM(DVD)も、あるいは診療結果報告

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