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2023大学ラグビー関東対抗戦:立教対帝京を簡単な数字で見てみた

みなさんこんにちは
だいぶ涼しくなってきましたね

今回は10/1に行われた関東大学対抗戦、立教大学対帝京大学の試合についてレビューをしていこうと思います

まずはメンバー表から

次にスタッツです

それでは順番に見ていきましょう

立教のアタック・ディフェンス

立教のアタックシステム

システムを語ることができるほどうまくアタックできていたような印象はなく、傾向的には9シェイプに少し偏っていたように見えました
前半は特にその傾向が強く、後半はそもそもアタック自体をさせてもらえなかった形です

10番の中選手がアタックを主にコントロールしていましたが、チーム全体としてどのエリアを攻略しようとしているかを見て取ることができず、9シェイプを当てては止められ、BK展開をしても中央エリアで回しているうちにプレッシャーを受けて止められといった感じでアタックの継続ができていなかったように見えました
一応複数回のラインブレイクが発生してはいますが、偶発的な要素が強く再現性は低かったように思います

その中で奮闘していたのは7番の羽間選手だったように思います
ボディコントロールに優れていてうまく相手をいなすことができ、相手との間合いの取り方も上手いことからしっかりと前に出ることができていました
惜しむらくはそのキャリーをその後のアタックにつなげることができていなかった点ですね

キックとしては戦術的に見える様相はそこまでなく、ある程度のエリアの取り合い以外はその場の瞬間的な状況判断やセオリーに沿ったキックをしていたように思います
ただ、Chipからラインブレイクを生み出すことに成功していたので、状況判断の精度が上がればもう少し相手のディフェンスにプレッシャーをかけることのできるようなゲーム運びができるようにも感じました

ラックに関しては少し全体的にテンポが遅めな印象で、ラックに少し人数をかけすぎていたようにも見えます
帝京はそこまでプレッシャーをかけていたようにも見えないので、ラックにかける人数を少し減らしたりとうまくコントロールをして、アタックラインに割く人数を増やしても面白かったかもしれません

アタック時のセットピースに関しては健闘することができていたかなと思います
もちろんミスやペナルティが起きることもありましたが、実力の離れたチームを相手にしている割には獲得率が高く、自分たちのボールとしてコントロールすることができていたように見えました

立教のキャリー

全体的に健闘はしていましたが、帝京とのフィジカル的な差は明確にあったように感じます
ダブルタックルに限らず1対1のコンタクトシチュエーションにおいても前に出ることができていないことが多く、ラック自体は安定してもうまくテンポを生み出すことはできていませんでした

一方でDefenders Beatenは試合展開に反して複数回起こすことができており、チャンスにこそつながらなかったものの相手のディフェンスをいなしたり外すようなシチュエーションは見せることができていたかと思います
雨天の中の試合だったので足場が悪かったことも影響しているかと思いますが、帝京を相手にこの成果は良い結果だと思います

キャリアーとしては先述したように羽間選手が良い動きを見せており、その他の選手もフィジカルに依らないキャリーであればうまくキャリーができていたように見えました

キャリーを細かく見ていくと、もちろんポゼッションの関係で60回のキャリーに止まってはいますが、その中でも23回のキャリーが生まれている9シェイプでのキャリーが目立ちます
ただ、9シェイプもアタックを安定させるためなのかそこで前に出るためなのか意図があまり見えず、ただプレッシャーを受けるだけになってしまっていたのが少し懸念点になるかと思います

立教のパス

パスワーク自体はシンプルで、細かいパスや表裏を使うようなアタックは見られず、中程度の距離のパスを一定のテンポで繋ぐような形をとっていたように見えます
ボールキャリアーがボールを持つ時間を増やしたり、クイックハンズと呼ばれるような細かいパスワークを増やしたりすることによってパスのテンポを変えることができるともう少し面白くなるかもしれませんね

回数を見ていくと、全体的なパス回数は65回とキャリー・パス比は1:1に極めて近い数値を取っています
そのため、少ないパスでキャリーが起きていることから、相手ディフェンスのプレッシャーをかなり受けていたのではないかと想像することができます
アタックラインを見ても少し浅めな印象で、「このフェイズではここまで回す」といった形が見えず、状況をひっくり返せるほどパスを回すことができていなかった印象です

細かいパス回数としては前半に9シェイプへのパスが目立っていたくらいで、全体を見るとそこまで特徴的な傾向はなかったように見えます
中でもOtherが少し多かったので、崩れたパスワークも一定数あったかと思います

立教のディフェンス

1対1のコンタクトシチュエーションでかなり相手に押されており、ダブルタックルを狙って複数人でディフェンスに入っても相手に前進を許したりと、自分たちのリズムでディフェンスをすることができる機会はほとんどなかったかと思います

