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2023大学ラグビー関東対抗戦:帝京対慶応義塾を簡単な数字で見てみた

みなさんこんにちは
各地域リーグも最終節ですね

今回は12/2に行われた関東大学対抗戦、帝京大学対慶應義塾大学の試合についてレビューをしていこうと思います

まずはメンバー表です

次にスタッツ

それでは順番に見ていきましょう


帝京大学のアタック・ディフェンス

帝京大学のアタックシステム

帝京は普段通り強烈なFWのキャリー、BKの展開力を軸にアタックを組み立てていましたね
アタックをするエリアもどちらかというと満遍なく分散させており、相手からすると「このエリアを抑えれば負けない」というディフェンスの方針が立てづらい強いアタックをしています

ただ、今回の試合ではスコアほどは安定したアタックをできていなかった要素もあるかと思います
スコアが開いたのもアタックがバチバチハマっていたというよりかはそもそものポゼッション自体に差があった結果のように感じています

帝京のアタックは基本的に極端なすれ違いを狙うというよりかはFWの強いキャリアーが前に出て、李選手と井上選手がアタックにテンポと勢いをもたらして展開してフィニッシュするという形が多いかと思うのですが、今回の試合では慶應義塾がディフェンス面で強いプレッシャーをかけてきており、モーメンタムの土台となる「FWで前に出る」という要素が全面に押し出すことはできていなかったように見えました

後ほど数値として出しますがポゼッションとしてはおそらく慶應義塾の倍近くはボールを持っており、極端にハンドリングエラーなどのミスは多くはなかったことからかなりの時間ボールを持つことには成功していたと思います
そのポゼッションとは対照的に、結果的には「54点しか取ることができなかった」のは慶應義塾の熱心なプレッシャーがあってこそかと思います
慶應義塾はラックに対してプレッシャーをそこまでかけてこなかったので、ターンオーバーされたりアタックが継続できなくなったりといったシチュエーションが少なかったのも要因かとは思いますけどね

一方、相手の勢いよく前に出てくるディフェンスに対して、パス一つで切ったりすれ違いを生み出すようなアタックはうまくいくことが多かったように思います
特に印象に残っているのは前半に生まれた尹選手のトライの場面で、江良選手の1パスで相手を完全に切り、ラインブレイクからトライに繋げたのは圧巻でしたね
江良選手の万能性も相まって帝京のアタックにさらなる脅威をもたらしていたように感じました

また、12番の大町選手が1stレシーバーとしてアタックラインに立っていたこともあったのはアタックの面で大きな影響があったように感じます
基本的に10番の井上選手が1stレシーバーに立っているわけですが、井上選手はどちらかというとパスを安定して回すことに注力している印象があり、自身で積極的に仕掛けるタイプではありません
一方大町選手はCTBを務めている攻撃性とSOをこなせる器用さがあるため、ポッドとしてボールを受けることもパサーとしてボールを受けることができます
大町選手が立っているだけで1stレシーバーの段階でディフェンスに対して選択肢を押し付けるkと尾ができるわけですね

試合を振り返って戦略面で考えると、後半にかけてキックが減っていたのは当然の帰結だったかもしれませんね
慶應義塾はそもそもハイボールを戦略に組み込んでいるのでハイパント系統のキックに対して追いかける側としても迎える側としても強みがあり、今回の試合ではNO8の冨永選手をボックスエリアにが位置していたりとかなり中盤〜後ろのエリアにおける対策を立てていました
そのため何度か蹴り込んでいた高めのボールも比較的安定したキャッチングをされており、効果的なボールにはなっていなかったように思います

また、アタックのテンポに関していうと慶應義塾側が極端にプレッシャーをかけてくるシーンが少ないこともあってか2人で完結できていたシーンがほとんどでしたね
後半に至っては8割方2人以下で完結しており、李選手の判断でテンポを変えたシーンもありましたが基本的にはクイックでボールを出すことに成功していました

帝京のキャリー

帝京のキャリーはどの選手も強烈でしたね
個人的に特に脅威であると思っているのはバックローの3人の選手で、今回は特に8番の延原選手が目立っていたように思います

帝京のFWの選手はキャリーのクオリティが高く、コンタクト場面で刺さられることが少ないように感じています
体の強さに合わせて使い方のうまさも兼ね備えているので、ただがむしゃらに前に出るだけではなくラックを安定させることのできるようなボディコントロールをすることができています

