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『ポストイクメンの男性育児』を読んで夫がめちゃくちゃ頑張ってることに気付いた

「GW旦那がずっと家にいる最悪」
「ありえへん、旦那が水でミルク作ってた」
「夫が風邪っぽいとか言ってるけど、黙れ自分でどうにかしろそして育児しろ」

 ママ友さんから無限に夫の愚痴が聞こえる。出産前は仲良し夫婦だったはずなのに、かつての姿はもうない。パパはいつの間にか「むしろいない方がいい存在」となってしまっている。お金だけ稼いできてくれたらいいのかもしれない。
 一方でこんな声も聞こえる。

「夫に預けて今日は一泊ひとり旅。ゆっくり寝れるの最高!」
「旦那が料理してくれるから助かる〜」
「私がゴロゴロしてる間に夫がおむつ替えも離乳食もやってくれてた笑」

 幸い、弊夫は後者で、安心して赤ちゃんを丸1日任せられる。家事もやってくれ、料理はほぼ夫担当で毎週末1週間分の作り置きをしてくれる。

 私は純粋に疑問だった。パパがうざがられるケースと仲良く育児できるケースの違いは何なのだろう?


 大変興味深い本が出た。

 タイトルは、イクメンの次である「ポストイクメン」を掲げていて、本文中でポストイクメンの姿が語られる。しかしこの本はポストイクメンの理想像を語るだけの本ではない。今まで目を向けられてこなかった産後の父親にフォーカスし、父親の置かれてる状況やばいよ、と警鐘を鳴らしている。今、家事も育児もうまくやってる父親は相当ハイスペックでめちゃくちゃ頑張ってる可能性が高く、妻から不満噴出されている父親は本人も悪いかもしれないけど、知識なし・経験なし・支援なしで困ってるのかもよ、と気づかされた。

 著者は産婦人科医かつ産業医。最初は「パパもっと頑張れよ」と思っていたのが、実地で「パパが悪いのではなく、社会構造が悪いのかもしれない」と気付いていくのがリアル。自身はパパではなく、100%客観的に書かれているのが良いポイントだと思う。

●父親の三重苦

・知識なし

 女性ですら、妊娠してから妊娠中の身体の変化や胎児の成長などを『たまごクラブ』とか妊婦向けサイトを調べて初めて知るのに、ましてや男性は知る機会がない。妊娠出産に関するコンテンツは全て女性向けに作られ、女性向けにマーケティングされている。男性が知りたい内容を男性向けに読みやすい形で提供するものはない(著者は男性向け妊娠出産読本として、父子手帳を作ろうとしている)。

 知識なし、について本著では構造的な課題を2つ指摘している。1つは性教育の遅れ。もう1つは、妊娠出産に関わる専門家である産婦人科医と助産師が女性を対象としており、男性のことは今まで考えてこなかったこと。パパの専門家はどこにもいない。新米ママは困ったら助産師外来に行けるのに、新米パパは困っても専門家に相談することができない。せいぜい先輩パパである友人に話を聞く程度だ。それすらできない人も多いだろう。

・経験なし

 今のパパの父親は昭和型企業戦士で、父親=外で仕事、母親=専業主婦のケースが多い。また会社の1世代上でも子どもが小さい頃からバリバリ働き続けた男性ばかり。身近にロールモデルがいないなか、ママに「育休取って」と言われる。育休を取っても名ばかり育休で結局ママが全部やってたり、育休明けは仕事全振りで家事育児に時間を割かなくなったりする(ロールモデルとなるような身近なパパ社員が、定時上がりで保育園のお迎えをしたり、夕食を作っている話を耳にしていれば状況は変わるかもしれない)。

 そもそも赤ちゃんを見たことも触ったこともない。これはママも同じで、ママの方が親戚や友人の赤ちゃんに出会っていたりすることが若干多いかもしれないが、新生児を前にして何をどうしたらいいのかわからない。抱っこの仕方もわからない。
 里帰り出産をされると、最初からママとパパの経験値の差が大きく開いてしまい、ママから見たら常に劣等生となってしまう。

・支援なし

 父親は母親を支援する側である。
「産後のママはボロボロだから1ヶ月寝かせてパパが家事やってね」
「夜赤ちゃんが泣いたら、ママは授乳で大変だから、パパも起きてミルク作ったりおむつ替えしてね」

 同時に、父親は働き続ける。育休を取っても数週間~数ヶ月で終わることが多い。育児はずっと続く。「育児と仕事の両立」は女性専用ワードではなく、男性も同じ状況のはずなのに、男性が「育児と仕事を両立してます」とは言わない(少なくとも私の周りでは聞いたことがない)。
 仕事で過剰なストレスがかかるとうつになるように、仕事+家事育児で過剰なストレスがかかるとパパもうつになる。父親の産後うつ、という一見変なワードだが、実際起こっているらしい。

 しかし父親には支援がない。詳細は本著に譲るが、国の法律(母子保健法)からして妊娠出産時に父親の存在を想定していないし、産婦人科医や助産師の仕事は女性を対象として発展してきた。
 見たことも触ったこともない赤ちゃんの育児が始まり、ママもパパもしんどくて困って当然なのに、ママには産後うつスクリーニングや助産師外来、助産師訪問などの支援があり、パパにはない。ママの支援でさえ十分とは思わないけど行政サービスには限界もあり、パパの支援までしてる余裕はない(もしそこまでできる自治体があれば子育て世代がたくさん移住しそう)。