タックル成功率自体は極端に悪いというような数値ではありませんでしたが、帝京は意図的にコンタクトシチュエーションを増やそうとするチームではなく、むしろかなり意図的に崩しを入れて相手との接触の回数を減らすようなアタックをしていたようにも見えたので、コンタクトの発生しない状況下でゲインを許していたと思います

また、ゲインを切られた後のディフェンスに関していうと改善の余地があるように見え、FBなどバックフィールドに立っている選手がカバーとしてディフェンスをしようとしている際にランナーの前に立ってしまい、帝京側にオフロードパスやシンプルな内返しのパスを許したりとチャンスを広げられてしまうような動きになってしまっていました
誰がどの選手をどの位置で抑えるかというあたりを明確にすると良いのかもしれませんね

帝京のアタック・ディフェンス

帝京のアタックシステム

帝京はそのフィジカルの強さが強調されることが多いですが、今回の試合で目立ったのはそのような力押しのプレーではなく、全員が自分の役割を明確にする「堅実なラグビー」をしていたように思います

特に気になったのは10番に入っていた井上選手のゲームメイクです
最初のトライに繋がったシチュエーションでの動きが全てを物語っているかと思いますが、15番の小村選手がディフェンスを外してビッグゲインをした時に井上選手は首を振って周囲の状況を確認しており、無理にフォローについていこうとする動きを見せていませんでした
小村選手のビッグゲインでキャリーが生まれた後、井上選手は堅実に次のフェイズに備えてポジショニングをしており、その後のトライに結びつくような動きをしていました

また、両LOに入っていた岡選手・本橋選手の動きにも注目していて、キャリーから無駄に繋ぐようなことはせずに確実なラックメイクをしており、自分の役割を淡々とこなしていたように見えます
スイベルパスの質も高く、相手選手に認知的負荷をかけることができていました

これらのことから、帝京のラグビーはお互いの信頼関係をもとにどの選手がどの役割をこなすかがかなり明確に規定されているような印象で、自分の仕事を確実にこなすことを意識しているように見えます

おそらくは積み重ねてきた練習量に依るところが大きいかと思いますが、下位校を相手にしてもこのクオリティを保つことができているあたりに強さの根源を感じました
実力に差があるチームの戦いになると、実力で上回るチームは無理に繋ごうとしたり普段ならしないようなプレーにチャレンジしたりする傾向もあるかと思うのですが、帝京は全くそういうことはなく、自分たちがやるべきことをやり切っていたように思います

アタックのシステムに関していうとSOの井上選手がゲームコントロールをしながら全体的にボールを散らしており、エッジに7番の青木選手をおいたりとどのエリアでもキャリーに優れた選手が立っているため、グラウンドを幅広く使いながらも全てのエリアでゲインやラインブレイクを生み出すことができるような状況を作り出していました

また、縦軸でグラウンドを捉えてもどのゾーンからでもアタックをすることのできるバリエーションが良かったと思います
特に自陣からのアタックに関しては相手を見ながら井上選手がボールを散らしてエッジでビッグゲインを生み出すこともできており、安易にキックに走らないところもアタックに面白みを出すことのできている一要因に感じます

あとはシンプルにスクラムが綺麗でした
細かいスキルのところは全くわからないのですが、スクラムを組んでいる8人のパックの姿勢がとても整っていたような印象です

帝京のキャリー

強烈といえば強烈なのですが、理不尽な体の強さに依るものというよりかは一人一人のスキル、練習量に裏付けされた「上手いコンタクト」をしているように見えます

相手に対して意識的に真正面からコンタクトをするシーンはそこまでなく、パスを使ってコンタクト位置をずらしたり、パスの選択肢を残しておくことで外側から被ってディフェンスを狙う選手の動きを抑えて1対1のシチュエーションを作り出したりと、コンタクトに持ち込む前の動きも非常に優れている印象です

またコンタクト時の動きに関しても、腕や上半身をうまく使って懐にはいられないように体をコントロールしており、単に相手を弾き返すというよりは相手の強い姿勢に対して強い姿勢で向き合うというシンプルな構造になっています
立教のタックルの質にも影響を受けているとは思いますが、そのシンプルな体の使い方によって足にコンタクトされることが少なく、最後まで前進を図ることができるというわけですね

その中でも強烈なキャリーを見せていたのは7番の青木選手でした
3人に囲まれても安易に倒れることなく上半身の力を相手を外して安定した状態でラックにつなげることができており、ブレイクダウンワークも丁寧なのでその後のアタックへのつなぎがスムーズだったように思います
走力にも優れているため、シンプルな1−3−3−1の構造の中でエッジに立つ役割を果たしており、相手のバックスリーの選手との身体能力上のミスマッチを生み出して優位に立つことができていました