バックローの選手は今回の試合の中では特に目立って強さとうまさが際立っており、相手を弾いてさらに前進を図ることもできていますし、余裕を持ったボディコントロールで次のアタックにスムーズにつなげることができていました
中でも青木選手は大学3年生とは思えないほどの落ち着きがあり、最後まで相手を見ながらコンタクトをしてボールをうまく持ち替えてオフロードを繋いだりとハンドリングにも優れた一面を見せていました
青木選手ほどのキャリアーになると上にタックルに入ると確実に弾かれるので、下に入らざるを得ないというのも大きいかもしれませんね

キャリーの回数を見ていきましょう
前後半合わせて133回のキャリーが生まれていますね
慶應義塾のキャリー数である69回と比べるとほぼ倍近くの回数となっており、ポゼッション的にも圧倒していたということができるかと思います

細かく見ていくと前後半で41回の9シェイプでのキャリーが生まれています
キャリー全体のうち1/3程度を占めているわけですが、試合を見た印象ではもう少しこのポッドでのキャリーが生まれていたように見えました
もちろん帝京らしいボールを散らしたアタックが随所に見えましたが、あくまでも印象ベースで言うともう少し9シェイプでアタックをしていたように感じたので、少し意外でしたね

一方10シェイプでのキャリーが合計16回生まれています
先ほど挙げた9シェイプと合わせると全体の中で60回弱がFWのポッドでのキャリーとなっているわけですね
傾向的には帝京らしいアタックであると感じるとともに、「それ以外のキャリーで70回強なのか」と思う数値でもありました
この辺りの比率にも帝京らしさを垣間見ることができるかもしれません

シェイプ外のキャリーを見ると試合全体で47回のキャリーとなっており、エリア的には22回が中央エリア、25回がエッジエリアとなっています
傾向的には若干外方向のエリアが多いことから、意識的にも全体的に外がかりなアタックをしていたと言うことができるかもしれません
(外を使わないチームは比率的にもっと中央エリアに偏る)

帝京のパス

帝京のアタックの魅力にはキャリーの強さの他にも「パスの多彩さ」という点も挙げられるように感じています
BKの選手のハンドリングスキルもそうですが、FWの選手の器用さがそれを成す根幹になっています

特にわかりやすい部分で言うと一般的には「スイベルパス」と呼ばれるパスの種類のうまさが際立っているでしょうか
バックドアと呼ばれる配置的に後ろに立っている選手へ深く下げるように放るパスのことを指すのですが、帝京の選手はこのスイベルパスのスキルのクオリティが平均的に高く、特にバックファイブの選手は姿勢を変な形にすることなくこのパスを放ることができる器用さを兼ね備えています
他大学で言うと早稲田の佐藤健次選手などが「うまい」選手として挙げられるかと思いますが、あくまでも一個人としてのうまさに限られており、チーム全体の質という点で考えると帝京は日本で頭一つ抜き出ていると思います

また、BKの選手のパスも光っていますね
アタックシステムの項目でも述べたように、12番の大町選手などはCTBらしいキャリーを見せる一方でパサーとしても優れており、ショートパス・ロングパス・インサイドパスと様々なパスを状況に応じて使うことができる選手でもあります
その他の選手も長短の投げ分けや状況判断に応じたパスの投げ分けができており、アタックにバリエーションをもたらしていますね

数値的・量的にパスを見ていきましょう
全体で216回のキャリーと、キャリー・パス比としては2:3に比較的近い数値を示していることがわかります
比率的には帝京のアタックは一般的なものとそう大差ないということですね

しかし、よく考えると200回以上パスを積み重ねていく中でハンドリングエラーなどのミスがが10回程度しかないというのは驚愕です
もちろん全てのパスが効果的なものとは限らないと思いますが、それだけミスをせずにアタックを継続することができている証左かと思います

細かく見ていくとラックからのパスは52回が9シェイプ、37回がBKの選手へ回っていることがわかります
生じたラックからのパスのうち6割程度が9シェイプへのパスになっているというわけですね
BKの選手へ供給されたボールは22回が10シェイプへ、29回がバックスライン上でのパスワークとなっており、今回の試合では結構な数が10シェイプへと渡ったということができるかと思います

ボールの動きを考えると、もちろんBKの選手間でスイベルパスも行われているので一概には言えませんが、数値的にはバックスライン上ではSOの選手から平均して2パスの範囲でボールが動かされているということも言えるかもしれませんね
(37回のBKへの展開ー22回の10シェイプへのパス=15回はSOから外のBKの選手へのパス)

