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はじめてのパスポート、はじめての原宿 〜中学生と証明写真〜

はじめてパスポートを申請したのは中学生の時だった。申請には顔写真が必要ということで、スーパーの証明写真機で撮影をすべく自転車を漕いで出掛けていった。近くのスーパーに行く時ほど自転車のペダルの漕ぎ心地が軽快なことってないと思うのだがなぜだろう。単純に近いからかな。走行時間10分足らず、なんとなくソワソワドギマギしながら風を切って走った。ドギマギしちゃうお年頃です。

確か証明写真機自体その時が初めてだったと思う。小銭を入れて、あれ、なんだこの椅子回すのかな、おやおや、なんだこのボタンは、とかやりながら、何度も何度も鏡を見て、髪の毛を整えて。はじめてのパスポートに気合い入りまくりである。だって当然だ、これは公式書類なのだ。当時アホほど撮りまくっていたプリクラとは話が違うのだ。そうして吟味に吟味を重ねて、究極の1枚を作り上げた。

あの時の服装は今でも覚えている。修学旅行先の東京で買ったおニューのトップスを着ていた。原宿の竹下通りで買った、細ストラップのホルターネックキャミソール。水色と白の極細ストライプが爽やかな1枚で、その上に重ね着する用の真っ白のカットソーも買ったのだが、撮影時の私は興奮していたのであろう。キャミソール一本で勝負することにしたらしい。

竹下通りはわけのわからない通りだった。なにやらめちゃくちゃゴミゴミしていて、目新しいようなそうでもないような、でも確実に日本な、そんな通り。どう解釈して良いか分からずに同じ通りの間を何度も往復した。私は別にギャルでもなんでもなかったのだが、オシャレの右も左も前も後ろも分からなかったためセブンティーンを買っていたし、決して抵抗があったわけではない。ここは原宿に染まろうではないかと、アホほどプリクラを撮りまくり、ウインドウショッピングに興じた。

例のキャミソールを購入したのは、ハイビスカスを全面に押し出した陽気なギャル系の店だった。ギャル系といっても他店よりは幾分落ち着いたデザインで私にも手が出しやすかった。とにかく何か買って帰らないことには気が収まらない。店の中を500周は見て回ったかという頃、ようやく選びぬいたのがその服だった。薄手のキャミソール1枚は恥ずかしいけど、その上に半袖トップスを重ねれば肌見せしても大丈夫なはず。そう思ったのだろう。ようやくレジを通したショッピングバッグは私の勲章になった。その翌日にはその服を着て修学旅行第2のポイントであるディズニーシーに行った。初めての東京で買った服、それも自分だけで選んだ服。私にとっては特別な物だった。

さて、話は戻って、パスポートの申請である。後日申請所へ行くと、割と最初の段階で受付の人にこう言われた。

「あ、この写真だと服着てないみたいに見えちゃいますから、撮り直して下さいねー。向こうの写真室でお撮り出来ますから。並んでおいて下さい」

実に盲点であった。例のキャミソールは、ベアトップにホルターネックの細い丸紐がちょちょっと生えた程度の作りだった。証明写真に写ってしまえば紐なんてあってないようなもんであり、おまけにパスポートに写真を貼る時は胸より上で切り取られるので、ということはトリミングした写真の中の私は完璧に全裸の女にしか見えなくなるのである。危なかった。もう少しで生まれて初めてのパスポートの写真が完全全裸の浮かれた女になるところだった。5年間使い続けるのも、入国審査の度にまっぱだカーニバル女が来たぞとドン引きされるのも嫌すぎる。

そうして私は受付の人に言われるままに写真室に導かれ、なんのこだわりもなく着てきた服のまま写真を撮られた。室内には鏡もなく、髪型を確認することもできず、撮り直しもできず、後日受け取ったパスポートには髪の毛ボサボサのいつもの私が写っていたのだった。




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