フクシマからの報告 2019年春    福島第一原発復旧工事で白血病になった作業員再訪 「俺は昔の炭鉱夫くらいにしか思われてないのか」

今回の「フクシマからの報告」の取材のために、福岡県北九州市を訪ねた。東京から出発して、福島県とは反対方向の西に飛行機で飛ぶ。

なぜフクシマとは離れた福岡県に行くかというと、北九州市に福島第一原発の復旧工事に参加したあと、白血病にかかった池田和也さん(44)=仮名=が住んでいるからだ。2017年3月にも一度、池田さんを訪ねて話を聞いた。「俺たち作業員は捨て駒なのか」という記事で本欄で公開した。私が本欄で書き続けている「フクシマからの報告」の中でもっとも大きな反響があったインタビューである。

池田さんは志願して福島第一原発の復旧工事に参加した。元々は独立自営の溶接工である。2011年3月、津波で多数の死者が出るなか、小さな男の子が死んだ報道を見て「自分も何か東北のために役に立ちたい」と、仕事先の社長に頼んで原発の復旧工事に飛び込んだ。4号機の建屋内部、燃料棒プールの直近である。

しかし、その後の2013年末、池田さんは白血病にかかった。骨髄の造血細胞ががん化して、正常な血液を作れなくなる「造血細胞のがん」が白血病である。

池田さんは国が福島第一原発での復旧作業による労働災害を認めた最初のがん患者の一人である。

二人が白血病(骨髄細胞のがん)になり、一人が甲状腺がんになった。そんな最初の認定者の一人である。白血病が2015年10月。二人目の白血病が2016年8月。3人目、甲状腺がんが2016年12月である。

2019年5月現在、福島第一原発での作業を原因とする労働災害を国が認めた患者は全国に6人いる。

実を言うと、私は国が労働災害を認めたことに少なからず驚いた。水俣病やイタイイタイ病など、これまでの公害病などの歴史からみて、政府は言を左右にして因果関係を認めないだろうと予想していた。しかし政府はそれをあっさり認めた(もちろん『科学的因果関係が認められたのではない』などとあれこれレトリックを駆使している)。

これは世界的・歴史的に見ても珍しいことである。米国のスリーマイル島原発事故(1979年)では、2000件以上の訴訟が起きながら、健康被害と被曝の関係は一件も認められていない。州政府は認めてないのはもちろん、裁判所も認めていない。

こうして「福島第一原発事故の放射線漏れは、健康に被害を及ぼさない程度の軽度のものである」という政府や東京電力の主張は崩壊した。

 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故でも、最初に重篤な健康被害が出たのは「リクイダートル」と呼ばれる初期対応にあたった消防士や兵士だった。約5000人弱が死んでいる。当たり前だが、放射線の強い現場に近付いた人間から重篤な病気になるのである。福島第一原発事故でも、まったくこれと同じ現象が起きた。

労働災害は認められたが、池田さんは復旧工事の事業主である東京電力を民事提訴した。東電は「池田さんの白血病は、福島第一原発での被曝が原因である」という因果関係を認めていないからである。

 私がかねがね不思議なのは、新聞テレビはもちろん、週刊誌やウエブメディアなど報道がことごとく池田さんら原発復旧作業で致死性の病気になった人たちの話を記事にしないことである。労災が認定された、という政府発表記事以外は、まったく沈黙している。当事者の肉声が聞こえてこない。

原発事故が起きて原子炉が3つもメルトダウン(スリーマイル島もチェルノブイリも、過去2件の原発事故はメルトダウンは原子炉一つである)するだけでも世界史的な大事件である。加えて、周辺住民20万人以上が避難民化したという戦争級のクライシスなのである。重ねて、池田さんはじめ6人が致死性の病気になるという人的被害が出ているのだ。

その被害者の肉声を歴史に記録すること以上に重要なニュースがあるとは、私には思えない。

そんな現実を眼前にしてのマスコミの沈黙は、私には理解できない。何らかの意思を持って一斉に黙殺しているのではないか、とすら邪推したくなる。

池田さんが取材を拒否しているならまだ話はわかる。しかし、そうではない。池田さんは数ヶ月に一度、裁判の法廷が開かれるたびに、北九州市から東京地裁まで旅してくる。公開の法廷に出て、その後は必ず公開の報告会を開く。私もそこに行って取材を申し込み、快諾してもらった。

他のマスコミの記者もそうすれば池田さんの話を聞くことができる。

私は法廷が開かれるたびに、できる限り足を運ぶ。東京では池田さんは支援者や弁護士とのやりとりに忙しいので、インタビューする時間がない。そこで北九州市の自宅まで行ってじっくり話を聞いた。2017年3月のことだ。

そして2年が経った。その間、法廷で顔を合わせ、言葉を交わすたびに、池田さんが少しずつ健康を回復していることがわかった。改めて、その後の話を聞いてみよう。そう思い立って、再び北九州市に飛んだのは2019年4月である。

今回も池田さんは重要な指摘をした。原発など「核施設」に入って作業をする人は、事故や病気になっても、民間の損害保険が適用されないのだ。いわゆる「免責事項」に入ってしまうのである。

仕事ができなくなって生活に困窮しても、国が労災を認めなければ、救済の道はまったくない。自社社員ではない下請け社員に対しては、東京電力はじめ電力会社は、補償はおろか因果関係すら否定している。

メルトダウンした原発の復旧という危険な作業に従事する人たちが「丸裸」のまま放置されている。しかもそれに気づく人はほとんどいない。保険会社ですら気づかなかった。そんな異常な状態を是正したい。池田さんはそう話した。

(インタビューは2019年4月4日、北九州市の池田さんの自宅で約3時間行った。その内容にはできる限り手を加えず、実際のやりとりを再現するように努力した。ここまでの写真二枚は、福島第一原発4号機で作業をしていたときの池田さん。池田さんから提供)

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烏賀陽(うがや)弘道/Hiro Ugaya

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烏賀陽さん

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