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最終兵器


学校で宿題が出た。
最新の世界を自分の好きなように分類して色塗りしろ、といって白地図が渡された。
それは世界の国境だけが描かれている、
自分の国の何倍以上もある大きな国。
そして色塗りするのも大変な米粒のような国々も。
どう色分けすればいいんだろう?
宗教で分けるべき?
キリスト教とイスラム教と仏教・・・でも一つの国でもたくさんの宗教があるし。
言語で分けるべき?
でも言語も同じく、一つの国でもいろいろな言葉が使われていたりする。
じゃあ西側と東側で分ける?
音楽を聴いていたラジオはニュースにかわっていて、遠い国の戦争の話を伝えている。
こんな時代だからこんな宿題が出たんだろうけど・・・あの争ってる国たちはどの色で塗ればいいんだろう? 絶対に同じ色では塗れないような気がする。いつまで争いは続くんだろう?
そんなこと考えてたら、ため息が出た。
白地図を塗るとか、すごく無意味な事に思えてきた。
こうして世界を分けること自体が、争いの元のようにも思えてきて・・・。

でも宿題だ、仕方ない。
とりあえず地域でざっくり分けてしまおう。
アメリカ大陸は青で塗ろう
アフリカは赤にしして、でヨーロッパは緑・・・でも途中まで塗ったところでハタと手が止まる。
ヨーロッパってどこまでなんだろう?
しまった、塗りすぎた、消さなくちゃ。
でも普通の消しゴムだと色は消えない。
困ったな・・・と思ったその時、
急に思い出して古い文房具がガチャガチャに入れてある引き出しの奥をまさぐったら・・・あった!
それは古いケシゴムだった。

そのケシゴムは転校生のケイ君に、図工の授業の時にもらったものだった。
私は図工の授業が嫌いだった。
理由は、隣に座る男子がいじわるだったからだ。
図工の時間は作業用の大きな机に何人かで座っていたのだけれど、ちょっとでもその子のほうに道具が転がっていきでもしたらにらまれたり、手をはじかれたりした。
そしてわざわざ私との間に線を引いて「こんどここからはみ出したら承知しないぞ」とすごまれたりしていたもので、ちっとも絵や工作に集中できないでびくびくしていた。
そんなとき、ケイ君がこのケシゴムをくれて言った。
「最終兵器をあげるよ! これでその線を消してごらん」
「え!? でもそんなことしたら・・・」
「大丈夫、ほら」
ケイ君はイジワルな男子がそっぽを向いているすきに、間の線を消しだした。
マジックの線だったのに、不思議なことにきれいにその線は消え去ってしまった。
でも不思議なのはそれだけじゃなかった。
イジワル男子は線が消された事に全然気づかず、さらになぜかそのあとは私のことをにらみつけないようになったのだ。
私の鉛筆がそっちに転がっていったときも、全然気にせず、自分の絵に没頭していた。
「なんで?」
不思議がる私にケイ君は言った。
「言ったろ、このケシゴムは、なんでも消せる最終兵器だって。もしまた線を書かれたら、これで消せばいいよ」
ケイくんはそう言って、私にそのケシゴムをくれた。
そしてまもなくどこかに転校していってしまった。
まるで風の又三郎みたいに不思議な子だった。

幸いなことにもう隣のイジメっ子は線をかくこともなかったけれど、私はそのあともそのケシゴムを使わず、机の中にしまいこんでとってあった。
このケシゴムなら消えるかも、と私は使ってみることにした。
果たして・・・私のはみ出して塗ったところはきれいに消えてくれた。
調子に乗ってケシゴムを動かしていたら、ケシゴムは色だけでなく国境の線まで消してしまっていた。
「ま、まずい」
なんで印刷の線まで消えちゃうの?
そういえばケイくんは「最終兵器」だって言ってたっけ。
もし本当の最終兵器なら、国の争いも終わらせられるのかな?
たとえばこの争っている国たちの国境線を消したら・・・
まさかね・・・でも、もしそんなことができたらすごいのに。
なんて思いながら、私は戦乱の中にある国たちの国境線を消しゴムでこすっていた。
見事に国境線は消えてなくなった。
まずい!
自分で国境線をまたかかなきゃ・・・そう思って黒い鉛筆を手にとったとき。
『緊急ニュースをおとどけします、長く続いていたA国とB国の戦争が停戦となりました・・・』
・・・え?
まさか本当にこのケシゴムの力?
私はマジマジとケシゴムをみつめた。
もし本当にそんな力があるのなら・・・私はまたケシゴムを手にとった。
そして今度はすべての国の国境線を消すことにした。
これで世界は平和になる・・・はず!

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