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短編小説 贅肉の繭にくるまれて
昼休み。すうっと、少し強めに風が立ち、わたしのランドセルに括り付けられた、風車がくるくる回る。窓から見下ろす、埋立地のグラウンドに砂埃が舞い、それが日に照らされ、キラキラと光っていた。
わたしの視界の隅には、ひらひらと教室の中を自在に舞う、綺麗な揚羽蝶。視線でそれを追って、捕まえようと掌を開き、右腕を精一杯伸ばすも、その蝶は蜃気楼みたく消えてしまった。
【贅肉の繭にくるまれて】
短編小説 魁! らーめん百景☆
《イラストあっきコタロウさま》
時は令和、世は飽食の時代。
永田町には鵺が住むとはよく言ったもので、身勝手な国会が新たに打ち出した摩訶不思議な法案『新国民健康保護法』は、衆議院で可決されるも、参議院で物議を醸しだしました。平行線の議論。提出議案の承認には時間を要し、業を煮やした『時の内閣』は、強行策をはかります。ある一定以上のコレステロール値を超えるメニューを提供する飲食店を取り締まる機関
短編小説 指を挿れてみた
それは月の綺麗な晩でした。
同僚のアケミちゃんを車で送る帰り道、ふいに魔が差して、指を挿れてみました。そうしたら今まで月日を重ねて、つちかった僕と彼女の分厚い友情に、人差し指ひとつ分の穴が空いて、そこからパリパリと歪な亀裂が入りました。
地声の低いアケミちゃんが発する甲高いファルセット。それが妙に耳についちゃって、こんな声も出すんだななんてぼんやり考えながら、ことに及ぶ夢うつつな夜。通販で
掌編 ボクっ娘らーめんガールともぐらくん
きみのことは見損なったよ。もぐらくん。
いいかい? 何度もぼくは言ったはずだよ。
ラーメン屋さんとはカウンター席こそ至高であり美学。狭いぎゅうぎゅう詰めの店内に、取材拒否の頑固な店主。そして長い行列と三位一体なんだ。
それをなんだい? テーブル席ならいざ知らず、お座敷だって? 嗤わせないでくれたまえ、もぐらくん。ぼくは断固そんな物をラーメン屋さんだなんて認めない。
確かに
掌編 パソ美とレン子
あのな、ぼくんちにある家具家電その他諸々にはな、基本その全てに名前が付いててさ、その全てが意思を持ち喋るんだ。
パソコンのパソ美、電子レンジのレン子、テレビのテレ夫、エアコンのフリーザ様、洗濯機のセンちゃん、縫いぐるみのもぐ次郎。どうだい? 笑っちゃうだろ? いい歳してさ。
一時期はみんなしてお喋りしてさ、随分賑やかだったかな。パソ美がヘソを曲げてフリーズした夏だって、レン子が沈
掌編 デートからエッチまで
今日はどこ行きたい? って聞いたら、「ホタルが観たい」ときた。いい歳した僕たち私たちは、笑ってしまうくらいに少年少女だった。
車で三十分、定光寺にあるホタルの里、ホタルより人のが多くて、なんだか凄く滑稽な気もするが、彼女は僕の汗ばむ掌を強く握って、夢中で宙を漂う微かな光を追い掛けた。
「結局、ちょっとしか見えなかったね」
行きは下りの、帰り道。全身汗だくになり、息も絶え絶えな僕ら