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実録「上から書店員」09:パブロフの恥

いらっしゃいませ。

出版業界に約35年。フリー編集者で小説家の魚住です。編集者でありながらも本のそばに居たくて書店員をやっていましたが、今回は挨拶に関する小ネタです。

有象無象書店ホルス無双店で書店員をやっていた約3年間、一番発した言葉は「いらっしゃいませ」でした。

魚住は結構、声がデカい方です。いや、比べなくてもデカいです。自分では意識してませんが、声が腹から出ていてよく通ります。広い有象無象書店ホルス無双店で、お客さんがどの入口から入店されても見かけたら「いらっしゃいませー!」と腹式でお声がけはかかしませんでした。

接客業で出勤すると朝礼などでまずみんなでやるのが挨拶の発声練習です。
店長が言った後に続いて、店員が復唱するというもの。20代〜30代ぐらいの頃はバイトで行った不動産管理会社の朝礼がイヤでイヤで仕方なかった。
「なんでこんなくだらないこと毎朝しなくちゃいけないんだ」と、斜に構えていました。

が! いい歳になってくると一周回って面白くなってきます。それに、歳をとってくるとしばらく声を発していないと、突然喋った時に声がかすれてしょーもないことになるのですよ。だから、練習はしておいた方がいいと気づいたのです。

そして、二番目に言っていた挨拶は
「ありがとうございました」「またお越しくださいませ」
この二つはセットになってるのです。

お会計して、お買い上げの本や雑誌を渡して、「ありがとうございました」「またお越しくださいませ」で完結します。
「ありがとうございました」だけでも終わらないし、「またお越しくださいませ」だけでは感謝の気持ちがない。
上の句と下の句みたいなもんです。またはボケとツッコミかな。

えーっと…例えると、ルパン三世と銭形警部みたいな…。
いや、トムとジェリーみたいなもんかな。

違うなぁ。トミーとマツみたいな…。

いやいや、ジョン&パンチかな…だんだんワケわからなくなってきたな…。

とにかく、「ありがとうございました」と「またお越しくださいませ」は、切っても切り離せないセットなのですよ。

こんな、ジョン&パンチな挨拶(結局、ジョン&パンチかいっ!)を毎日毎日、一日中言っていたら、驚くべきことに本当に切り離せなくなってきたのです。

その現象は突然やってきました。

ある日、書店のお仕事を終えて、帰りにスーパーに寄った時のこと。
もう普通に何気なく買い物をして、レジで会計を済ませようとしていたのです。

レジのおばさん「○○円のお返しです」
お釣りを渡してくれる時の普通の会話です。

レジのおばさん「ありがとうございました」
私「またお越しくださいませ!」(かなりデカい声)

はっ!!!

これはっ!条件反射!!!

もう途端に顔が「かーーーっ!」と真っ赤っかになるのが分かります。
バカです。おバカさんです。
きゃー! なんて恥ずかしいんでしょう!!!
魚住、逃げるようにその場を立ち去りました。

店の人が言うのなら何の不自然でもない挨拶ですが、客の立場にいる者がいうのはチョー変なやりとりです。
それも掛け合いみたいになってしまった。
変な人間だと思われたに違いない。頭おかしいんじゃないかって。

うわー!うわー!
たまに行くだけの店だったらいいけど、毎日行くスーパーマーケットで「やらかした!」感が満載です。
「穴があったら入りたい」とはまさにこのこと!

ああー!もうやらないぞ。もう気をつけよう。
こんな恥ずかしいことない! 後悔しきりですわ。

だがしかし…私め、この後日……この条件反射をあと10回以上繰り返してしまうのでした。

もうっ、この条件反射って!
あたしゃ、パブロフの犬かよっ!!!

ありがとうございました。また、お越しくださいませ。


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