帝京のディフェンス

体の強さが際立っている帝京の選手ですが、今回の試合ではディフェンスの堅さも示す結果となりました(タックル成功率95%程度)
慶應義塾のアタックシステムがそこまで複雑ではなくアタックが少し単調になっていたということも影響しているとは思いますが、脅威的な数値です

帝京の選手はタックルそのものの質が高く、相手の下半身に入り勢いをただ受けるのではなく勢いを流しながら自分が優位な姿勢をとるということに長けている印象で、タックル全体を見ても相手に上に乗られるシーンはそう多くはなかったように感じています
うまくいけばそれに合わせて青天させる感じですね

一人でも相手を倒し切ることができるので、ダブルタックルに入った際などは相手の勢いを一人目のタックラーが殺し、二人目が強くバインドをして相手陣方向に押し返すという「理想のダブルタックル」を完結させるシーンが多かったように思います

ゴール前では勢いを使って押し切られるシーンがありましたが、どのエリアにおいても相手に一方的なゲインを許さず、素早いセットでディフェンスラインを揃えるといったディフェンスの基礎の部分でのクオリティの高さを改めて見せた試合だったように感じました

慶應義塾のアタック・ディフェンス

慶應義塾のアタックシステム

今回の試合では慶應義塾のアタックはいつもに比べると少し淡白な要素があったように思いました
PuntやBoxも多用はしていましたが普段のようないやらしさはなく、戦略的に相手を上回ろうとして使ったというよりかは「決まりごとだから」という使い方をしていたような印象です

今回はSOに普段入っている山田選手が欠場しており、その他にもCTBの永山選手がいなかったりWTBの佐々選手がいなかったりと普段とは違うフォーメーションで挑む試合だったように思います
その中でどのような試合運びをしていくのかが今回の試合での見どころでした

結果として、数値的な話に帰着してしまうのですが、そもそものアタックの時間がそこまで取れなかったように思います
後述しますがキャリー数から逆算したポゼッションは相手の半分となっており、ピック&ゴーや意図的ではないキャリーも一定数生まれていることから、そこまで意図的なアタックを継続することはできなかったのではないかと推測することができます
何回ポゼッションが発生したかまでは記録にとることができていないのですが、ハンドリングエラーなどによるターンオーバーの少なさ、24回のキックインプレーといった要素から考えると、各ポゼッションでそこまでフェイズを重ねることはできなかったのではないかと予想できます

アタックのシステム的な面で語ると、今回の試合では9シェイプに偏ったアタックをしていたようにも見えました
10シェイプも起きていましたが、フェイズを重ねる中でのポッドアタックというよりかはラインアウトからの1stフェイズで実行されたアタックシェイプという要素が強く、意図的にアタックエリアを散らしている感じではなさそうでした

後述しますが、戦略的な組み立ての中で生まれたパスのほとんどが9シェイプへのパスとなっており、アタックに奥行きや幅を持たせるような類のパスはほとんど見ることができなかったように思います
Otherに含まれるようになったパスが多かったのもその一端を担う証拠かと思います

ただ、その中でもキック戦略の部分では帝京に対抗することができていたように思います
元々PuntやBoxからの再獲得を狙ったりプレッシャーをかけていったりとハイボール関連の戦略が見て取れる慶應義塾のアタックですが、今回も一定数はハイボールからの良い流れが見られており、特に14番の大野選手をはじめとしたバックスリーのメンバーは再獲得などに貢献していたように思います

ただ、難点としては「そもそものポゼッションが少なかったこと」「ハイボール戦略以外の突破口が見当たらなかったこと」などが挙げられ、効果的なラインブレイクもハイボールから生まれたもののみという結果になっていました

慶應義塾のキャリー

先述したようにポゼッションで圧倒されており、キャリー数も試合通じて69回となっています
そのうちの10回がピック&ゴーによって生まれたものであることを加味すると、セットピースやブレイクダウンが起点となって実行されたパスを介したキャリーは60回にも満たないということになります

回数を見ていくと9シェイプが最も多いキャリーの種別で、33回のキャリーと全体の半数近くを占めています
試合を通じて見えた印象としてもかなり9シェイプに偏ったアタック戦略を立てているように見えたので、印象通りではありますね
ただ、セットピースからのパスを受けたキャリーの一部も含んでいるため、ジェネラルアタックの中で9シェイプを意図的に組み立てた回数はもう少し減るかと思います

