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UNIVERSIS番外編:「超速ラグビー」を考える -大学ラグビーに着目して-

みなさんこんにちは
クロスボーダーラグビーが面白い結果になっている今日この頃、いかがお過ごしでしょうか

2/6,7と日本代表のトレーニングスコッドが福岡で合宿を行っていましたね

それに伴うエディー・ジョーンズHC(以下エディーさん)のインタビューも各メディアで公表されるようになり、UNIVERSISでは以下の記事に着目しました

日本経済新聞で公表されたこのインタビューで、エディーさんは日本のラグビーが目指すべき方向性(であると思われるもの)について、以下のように語っています

――早いフェーズ(攻撃の段階)でトライを取るイメージですか。

「テストマッチでは4フェーズ以内のトライが75%を占める。それがガイドラインだ」

――あまり長く攻めず、勢いを失ったらキックでボールを捨てるのですね。

「ボールを取り返せるキックを使う。だからすごく質の高いキッカーが必要だし、空中や地上でボールを取り返す技術を向上させる必要がある」

同記事内の文章を引用

以上の記事を受けて、私は考えました

「超速ラグビーとは何か、大学ラグビーの現在地は」

今回のトレーニングキャンプには大学生が9人(最初は8人)招集されており、エディーさんが若手の育成や起用を重要視していることが見えてきます
ポジションも比較的バランスよく招集しているため、各ポジションに若い選手が入ってくる可能性も十分にあると思います

しかし、若手選手の所属する大学レベルのリーグではエディーさんの掲げる「超速ラグビー」に順応する土壌があるかどうかは不透明な部分があると思っています
公表されているスタッツはほとんどなく、各大学レベルでのデータ収集や分析にとどまっているのが現状かと考えています

そこで、今回試験的にですが大学レベルで「超速ラグビー」に応じたデータを収集し、コラムとして記事にすることに決めました

今回の分析対象としたのは大学選手権の準々決勝以上の7試合になります

それでは順番に見ていきましょう


トライフェイズから見た「超速ラグビー」

大学ラグビーでデータを取ってみた - 定義決め編

エディーさんはインタビューの中で「テストマッチでは4フェーズ以内のトライが75%を占める。それがガイドラインだ」と言うように述べています
これをシンプルに受け取って以下のような定義でデータを収集しました

  • ボールを獲得してからラックが4回形成されるまでにトライを得たものを「To 4 Phase」として集計する

  • ラックが4回形成された後に得たトライを「4 Phase +」として集計する

  • 「相手ゴールラインから敵陣22mラインまで」を”Zone A"、「敵陣22mラインからハーフラインまで」を”Zone B"、「ハーフラインから自陣22mラインまで」を”Zone C"、「自陣22mラインからゴールラインまで」を”Zone D"として4つのゾーンに区分する

  • ポゼッションの起点を「LO(ラインアウト)」、「SC(スクラム)、「KIP(相手キックのレシーブ)」、「TO(ターンオーバー)」「Other」に分類する

  • キックに関して自分たちが蹴ったボール相手に渡すことなく再獲得した場合は同一ポゼッションとして扱い、相手が一度ポゼッションを獲得した後に再獲得した場合は別ポゼッションの「TO」起点とする

  • フェイズで分けた2区分、ゾーンで分けた4区分、ポゼッションで分けた5区分のを掛け合わせた40パターンのシチュエーションでデータをまとめる

といった感じです

大学ラグビーでデータを取ってみた - データ収集編

それでは実際に収集したデータがこちらになります

そして、こちらをより簡略化したものが以下の表とグラフになります

ご覧の通り、あくまでも大学選手権の7試合に限っての話にはなりますが、テストマッチと同様にトライの75%がポゼッションの起点から4フェイズ以内に起きているということがわかります
これは正直意外な結果となりました

