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身体喜ぶ、自然のめぐみ定食

いつもの町を歩いていると、郵便局の角にたすきをかけた人が立っていた。
地域の集配を受け持つ局だから、頻繁に赤い車やバイクが出入りする。
たすきの人はどうやらその出入りをチェックしているらしい。

近所に大きなマンションがあって小さな子供も多いのに、配達員の運転はいつも結構乱雑で、危ないと思うことも少なくない。
レースかと見紛うほどに車体を傾けて華麗なコーナリングを決め、一旦停止もせず車道に合流していく赤いバイクもいる。
きっと近所のクレームで、たすきマンが遣わされたのだろう。

しかし抜き打ちではなかったらしい。
荒くれのバイクマンも、教習コースに初めて出た者のごとく、停止線の50cmほど手前で止まって左右を確認し、徐行で車道に合流していった。
1台出入りするたび、たすきマンはそれを手元の紙に書いていく。
こうして「安全運転がなされていた」という報告書ができるのだろう。

たすきマンのそんな無意味な活動を、僕が報告書に書きたい。
「今日は安全運転するようにと事前に伝えておいたおかげで『安全運転がなされていた』と報告書が書けてよかったと笑顔」って。

滑稽な茶番を尻目に先へ進むと、郵便局の裏側では大根の販売が。
近くの発達支援学校の生徒が販売実習をしているようだ。
きれいな大根が1本50円ぽっきり。
最近スーパーでは198円+税が相場なのでかなり安い。

いらっしゃいませ。
これください。
ありがとうございます。
50円は安いですね。
葉っぱはいりますか。
つけといてください。

スーパーにはない、そんなあたりまえのやりとりが心地よい。
それが生徒には自立の支援となり、僕には賢い買い物となる。
1本の大根が双方の思いを繋いだみたい。

たすきマンのおかげで、生徒の活動がさらに輝いて見えた。
無意味なたすきマンにも意味はあったということだ。
グッジョブ、たすきマン。

気分よく、ふだん覗かない魚屋に足を向けると、淡路産のアナゴが安い。
昨年来、量が獲れず高騰していたから、これは買いだ。

天ぷらにしようか、白焼きにしようか、蒲焼きにしようか、煮ようか。
見も骨も皮も柔らかいとされている淡路のアナゴがせっかく手に入ったのだ、味はつけず、グリルでさっと白焼きにしよう。

ほどよく焼けたアナゴは、わさびと塩をちょんとつけて美味。
弾力に閉じ込められた旨みは、灘の酒《福寿》との相性もバツグンだ。
もちろん大根もみずみずしいうちに。
身はふろふきに、葉は菜めしに、皮はきんぴらに。

身体喜ぶ、自然のめぐみ定食。
ごちそうさま。

(2023/1/13記)

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