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長い歴史の中でいろんな青春の思い出をそっと抱いている

京都のロックバンド・くるりをよく聴く。
なかでもこの曲、結構好き。

京都の大学生
歌:くるり/作詞・作曲:岸田繁

四条烏丸西入ル 鉾町生まれのお嬢さん
えらいちゃんとしたカッコして 何処行かはんにゃろか?
夢にまで見たフランス 凱旋門をくぐって 巴里
目指すはモンマルトル パリジャンと待ち合わせ

うちの彼氏は北区の 役所務めの20歳
えらい旅行書買いこんで はりきったはった
今日もデートは左京区 大学近くの喫茶店
はよ大人になってくれ 原チャで来はったわ
冷めたブレンド尻目に カフェラテの泡にうずもれて
いつ別れを切り出そか 煙草でうらなってた

最後一本のマルボロを取り出して ジッポころんと鳴らして
ちりちりと音立てて 煙が出たならば さよなら

なんかちょっとほっとしたみたい
せんど泣いたら笑顔で バス待ってたら凍えそう
206番来たから とりあえず後ろに座った バス巴里まで 飛んでゆけ
ラララ シャンゼリゼ

ちりばめられたキーワードからつい推理するが、「今日もデートは左京区 大学近くの喫茶店」は、きっと〈進々堂 京大北門前〉に違いない。

***

大正2年、左京区の旧制三高(今の京大のことだ)の東に〈進々堂〉開業。
当初パンは先進地の神戸から仕入れて提供していたようだが、その後創業者は日本人初のパン留学生としてパリに学び、昭和5年、京大農学部横にパリで見たカフェを再現し新たに開いたのが〈進々堂 京大北門前〉だ。

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煉瓦造りの建物、店内もタイル張りのカウンターに長大なテーブルなど、どれをとっても重厚そのもの。
撮影禁止のため、ネット上の取材記事から借りた。

画像2©Holiday

「日本の将来を担う愛する学生たちにおいしいパンとコーヒーを」という創業者の京大生への想いは今も引き継がれ、いつ行っても店内には一人で読書や思索に耽る者、教授を交えて議論に熱を帯びる者。
今やパンがどうとかコーヒーがどうとかいう次元を超え、アカデミックな空気にどっぷり浸かってゆったりした時を過ごす店だ。

冒頭の『京都の大学生』では、この店で彼女が彼氏に別れを告げた。
彼氏にとっては苦い記憶を残す店になるが、それでもきっとまたこの空気を感じたくて足を向けてしまうに違いない。
長い歴史の中でいろんな青春の思い出をそっと抱いている、そんな店。

曲中、206番とあるのは市バス206系統のこと。
京都に詳しければ206と聞くだけで、店を出てから隣のバス停まで歩いたのだとか、家のある四条烏丸には向かわないバスなのに乗ったのだとか、強気な彼女の淋しさもずっしり伝わる『京都の大学生』。

***

ちなみに京都には有名な〈進々堂〉という同名のパン屋が営業していて、そちらはそちらでカフェも運営していたりする。
僕もずっとナゾだったが、ルーツは同じで、今は別法人なのだそうだ。

この記事を書いているさなか、先日あげた〈イノダコーヒ〉の記事へのコメントでねじりさんが〈進々堂 京大北門前〉に触れてくださってびっくり。
記事化を楽しみにしているとの声までいただき、急いで書き上げた。

(2021/10/1記)

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