キャリーの回数を細かく見ていきましょう
95回生まれたキャリーのうち、9シェイプでのキャリーは22回と意外と少ない数字となっており、10シェイプでのキャリーが一般的な数よりも多い18回となっています
このことからもSOに入った選手がうまくキャリーエリアを散らしていることが見て取れますね

シェイプ外のキャリーは前半が11回で後半が16回となっており、内訳は中有王エリアでのキャリーが10回、エッジエリアでのキャリーが17回と少し外寄りのキャリーをしているということができます
様相としては前半は中央エリアでのキャリーが多く、後半は圧倒的にエッジエリアでのキャリーとなっている感じですね

つまり、前半の相手の動きから後半のアタック傾向を変えているということがある程度想像できるかと思います
実際、試合を見ていた印象でも後半に入って外に回すことが増えたような感覚で、特にキックオフレシーブのキャリーで生まれたラックから10シェイプを挟んで外に展開したりと、自陣深い位置からも積極的に外に回そうとする様子が見受けられたように感じました

Otherに分類されるようなキャリーも一定数生まれてはいましたが、あくまでも定義的に一般的な項目に入らないというだけで、崩れたシチュエーションでのキャリーや意図しないキャリーというのはほぼなかったように思います

帝京のパス

複雑なパスワーク自体はそこまでなく、一般的なパスワークを組み合わせて様々なエリアでのキャリーを誘発しているような形に見えます
パス回数こそ157回とかなり多い数値とはなっていますが、ポッド内でのパス交換やバックドアを用いたパスワークはほとんど見られておらず、シンプルなパス・シンプルなキャリーで堅実なアタックをしていたような印象です

その中でも特に注目したいのはLOの岡選手・本橋選手から生まれるスイベルパスで、回数こそ全体で片手で数えられるような回数ですが、その質は大学レベルではかなり高い水準を誇っているということができます
スイベルパスはうまくできないと単純に下げるだけで相手のプレッシャーを受けてしまうことにも繋がりかねないパスワークですが、両選手のパスは質が極めて高く、自身の体の向きは相手と正対してキャリーの選択肢を残し、前進する勢いを殺していないことで相手が容易に横方向へ移動することを妨げています
もちろん後ろに立つBKの選手のもらい方もかなり上手いとは思いますが、その一つのパスで相手を切ることができるのはこのスイベルパスの質にあると思います

また、特徴的というか帝京の強さに寄与している要因なのは「シンプルにパスをミスしない」というところにあるかと思います
前後半合わせるとオフロードパスは10回生まれていますが、無理にオフロードで繋ごうとするシーンはほとんどなく、キャリーならキャリー、パスをするならパスと一つ一つのプレーの安定感があり、複雑な動きや無理なつなぎで「とにかくアタックを継続しよう」というよな気負いがほとんど見られていません
もちろんスキル的なクオリティの高さもあるでしょうが、「ミスをしないつなぎ」という点ではトップレベルに君臨しています

パス回数を見ていくと
ラックからは9シェイプに26回、BKの選手へ28回と傾向的にはBKの選手への球出しの方が多いという結果になっています
BKの選手がボールを受け取った後のフローとしては10シェイプへのパスが22回、バックスライン上でのパスワークが22回とバリエーションの豊富さを示す結果となっています

帝京のディフェンス

こちらに関しても数回のDefenders Beatenを許したものの高い質を誇っており、特に「前に出て止める」という点において安定感と圧倒する強さを見せています

ディフェンスライン自体はそこまで顕著に前に出る姿勢というのはなかったように思いますが、FWのポッドに対するディフェンスにおいて、一人目がまず相手の勢いを止めて二人目が押し返すというシンプルな一連の流れで立教のプレーをシャットダウンしており、その後に二人目の選手がラックにプレッシャーをかけるという基本的な構造がしっかりと構築されていたように見えました

タックルの質自体も一人一人が高いものを見せており、ダブルタックルに入れずとも一人の選手がコンタクトシチュエーションを完結させることができるため、周りの選手はラックを切って次のディフェンスにいくということが流れるようにできていました

一方で少し気になったのは相手のキックに対する戻りのところで、もちろん味方への信頼感というのもあるかとは思いますが、中盤に残っている選手の戻りが少し遅く、相手のキックの質によってはドンピシャでタックルを受けた場合に戻り切れるのかという懸念が見えてきました

まとめ

帝京がその強さを遺憾なく発揮した試合となりました
根底にある安定感と堅実性を簡単に見て取れる試合であり、スコアこそ開いたものの試合構造を見て撮るという点ではかなり面白かったように思います

今回は以上になります
それではまた!

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