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きつねのフラときつねずし

里山の風景が好きです。四季折々の里山の風景を眺めていると、心があたたかくなってとても落ち着くんです。

はじめて出会う風景であっても、どこか懐かしく、「あれ? この風景はどこかで見たような・・・。どこだっけ?」という感覚になることもあります。

それはなぜだろうと考えていたら、子どものころに読んでいた1冊の絵本が影響していることに気がつきました。

「きつねのフラときつねずし」という絵本です。

この絵本に描かれていた里山の風景。それが、僕の心の中の原風景になっているような気がします。

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子どものころは、たくさんの絵本を読むというよりは、お気に入りの絵本を何度も繰り返し読むタイプだったと思います(そもそも、本がたくさんある家庭ではありませんでした)。

お気に入りの絵本は何冊かありましたが、「きつねのフラときつねずし」は、その中でも特に好きな絵本でした。

どのくらいの回数を読んだのでしょう。今となっては皆目見当がつきません。

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主人公はきつねの子の「フラ」です。フラは、いつもフラフラしていて、何をやっても上手くいかない子なんです。

だから、仲間のきつねたちからは「フラ」と呼ばれていつもバカにされています。

フラは、人間の姿に化けることができません。仲間のきつねたちは、人間の姿に化けることができます。

ある日、仲間のきつねたちが「きつねずし」をおいしそうに食べていました。彼らは人間に化けて、人間の町から「きつねずし」を取ってきたのです。

フラは、人間に化けられないので「きつねずし」を食べることができません。みんなから笑いものにされます。

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「きつねずし」を食べたい。その想い一心に、フラは1人で人間に化ける練習をする。何度も何度も失敗するけれど、挑戦をやめない。

そして、フラは、不器用ながらも人間に化けられるようになります。

人間の子どもの姿になったフラは、いよいよ「きつねずし」を探しに人間の町に向かいます。

ところが、「きつねずし」はタダでは手に入らないことを知ります。

「きつねずし」には、「お米」と「あぶら揚げ」が必要なのです。

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そこでフラは、お米を得るためにおばあさんの田んぼ仕事を手伝い、あぶら揚げを得るために豆腐屋の仕事を手伝います。毎日毎日一生懸命に働き、成長していきます。

そして遂に、自らの手で、お米とあぶら揚げを手に入れます。

フラは、田んぼのおばあさんと一緒に、たくさんの「きつねずし」を作ります。

フラは、それを仲間のきつねたちにも分けてやろうと、仲間のいる山に戻ろうとします。

ところが、そこで思ってもみないことが起きるんです。

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この絵本で描かれているフラの「ひたむきな姿」と「やさしい心」。そして、物語終盤の「切なさ」に、読んだ後には何ともいえない気持ちに包まれます。

僕は、この絵本に描かれている里山の風景が大好きでした。絵本の世界に入り込んでは、隅々まで探検していたのをよく覚えています。

繰り返し読んでいると、同じ里山の風景でもページをめくる度に発見がある。フラの成長とともに、里山の花、草木、鳥が変化していき、そこには季節のうつろいがしっかりと描かれている。

ずっと、眺めていて飽きませんでした。

どうやら、この絵本のお話のあたたかさと、描かれている里山の風景が、僕の心に深く刻まれているみたいです。

だから僕は、里山の風景に出会うと、あたたかくて懐かしい気持ちになるのだと思います。

きっと、幼いころの僕にとって「きつねのフラときつねずし」は、大切なものがたくさん詰まっている絵本だったのでしょう。

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ふと、この絵本を手元に置きたくなって、Amazonで検索しました。

便利な時代です。今は思い立ったら、なんでもすぐに欲しい情報にアクセスできて、クリックすれば欲しい商品を手に入れられます。

ところが、Amazonの検索結果を示す画面には「この本は現在お取り扱いできません。」と表示されました。

「えっ?」と思いました。僕の中では名作中の名作の絵本なのに。

そのほかのサイトで、中古品の出品も探しましたが、とうとう見つけられませんでした。

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まあ仕方がない。あの里山の風景は、手元にはっきりと置いておくよりも、あいまいなまま心に留めておく方が良いのかもしれない。

あまりにも早く簡単に辿り着いてしまう答えというのは、本当に求めていた答えなのだろうか。少し遠回りしたり、戸惑ったりすることで見えてくることもきっとある。

気持ちを整理するため、そう自分に言い聞かせます。

すると、不思議なことに「欲しいものはそんなに簡単に手に入るものではないんだよ」「ひたむきにがんばることも大事なことだよ」「そうすることで大切なものに出会えることもあるんだよ」「きっと大丈夫だから」「お月さまは見ているから」と、やさしい心のフラが諭してくれているように感じました。

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そんなフラが過ごしている里山の風景を、フラのような心の強さを、僕は今でも追いかけています。





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