見出し画像

なんとか1kgでも2kgでも

やばいやばい、シンコがやばい——

シンコとはイカナゴの稚魚のこと。
神戸の春の風物詩〈いかなごのくぎ煮〉はこのシンコを使うのだが、近年漁獲量が激減しているのだ。

県の水産技術センターによると、まもなく始まる今年のシンコ漁は「漁獲量が激減した2017年以降で最も厳しい」とされ「危機的な状況」という。
1地点あたりの稚魚数は昨年比でいうと、神戸沖で17%、姫路沖で18%。
これ、本当に入手できるだろうか。

兵庫県のシンコ漁は、以前は安定して1万~2万トンの漁獲があったが、2017年に急に1千トンに落ち、それ以来ずっとその前後で推移している。
原因は不明だが、瀬戸内海の水質がきれいになりすぎたからだというのが有力な説。

僕が子供の頃の瀬戸内海は工場廃水が垂れ流しで、毎日赤潮が出るほどだったが、太平洋や日本海のような外洋ではなく周囲を陸地に囲まれた内洋だから、工場廃水だけでなく家庭排水もとにかくきれいにすることが求められ、「瀬戸内海環境保全特別措置法」なるものが制定された。
その効果でたしかに海はきれいになり、赤潮もほとんど見なくなった。

しかしそれと同時にシンコは激減し、特産の海苔も色落ちが目立つように。
海がきれいになりすぎて、栄養分がなくなってしまったのだ。
慌てて同法が改正され、今はやみくもに水質を向上させるのではなく、豊かな海を目指す法律になっている。

それでもまだシンコは回復していない。
神戸で発祥した〈いかなごのくぎ煮〉は今、瀕死の危機にさらされている。

僕が主宰するメンバーシップ〈まるごとフルコース〉メンバーには、希望すれば僕の炊いた〈いかなごのくぎ煮〉をプレゼントする特典を用意しているのだが、これがヤバい、実にヤバい。
4万トン近い漁獲があった1970年代のキロ単価は20円~90円だったというが、最近はなんと2000円超となっているのだ。

いやいや、高いのはまだなんとかなる。
いちばんの心配は、入手できるのかということ。
水揚げがある日には、浜の近くの鮮魚店やスーパーでは開店前から行列ができ、あっという間に完売してしまうことも。
あまりに不漁なため、以前は1か月以上あった漁期も近年は数日で打ち切られるから、この列に並びそびれると入手できない可能性もあるのだ。

なんとか1kgでも2kgでも手に入れて、うまい〈いかなごのくぎ煮〉をみなさんに味わっていただきたいところだ。
これぞ神戸、の味わいを一人でも多くの人に。

(2024/2/21記)

この記事が参加している募集

ご当地グルメ

この街がすき

サポートなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!