細かく見ていくと、一般的に語られている通りラインアウトからのトライが最も多いと言う結果になっています
全63トライに対して「To 4 Phase」が22回、「4 Phase +」が9回となっており、ラインアウト単体で見ると約71%が4フェイズ以内となっています
ゾーン的にはモールトライも生まれやすい”Zone A"からのものが最も多く、ハーフラインよりも前起点でのみトライが生まれていて、”Zone B”では4フェイズ以上かけて取ったトライが多くなるといった結果ですね

一方、ラインアウトに次いで多いスクラムからのトライはより多くの割合が4フェイズ以内のものとなっており、”Zone A"起点のものに限定すると全てのトライが4フェイズ以内となっています
”Zone B"起点のトライも生まれてはいますが割合としては少なく、このゾーン起点のトライは生まれにくいのかもしれません

キックレシーブからのアタックに関して言うと”Zone B"では4フェイズ以上、”Zone C"では4フェイズ以内のトライが主となっており、少しイメージを膨らませる余地がありそうです
今回は質的なデータ収集はしていないのでわからないのですが、もしかすると"Zone B"でキックを受けた時よりも"Zone C"でキックを受けた時の方が相手のディフェンスの前後関係が広くなっていたりディフェンスラインの数が少なくなっていたりするシーンが想像できるかもしれません

大学レベルに限定されることかもしれませんが、”Zone A”で生まれたトライのほとんどが4フェイズ以内となっている点も注目した方がいいかもしれませんね

ゴール前の攻防でFWがピック&ゴーを繰り返してトライを狙うというシーンはカテゴリーを問わずよく見られる光景かと思いますが、大学選手権の7試合に関して言うと恐らくそのパターンでトライを取ったシチュエーションは多くありません
多くのトライが4フェイズ以内となっていることからも、「ゴール前だからこそ意図的な崩しで素早くトライを取る必要がある」という示唆にもつながるかもしれませんね

キック戦略から見た「超速ラグビー」

大学ラグビーでデータを取ってみた - 定義決め編

エディーさんは先述した記事の中で「ボールを取り返せるキックを使う。だからすごく質の高いキッカーが必要だし、空中や地上でボールを取り返す技術を向上させる必要がある」と述べています

実際に「ボールを取り返すことのできるキック」、つまり再獲得を狙ったキックがどのようなものを指すかはわかりませんが、今回は試験的な調査という都合上、以下のような定義でデータの収集を試みました

  • 「キックを蹴った後に直接再獲得したもの、相手が獲得してから1フェイズ以内にターンオーバーしたもの、もしくは攻撃権を取り戻した時に最初にキックした位置よりも前でアタックを開始できるもの」を”Positive Outcome“として定義(表内の上から7個目まで)

  • 「キックを蹴って再度攻撃権を得た時、最初にキックを蹴った位置よりも後ろでアタックを開始することになったもの」を”Negative Outcome"として定義(表内の「Outcome - Go Backward)

  • 「蹴ったボールが直接・もしくはバウンドしてタッチに出たもの」を”Kick to Touch"として定義

  • 以上の3つに入らないものを”Others"として定義

  • キックから攻撃権を獲得するなどのアウトカムになるまでのフローの10区分にトライフェイズでも用いた4つのゾーン分けを組み合わせて50パターンでデータを収集した

Othersに含まれるものもある程度の数になってしまいましたが、暫定的な定義ということでご理解いただければと思います

大学ラグビーでデータを取ってみた - データ収集編

以上の定義をもとに、実際にデータを収集してみたものがこちらです

そして、データを集約したものがこちらの表とグラフです

Othersは少し取り扱いが難しいので、少し横に置いてデータを見ていきましょう

全体を見ると「結果的に自分たちに有利な状態でポゼッションを再獲得できた」ものは全体の約4割程度ということがわかります
それ以外に関してはポゼッションを獲得したもののゾーンを下げられてしまっていたり、相手に攻撃権を渡す形で一連のシークエンス=攻防が終わったものとなります

ペナルティのアドバンテージが適応された場合などに関してはOthersに入れているので、残り全てがネガティブな結果かというと一概には言えないと思いますが、あくまでも「シークエンスが続いている中で再獲得した際のアウトカムがどうなっているか」で評価しているものと思ってください