それ以外のキャリーを見ていくと実は9シェイプでのキャリーやカテゴライズの難しいOtherでのキャリーを除くと、実はピック&ゴーが言語化してカテゴリー化できるキャリーの中で2番目に多いものとなっています
回数としては10回となっており、後半の中頃に見られた敵陣ゴール前での連続アタックによって生まれた数値であり、試合全体の印象やピック&ゴーの生まれた状況から、いかに慶應義塾が帝京側のゴール前深くまで攻め込むことができなかったかを示す結果となっています

それ以外のキャリーに関していうとそれぞれが5回以下の回数となっているため、傾向として述べるには不十分な回数となっています
シェイプ外のキャリーも前後半合わせて9回とほとんど生まれていません

あえて述べるとすればキックリターンによるキャリーは少し多く、安定していたのが特徴ですかね
戦略的にNO8の冨永選手をボックスエリアに下げてキック処理を任せており、高い位置こそキープできなかったものの安定したキャッチとボールキャリーを見せていました

慶應義塾のパス

パスワークに関して見ても、普段の慶應義塾のアタックと比べても淡白な様相を示していたように思います
パスワークにバリエーションがないのが大きな要因ですね

前半でこそシステマチックではないOtherにカテゴライズするパスが多く生まれていましたが、後半にかけてパス回数そのものが減った結果パスを介してアタックをすることも少なく、キャリー・パス比も1:1とキャリーの比率が多くなっていることがわかります

回数を見ると前半は46回、後半は24回のパス回数となっており、パス回数がほぼ半分になっていることがわかります
前半に関して言えばOtherとしてカウントされたパスが26回生まれているため、多くのパスがシステム上生まれたものではないということができます

パスについて細かく回数を見ていくと、ラックから9シェイプへのパスは試合通じて19回となっています
ラインアウトからのムーブを合わせて考えると回数は20回を少し超えるくらいでしょうか
パス回数全体からOtherを除くとパス回数は39回となるため、ラックを起点としたアタックで戦略的に生まれたパスの半数近くが9シェイプへのパスとなっていることがわかりますね

ここでそれ以外のパスワークを見るとバックスラインへのボール供給は前後半合わせても5回、10シェイプへのパスが4回でバックスライン上でのパスワークが3回という回数となっており、こういった様相から戦略的に沿った展開アタックがどれだけ少なかったかが見えてくるかと思います
こういった要素が「慶應義塾のアタックにバリエーションが少なかった」ことを示す根拠となります

表裏を使っていることを示すバックドアへのスイベルパスも試合を通じて一回とアタックが平面的なものに終始していることを示しており、帝京のアタックの多彩さが全面に押し出された試合だっただけに、慶應義塾の淡白さが目立ってしまった試合展開だったように思います

慶應義塾のディフェンス

そんな中で目立って健闘したと言っていい要素として、ディフェンスの質が挙げられます
もちろん最終的なスコアを考えると満足できるものではなかったかと思うのですが、帝京とのポゼッションの差を考えると相手のアタックをかなり抑えることに成功していたということができるかと思います

これまでも上位校と当たる時は際立っていたタックルの精度の部分ですが、今回の試合の中でも一貫してタックルの精度を保っており、ミスタックルも多かった一方で200回以上のタックルを成功させています
帝京の多彩なアタックを受けてこの数値なので、その質の高さを窺い知ることができますね

目立ったタックラーでは2番中山選手、10番磯上選手、12番三木選手と言ったところでしょうか
ポゼッションで圧倒された試合の中にあって要所要所でしっかりと前に出てハードなタックルを見舞っていたのがとても印象に残っています

ただ、帝京のようにアタックの中に幅と奥行きを兼ね備えたチームと当たる時にネックになってくるのがディフェンスラインの中で生まれるギャップですね
攻撃的なタックラーが多いために時に一人のプレイヤーが突出することの多いディフェンスラインはうまくハマれば相手のアタックを大きく下げることができる一方で、すれ違いなどによって相手に大きなゲインを許すことになる諸刃の剣です
慶應義塾としてはその辺りのコントロールを今後さらに磨き上げていく必要があるかもしれません

まとめ

帝京がポゼッション的にもスコア的にも圧倒した試合展開となりました
慶應義塾としてはディフェンスで健闘したもののアタックのカードの少なさやポゼッションの低さが最後まで響きましたね

今回は以上になります
それではまた!

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