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住処とライフスタイルの考察

住宅のリサーチをした際に新築住宅産業を数字から考えてみたのだが、もう一つ大切なこととして、数値以外の要因からも考えなければいけない。

新築住宅産業はどうなるの?
https://note.com/usjm_arch/n/n98dec2cbd6ef?sub_rt=share_pw

今回は新築住宅の着工件数は、我々のライフスタイルがどうなっていくのかによっても大きくかわるのでそこも検討してみたい。

建築の仕事をしているとたまに「賃貸」と「購入」どちらが得かを聞かれることがあるけど、根本の問題は「どう暮らしたいか」である。住まいはそもそも損得で判断するものではないものだが、やはり我々の考えは変わったのか色々な視点で検討する。


1. 住まいから考える


ライフスタイルが今後どう変化していくか予想し、数値化ことは難しいので、博報堂生活定点より、住宅とライフスタイルに関わる内容を一部抜粋し、1998年から約25年間の変化で考察した。

・住むなら一戸建ての方がよいと思う(73.7% → 56.8%)
・住まいは便利なところよりも自然環境を重視する (17.5% → 5.8%)
・住まいは安全であることが第一だと思う 60%程度で横ばい

生活の豊かさを求めて、地方移住が増えているかと思いきや、むしろ生活の豊かさよりも「便利」さに主軸が置かれる傾向がみられる

・自分で家や家具などの修理、修繕(DIY)をする人の割合は25%強で一定

また住宅建設コストが上がってきているからと言って、自分でDIYするという人は増えているわけではない。(ここ20年で20%位単価は上がってるのに)

・自宅のインテリア・コーディネイトに興味がある (39.0%→28.0%)
・室内に観葉植物や鉢植えがある (51.7% → 27.9%)

生活の環境を豊かにしたいという意思が薄れてきているのか、もしくは環境を豊かにするのがめんどくさいのか。豊かな空間を作るという意識が徐々に減っていっているとも考えられる。
もしくは単純に生活コストに余裕がなく、そこまでお金をかけられないという考えかもしれない。

「住宅は住むための機械である」 100年前にこの言葉は批判を受けたが、色統計を読むと日本の新築住宅は「便利」な機械としての住宅を求める傾向が強くなっていることがわかる。

2. 家族から考える

携帯電話、スマートフォンが我々の暮らしを根本的に変えたことは間違いない。ではそのような機器が家族関係を大きく変えたのか。(スマホの普及は2009年前後より、比較は1998年と2008年、2022年とする)

・休日は出来るだけ家族と一緒に過ごしたい(緩やかな減少55.8% → 52.6% → 44.4%)
・個室よりも家族で一緒にすごすスペースを充実させたい(緩やかな減少49.3% → 42.1% →30.3%)

この数字を見ると家族関係が希薄化しているようにも感じられるが、一方で

・家族とよくおしゃべりをする (ほぼ横ばいの推移56.9%→ 54.8% → 55.3%)
・寝る以外の生活行動はリビング派が多数
引用:https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00401/00039/?i_cid=nbpnxr_index

などからは、家族との関係は希薄化しているとは言えない。スマホを持つと、容易に家族外にアクセスしやすくなり、家族関係が必要なくなるというよりも、同じ時間と空間を共有しながら個人と家族の時間を持つことが住まいに求められているのだろう。

3. 建築家の物件から考える

建築家が取り入れたことが、数年後部分部分でハウスメーカーの物件にも取り入れられることがある。例えば、土間空間もアウトドア好きの人のライフスタイルから取り入れられたりもしている。(建築家の意図としてはコミュニティの場としての土間空間だったが、ハウスメーカーで取り入れられるのは、機能的な役割が大きい。)

20年位前からの住宅特集を眺めているとリビング・ダイニングで大きなスペースを作るよりも、リビングとダイニングで分割することも多くなった
都心部ではリビング空間を持たない住宅も多くあり、その分ヌックスペースも多く作られるようになっている。ヌックをもうける住宅は今後主流になるかもしれない。(※建築家はヌックスペースとは言わない)
ただし、施工コストが上がり続けるなかでヌックスペースを設けるとなれば、建築家の物件のようにリビングスペースがなくなることも考えられる

4. 消費行動から考える

バブル期と比べ、「もの消費」から「こと消費」へ移行したと言われている。そして、「とき消費」や「いみ消費」、「エモ消費」などマーケティング業界から次から次へと新しい言葉が生み出される
もの消費が終わったかと言われれば、終わっているとも言い難いし、エモ消費などが主流になったかと言われればそんなことはない。こと消費に移行したかと思われているが、旅行やレジャー活動への意識が高くなっていない。
旅行にお金をかける https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/990.html

レジャーにお金をかける https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/991.html

実は消費行動からはライフスタイルが多様化しているだけであって、主流が見えにくいだけではないだろうか。また単純に生活コストが貧しくなっているだけとも考えられる。
ただライフスタイルが多様化しているがゆえに、ヌックが個人の活動がしやすく時代に合っているのかもしれない。在宅ワークは減ったと言えども、一定のニーズはあるし、土間空間のようにアウトドア好きの人には求められるなど、大きな空間の中で各個人が各々の時間を楽しめる場所が今後標準化する可能性がある

5.  結論

以上より、今後の新築住宅の動向として、

・「便利」を求める「住むための機械としての住宅」を求める傾向が今後も強くなる可能性がある。
・個人の居場所を持ちながら、家族と時間を共有できる場所(ダイニング+ヌック)が今後の標準になりうる。

という二つの軸が考えられる。
もちろん、都市部や郊外、地価、所得水準などによって戦略は大きく変わっていくだろう。
今後も工務店、ハウスメーカーさんと一緒に企画・立案していければとも思っています。


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