エディさんがどの程度の割合のキックをポジティブなアウトカムとして再獲得することを求めているかが正直わからないので、この後の分析はあくまでも想像の産物といった形にはなってしまいますが、大まかな感覚としては「どのエリアでもポジティブなアウトカムが多い」といったあたりが落とし所になるのかなと想像しています

データを細かく見ていきましょう
7試合で254回起きたキックインプレーのうち、16回は相手にボールを渡すことなく再獲得し、11回は相手にボールを獲得された後にターンオーバーをして再獲得をしています
こちらも多寡はわかりませんが、結果的にトライやさらに深くまで進出するようなアウトカムになっていることが多かったと思うので、再獲得がトライの期待値を上げている可能性はあるかと思います

ゾーンごとに見ると意外と”Zone D”からのキックは少なく、最も多いのは”Zone C”からのキックとなっています
他カテゴリーのデータはわからないですが、”Zone D"からのキックも全てが単純な脱出となったわけではなく、アタック位置をより前に出してシークエンスを終了することもできていたりと良くも悪くも大学生らしさが出ているというか、攻防の継続性といった部分でカテゴリーの特徴が出ているような気もします

”Zone B”と”Zone C"でキックがタッチに出る割合がガクンと減り、相手が蹴り返してきたりカウンターアタックを仕掛けてきたりと攻防が続く傾向にあるかと思います
”Zone C"ではポジティブなアウトカムも多く、キックを起点にエリアを獲得することができているということもできるかもしれません

一方その中で気になるのは、特に”Zone C"においてネガティブなアウトカム=アタック位置を下げられるシチュエーションも多く起きているということでしょうか
細かく見ていくと具体的にキックをした位置にもよるかもしれませんが、約1/3のキックでアタック位置が下げられていることがわかります
これはロングキックの蹴り合いで押し込まれたシーンやハイボールに対してロングキックで返されたりするシーンが該当するかと思われますが、この辺りの数値が変わってくると大学ラグビー全体の動きも変わってくるかもしれません

また”Zone A"に関していうとほとんどキックが起きていないということがわかります
キックはしても多くがプレー継続にはつながっておらず、トライにつながったようなものは1回限りだったと記憶しています
ラグビーリーグでは多く使われる敵陣深くでのキックですが、ユニオンにおけるこのエリアでのアタックオプションとしてはキックはかなり後の方に選ばれるということが見えてくるかもしれません

まとめ:UNIVERSIS的な観点から「超速ラグビー」をイメージする

エディージャパンのメンバーが招集されてからまだ日が浅く、試合もなければ一貫したメンバー編成もわからない現状、想像で埋められる範囲のデータを用いて今回は分析を行いました

近年のラグビーの戦略、特にアタックに関してはいわゆる「ポッド」と呼ばれるFWを中心とした集合体を用いてアタックを組み立てていくことが多くなっています
それに対するようにエディーさんは「ライブアタック」と呼称する恐らくはキャリアーに対してオプションを複数用意するようなアタックを組み立てていこうとしていることが予想されます

今回調べたデータが全て「超速ラグビー」を表現するわけではないと思いますが、一構成要素であるという点に関してはある程度自信を持ってみていってもいいと感じました

トライフェイズに関していうとアタックスピードを上げることができれば相手が崩れるタイミングを早くして素早くトライを取ることもできると思いますし、時間をかけてしまえば肉弾戦の部分で大きく上回ることができない限りトライを取ることは難しくなってくるでしょう

キック戦略に関しても「いかに優位に立った状態でキックを使ったシークエンスを進めていくか」といったところは重要視されるべきだと思うので、特にグラウンドの中盤、”Zone C"や”Zone B”といったあたりでうまくキックを使った組み立てをできるかというところが今後の日本ラグビーでは求められてくるかと思います

6月以降は代表の試合も入ってくるので、そこに大学生が絡んでくるかも含めて注目して見ていきたいですね

今回は以上になります
それではまた!




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