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彼女の奇妙な愛情

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誰からも愛され、誰をも愛する少女と、プラスにもマイナスにも振り切れない『普通』の少年が出会うお話。(2012年くらいに書いた小説の投稿)
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記事一覧

彼女の奇妙な愛情 #0

彼女の奇妙な愛情 #0

まとめ読みマガジン:

彼女の奇妙な愛情 または如何にして僕は心配するのを止めて彼女を愛するようになったか

0.彼女の奇妙な愛情

「愛しちゃってるのよ、この世界を」

 『一 愛子(にのまえ まなこ)』は言った。

 その時僕は、いったいどんな顔をしていたのだろう。

 秋のことだった。

 冬を予感させるような寒い日と、夏の名残を感じる暑さが交互に訪れる、それでものらりくらりと真冬へと進んで

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彼女の奇妙な愛情 #1

彼女の奇妙な愛情 #1

まとめ読みマガジン:

1.僕の尋常な日常

 チャイムが鳴って、思わず大きな欠伸が出た。

 流石に教師の前でそんな失礼をするほど、僕は図太い神経の持ち主ではない。慌てて噛み殺した。

 その日最後の授業だった。勉強が好きでも嫌いでもない僕であっても、いや、好きでも嫌いでもないからこそ、一日中授業を受けるという高校生のつとめはそれなりに疲労を覚える。

 特に今日は一週間の始まり、月曜日というこ

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彼女の奇妙な愛情 #2

彼女の奇妙な愛情 #2

まとめ読みマガジン:

2.僕の奇妙な非日常

 屋上での邂逅から数えて、翌々日。

 つまり僕が彼女から逃げて、翌日。

 僕の机の前に、非日常がやってきていた。

 一愛子が目の前にいる。妙にぷんすかしたような表情を顔に表出させて、隠すつもりもなさそうだ。

 今朝の僕は、昨日から感じていた不安のせいか、いつもと違って自分の体は早起きというものを実行してしまっていた。物を考えるのも不安で仕方な

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彼女の奇妙な愛情 #3

彼女の奇妙な愛情 #3

まとめ読みマガジン:

3.姉上の尖った牙城

 帰宅して。

 姉の部屋を訪ねた。

 僕には二つほど歳の離れた姉上がいる。仲は悪くない。かといって特別に良いわけでもなし。

 つまりは、普通ってこと。

 姉上は僕とは違い、聡明で、けれど変な拘りを持つひとだった。小難しいことを考えていると言うか、変なことばかり言うというか。

 たとえば、と例を挙げようとすれば難しい。具体的なエピソードを挙げ

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彼女の奇妙な愛情 #4

彼女の奇妙な愛情 #4

まとめ読みマガジン:

4.彼女の症状

 翌日、学校には暗い気持ちのまま登校した。

 暗いというよりも、もやもやしている。頭の中を靄が覆っているような、そんな感覚。

 結局、昨夜は眠りがとても浅かった。特に何か夢を見たという記憶はないが、何度も何度も途中で覚醒しては、無理やり眠ろうとしたことで、変に体力を消費してしまった。

 欠伸が何度も出る。目尻に塩水が溜まる。

 相変わらずもやりとし

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彼女の奇妙な愛情 #5

彼女の奇妙な愛情 #5

まとめ読みマガジン:

5.ニノマエマナコの世界

 翌朝、いつものようにベッドの上で目覚めた。

 寝ぼけ眼だけを動かして、周囲を眺める。パステルカラーの壁紙、適度に片づけられた室内。落ち着いた木製家具。本棚には適当な量の本が詰まっていて。

 我が家の、わたしの部屋だ。

 意識が覚醒してくるにつれ、色々と思い出されることがあった。

 今日が土曜日であることとか。

 土曜日だから授業はない

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彼女の奇妙な愛情 #6(終)

彼女の奇妙な愛情 #6(終)

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6.彼女の奇妙な愛情

 僕は自分のことが嫌いだ。

 気付けば自分のことを嫌っていた。

 自分のことが嫌いだからこそ、誰にも好かれるはずがないと信じている。

 普通であることが大嫌いだ。

 でも脱却する為の努力をしていない。

 ずっと座り込んで、他人を羨んでるだけだ。

 他人のことを、下から見上げて、見下している。それだけの醜い人間だ。

 僕は普通だけど、その

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