 本著ではもっと詳しく解説されているが、ここまで見てきたように、父親は知識なし、経験なし、支援なしの三重苦を背負っている。
 この状況でも自分で勉強して知識を取ってきて危なくない育児をし、自分のことより赤ちゃんのお世話を優先し、支援を受けずとも元気にしているパパは相当ハイスペックかもしれない。
 逆に水でミルクを作ってしまうほど知識のないパパ、赤ちゃんと遊ぶといいながら放置して自分は昼寝してるパパ、メンタル死にかけてるパパは、単にパパが悪いと決めつけるのではなく、何かがおかしい、夫婦だけで解決できない問題があるのかもしれない

●父親1.0→2.0→3.0

 本著では父親1.0, 2.0, 3.0の姿が描かれている。ポイントは、育児と仕事の仕方に両性の合意・納得があるか、だと思う。本著に触れられている内容から少し踏み込んで、下表のように整理してみた。

・父親1.0 昭和型企業戦士

 解説なしで想像がつくと思う。父=仕事、母=育児の時代。

・父親2.0 イクメン

 本著ではイクメンについて「母親化した父親」、「仕事はある程度こなしつつ、平日の育児分担から休日の遊びまで、育児にかなりコミットをする父親像」と述べられている。イクメンの言葉が出てきたのは2007年頃らしく、今の赤ちゃんを抱える父親というよりは、今子どもが小学校高学年~中学生くらいの父親を指しているようだ。
 「母親化した父親」にまでならなくても、家事育児をする父親は徐々に増えてきて、今ではもう父親が一人でベビーカー押してても抱っこ紐に入れてスーパーで買い物していても何ら違和感がない。

 本著では女性の働き方について触れられていないが、イクメンとセットになる女性はまだパートやゆるキャリが多く、バリキャリはレアキャラだったと推察する。たとえ夫がイクメンだったとしても、女性がキャリア全振りで生きるにはかなり勇気がいったはずだ。現に、上の職位ほど女性は少ない。

・父親3.0 分散型育児

 ではポストイクメンの姿は一体どのようなものか。著者は「誰もが(父親も母親も)育児と仕事を両立する」という形を描いている。父親も母親も、働きたいだけ働いて、育児したいだけ育児して、手が足りない分は外部サービスなり親なりを使う。父親と母親は、仕事でも育児でも対等な
 父親でも母親でも、仕事:育児=90:10, 50:50, 20:80 など、いろんな配分が許されるようになった方がいい(仕事:育児=100:0, 0:100は親としてアウトだと思うので書かなかった)。女性の時短勤務が難なく認められるように、男性も時短など仕事の手を緩める選択肢を取ってもいい。

●父親3.0が増えるために

 本を読んでなるほどと思いつつ、私のママ友さんの周りでは割と父親3.0が当たり前なのでは? という肌感覚だった。Twitter上でアンケートを取ってみると下図のような結果だった(N=177)。父親2.0と3.0が拮抗している。



 父親3.0となる前提条件は、父親が母親と同じレベルで育児できること、つまりパパ丸一日ワンオペができることだ。そして今の父親3.0は知識なし経験なし支援なしのなか頑張っている。今の父親2.0を3.0にアップグレードするには、父親1人でどうにかしろというのはかなり厳しくて(何しろ三重苦だから)、母親からの働きかけが必要だと思う。

・仕事の仕方について話し合って合意が取れているか
 復職したら家事育児の分担はどうするのか。
・安全に育児するために情報共有をこまめに行っているか
 まだ寝返りしない赤ちゃんをソファの上に置いたらなぜか落ちるらしいよ、と話題にするとか。ミルクを70℃以上のお湯で作るのは殺菌のためらしいよ、とか。
・赤ちゃんと遊ぶときにしてほしくないことを共有しているか
 YouTube見せっぱなしにしない、赤ちゃんがぐずってるときはスマホいじらない、とか。 

 また、父親と母親ではえてして目線がズレている。母親は赤ちゃんファーストなのに対し、父親は大人の都合に赤ちゃんを合わせようとするケースが多い。赤ちゃんは難しい存在で、多少無理をしても大丈夫だったりするけど、些細なことで死んでしまうこともある。目線のズレについて夫婦で話して、それぞれ自分が重視したいことを話せば折衝できるだろう。

●弊夫の場合

 冒頭にも書いたように、弊夫は家事育児カンペキでとても助かっているが、本著を読んで弊夫がスーパーハイスぺキャパ無限大体力ありまくりマンだから成り立っているのであって、決して全パパがそうはなれないし、パパが悪いだけじゃなく社会構造が悪いとわかった。
 とはいえ私も何もしていないわけではない。最近、週次家族会議で小さなことも相談している。たとえすぐ解決しなくても二人の議論の俎上に乗せておくことで、目線が合う。週次家族会議はおすすめ。

 また、うちは在宅勤務が多い夫婦だからなんとかなってるけど、基本外勤の人やエッセンシャルワーカーなど夜勤がある人は簡単には父親3.0になれないよな、と思ったりした。


 ということでいろいろ気づきがあったので、おもしろい本でした。読んでみようという方は↓からどうぞ(アフィリエイトはやってません)。


《終わり》

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