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「万博リング」みたいなものは日本各地にあるので、しっかり吟味して(比喩的に)燃やしたほうがいいという話

僕の編集したムック『2020年代のまちづくり: 震災復興から地方創生へ、オリンピックからアフターコロナへ』が今週辺りからAmazonと全国の本屋に並んでいる。都市開発とか、地方創生とかに関心のある人はぜひ手にとってもらいたいのだけど、以前と同じように今日もこの本を編集していて考えたこと(そして流石に本には載せられなかったこと)を僕個人の責任で書きたと思う。

先に結論を書いてしまうと、いま一番地方に、それも過疎に悩む農村や漁村に必要なのは「諦め」だと思う。もちろん、その土地の自然や文化を遺すことを諦めるわけでも、地域振興を諦めるわけでもない。国に働きかけて公共事業(やそれに類する何か)を「引っ張って」来て、「ジモトにカネを落とす」タイプの、まるで出血が止まらないレベルの怪我を負った人間に、無理やり大量輸血をして心臓だけ形式的に動かすような地域経済の回し方をするのはもう辞めるべきだということだ。そして、その「輸血」には僕たちの子供や孫の世代の「生き血」を用いていることに自覚的であるべきだということだ。

たとえば昨日、参加している研究会の会合で耳にしたのだが、群馬県川場村に新しい役場の庁舎ができたそうだ。

落成式には自由民主党の二階俊博議員が駆けつけたことが一部では誇らしげに報じられ、この時点でものすごく特定の人脈が「地元」に「公共事業を持ってきた」匂いがプンプンするのだが、問題はこの庁舎を建てるのにかかった「カネ」だと思う。

朝日新聞の2023年10月30日の記事によると、「新庁舎は2階建て。全面ガラス張りで、地場産の木材を構造材や床材にふんだんに使用。1階ロビーは吹き抜け空間となっている。各施設とは連絡ブリッジで結ばれ、全体の延べ床面積は4463平方メートル。昨年2月に着工し、現庁舎から約400メートル離れた場所に建て替えられた。総事業費は44億6300万円」だそうだ。

ちなみに川場村の総人口は3000人強。村民一人あたり約150万円の計算になるのだが、常識的に考えてこの村に、このタイミングで本当にこのレベルのリッチな建物が必要なのかは疑問だ。何十年も使う建物なのだから、村民一人あたり150万円の買い物は大したことがないと言う人もいるだろうけれど、逆に考えればその150万円を現金給付すれば、もしその家庭に家計の問題で大学に進学できない若者がいた場合に彼/彼女の背中を強力に押すことができる。自治体の予算として考えたときそれほどでも……と考える人もいると思うけれど、一人あたり150万円とはそういうレベルの金額だ。

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僕はもはやFacebookやTwitterは意見を表明する場所としては相応しくないと考えています。日々考えていることを、半分だけ閉じたこうした場所で発信していけたらと思っています。

宇野常寛がこっそりはじめたひとりマガジン。社会時評と文化批評、あと個人的に日々のことを綴ったエッセイを書いていきます。いま書いている本の草…

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