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【ラグビーW杯】描き終えた絵と、真っ白なキャンバス 19.10.20 日本対南アフリカ戦

グループリーグ戦を4連勝で突破し、「ティア1」としてのデビュー戦を迎える日本代表。この1か月間でチームは大きな自信を手にし、応援してくれる人々も大いに増えた。まさに追い風の中にある。
対するは「スプリングボクス」の愛称で知られる南アフリカ代表。4年前は「ブライトンの奇跡」における引き立て役になってしまっただけに、リベンジに燃えている相手である。

南アフリカがどう日本を倒すか。その意図は明確だった。ベンチメンバーにいるフォワードの選手は、普段より多い6人。フィジカルでの勝負で相手を圧倒する。
早速、その意図はピッチ上で遂行されていった。ブレイクダウンで圧力をかけ、攻撃のテンポを狂わせる。キックや長短織り交ぜたパスで日本は打開を試みるも、なかなか上手くいかない。
だが、南アフリカも前半は手を焼いた。ノックオン、スローフォワード、そして攻撃時のペナルティ……。もちろん、日本がしっかりディフェンスで圧力をかけていたことも大きい。
3-5という日本にとってはわずかなビハインドで前半を折り返すことができた。あとは攻撃で何らかの策を見つけられれば……。そんな思いを抱いたファンは少なくはないだろう。

だが、打開策を先に見つけたのは南アフリカだった。ラインアウト。2メートル級の選手を揃えた相手に、日本は苦しめられた。南アフリカがパーフェクトで終えたのに対し、日本の成功率は61%だった。
その象徴が後半26分のプレーだった。ハーフウェーラインから南アフリカのラインアウト。モールを組むと、ずるずるとディフェンスラインが下がっていく。ここまで奮闘を続けてきた日本のフォワード陣の、集中がぷっつりと切れた感があった。最後はスクラムハーフのデクラークにボールが渡り、インゴールゾーンに向かって駆け抜けていった。

最終的には3-26で試合終了。前半は健闘するも、後半は力尽きて敗れる。大敗とも惜敗とも言い難いスコアに落ち着いたものの、苦い「ティア1・デビュー戦」となったのは間違いない。

   ◆

日本に足りなかったものは何か?
少なくとも、個々の選手のスキルだったり、チームとしての戦術に不満は無い。いや、他国と比較しても、充分過ぎるほどのレベルである。

むしろ、課題は「大会をどう戦うかの戦略」ではないだろうか。
今大会において、日本は5名のプレーヤーがピッチに立つことができなかった。エクスキューズはある。勝ち続けているときはメンバーを変えないというセオリー、中6~7日の試合が続いたことでコンディション調整がしやすい、大けがをした選手が幸いにもいなかった、グループリーグ争いが激しくて消化試合が無かった……などなど。もちろん、メンバーを固定したことで戦術の浸透が一気に進んだという面もあるだろう。

だが、その悪い面がこの試合で出てしまった。
ここまでフル出場を続けていた稲垣、姫野、田村が後半の早い時間で退いた。でも、交代出場の選手は流れを変えられなかった。9月の試合で活躍した徳永は、なぜベンチにいないのだろうか?
フォワードで劣勢に立たされると、動きが悪くなる流が長時間出場した。控えの田中も、攻撃のテンポを上げるタイプではなく、試合を落ち着かせるのに長けたプレーヤーだ。迷うのは仕方が無い側面もあるが、では相手の裏をかき、思い切って茂野を起用するという選択肢は無かったのか。
もちろん、セレクションの段階で予定していた選手を選べなかった側面もあるだろう。だが、「選手の幅に広がりが乏しかった」ことは、今後も頭に入れ続けなければならない。

   ◆

さて、僕は10年以上ラグビーを観ているが、ちょうど観始めたころに台頭したメンバーが、今大会をもって「代表引退」になる可能性が高い。トンプソン、堀江、リーチ、田中、田村……。彼らの活躍と成長を見届けたことは、僕にとって大きな財産である。
そして、この大会は日本代表にとっても、ひとつの分岐点になると感じる。人材の発掘と継続強化の重要性を学んだジョン・カーワン体制。「体力のラグビー」のひな型をつくり、代表へのネガティブな空気を一蹴させたエディ・ジョーンズ体制。そして、強豪との戦いを重ねながら世界に通用する戦術を深耕させていったジェイミー・ジョセフ体制……。この3大会・12年間のプロセスに待ち構えていたのは、胸を熱くさせる感動的な光景だった。苦労して描かれた1枚の絵が、皆の前で飾られている。そんな感慨がある。
そして、大きな自信と難しい課題と共に、日本代表はフランスの地でどんな「絵」を見せてくれるのだろうか。僕らの目の前には、新しい真っ白なキャンバスが置かれている

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