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(連載小説)息子が”ムスメ”に、そしてパパが”ママ”になった日⑦

家族全員が女性の姿になった小倉家の面々は改めてこの写真館のスタジオにて着物姿で記念撮影をしていた。

もちろん主役は七五三を迎えた息子の陽翔なのだが、今は着物女装をさせられて「娘のはるみ」となり、それを同じく着物女装をさせられて「母親になった翔子」と着物姿で純女の母親のみどりの3人が「女性」としてカメラに収まっている。

「あら翔子ママ、折角だからもっとニコニコしたら?。そうニッコリ―。」
「こ、こうですか?。に、ニッコリ―。」

強制的に着物女装をさせられてまだ女としての自分に慣れてないし、それにどうしても恥ずかしさが先に立ち、プラス緊張もあって翔子はどことなくぎこちない表情をしており、そう言われてとりあえず作り笑顔をしてみるがやはりまだどことなくぎこちなくなってしまっていた。

それでも撮影が進む中で写真館のスタッフに「翔子さん、きれいー。」とか「お着物ほぉんとよくお似合いですよー。」などと言われていると段々と「その気」になってきたのも事実だった。

もちろん翔子の女装姿を褒めるのはお店としてもいい表情で写真を撮るために「営業トーク」や「ヨイショ」をしているのだろうとはなんとなく思う。

ただ言われて悪い気はしないのもこれもまた事実で、日頃の男の時に外見やファッションを褒められる事など今まで殆ど無かった翔子にとっては女装ではあるが自分の外見を好意的に見て貰えるのは新鮮だし気分もいい。

それに翔子は正直なところこのピンクの訪問着を着て女性の姿になった自分が嫌いではなかった。

「あたし、こんなにみんなに”お着物が似合う”だなんて言われてうれしい・・・・・。でも自分でもあたしって結構着物似合うなあって思うんだ・・・・・。だけどお着物っていいよね。だってこんなにあたしをより女らしく見せてくれるんだもん・・・・・。」

そう思っているうちに少しは緊張もほぐれてきたのか表情も段々と自然な感じになり始め、また同時に自分が男である事を忘れ、気分は着物で着飾った事でうれしくしているひとりの女性になりきっていた。

ひと通り撮影を終え、まったりしているとお店のスタッフが次の予約客の支度ができたのでスタジオを使わせて欲しいと言ってきたので翔子たちがスタジオを出ると廊下には例の撮影を待つ次の予約客たちが居た。

「あ、どうも・・・・・。」

そう言いながらお互い会釈をしてダークスーツにネクタイの男性とクリーム色の訪問着を着た女性に息子と思われる蝶ネクタイの男の子といういで立ちと組み合わせの3人家族とすれ違いながら翔子たちはスタジオを後にした。

自分が実は男だとバレていないか結構ドキドキしながら翔子はその3人家族とすれ違ったのだがダークスーツの男性がすれ違いざまに「おっ!。」と言うのが聞こえてくる。

「ヤバい・・・・・。もしかしてあたし元は男なのがバレたのかしら?。」

そう思った翔子だったがそのスーツ姿の男性がお店のスタッフに「いやー、今の方々って全員お綺麗な着物姿の”女性”でいいですねー。それにしても皆さんなかなか映えてますよねー。」と言っているのが聞こえてくる。

よかった・・・・・男だってバレてない・・・・・。そう思いつつもまだ少し恥ずかしさを引きずっている翔子を見て萌香が「あら?、もしかして翔子って今のご家族に自分が元は男だって思われてないか気になってる?。」と見透かしたように言ってくる。

「ええ・・・・・ちょっとそう思いました。だって知らない人が女になったあたしを見てどう思ったんだろうってどうしても気になりました。」
「あらそうなのね。でもあの方は少しも翔子の事を変だなんて思ってないみたいよ。」
「はい、その様で安心しました・・・・・。」
「大丈夫よ、今日の翔子はどこから見てもお・ん・な。それに着物がとってもよく似合うきれいな”若奥様”よ。自信持ちなさい、うふふ。」
「は、はい・・・・・ありがとうございます・・・・・。今日のし、翔子は・・・・・お、女ですから・・・・・。」

そんなやりとりをしていると今度は萌香が「ねえ、スタジオ撮影もいいけど折角なんでなんだったら近くの公園でロケーション撮影してみません?。適当に木々も紅葉してるし、イイ感じにお写真撮れると思うんですけど?。」と着物を着たまま外で撮影をする事を勧めてくる。

「え?!・・・・・。お外に行くんですか?・・・・・。」
「そうよ、折角だし今日はいい天気だから紅葉をバックに全員が女性で着物姿の小倉家のみなさんを撮影したらいいんじゃないかなーって。」

そう言われて翔子は流石に戸惑いを隠せなかった。
確かにきれいにメイクしてウイッグもアップに結い、ピンクの訪問着を着ている自分は先程スタジオの前ですれ違った初対面の人にも男だと云うのはバレなかった。

だけどそれはたまたまかも知れないし、外で撮影となれば自分の着物女装姿が衆目の元に晒される訳で、おまけにここは自分の住んでいるところや勤務先の駅からそう遠くないところにある。

となれば誰か知り合いに会う可能性も充分にあるし、そんな状況下で女装した自分が男である事を隠し通せるのだろうか?・・・・・。

しかし心配する翔子をよそにみどりは乗り気のようで「あらそれっていい案ですねー!。あたしもこの前近くの公園を通った時に紅葉がきれいだなーって思ってたんですよ。それに今日は着物を着て家族全員女になってる事ですし、折角なんで是非お願いしたいですー。」と早速言っている。

そして「そうしましょー。じゃあはるみ、これからお外でお写真撮ってもらうわよ、ねっ。翔子ママもいい案だと思わない?。」とみどりは有無を言わせない口ぶりではるみに外出する事を告げ、翔子には同意を求めてくる。

「ほ、ほんとにこのままの恰好でお、お外に行くの?・・・・・。」
「当たり前でしょ、お着物姿で紅葉をバックにお写真撮ってもらえるだなんてそうそう無いわよ。あーん、考えただけでワクワクするぅー。」
「で、でも・・・・・お外に出ちゃうとあたしもはるみも実は男だなんてバレないかしら?・・・・・。それに知り合いに会うかもしれないでしょ。」
「何言ってるの?。こぉーんなに翔子ママもはるみも着物着てすっかり女らしくなってるのに誰があたしたちの事を疑うのかしら?。。ねえー萌香さん、菜美さんー、ちょっと翔子ママに外出を勧めてくださいません?。」

みどりは着物姿にて紅葉の元でロケ撮影ができると云う提案を大層気に入ったようでどうしても譲らないどころか翔子もはるみもどこから見ても女にしか見えないから心配ないとばかりに萌香と菜美にまでも翔子に着物女装での外出を勧めるように言っている。

「ほら翔子ママ、みどりさんもそうおっしゃってる事だしこれからお外に出て公園でロケ撮影するわよ。いいでしょ?。それにもし行かないって言うんだったら縄をつけて引っ張り出すわよ。」
「そ、そんな・・・・・。」

そう言われ、萌香の事だから本当に縄をつけて外に引っ張りかねないと翔子は思っているといつのまにか菜美が犬を散歩する時に使うようなリード紐を持って来て手に持ったままこちらを見ている。

「大丈夫よ。翔子ママはあたしたちがこうして完璧なまでに女らしくしてあげたんだからバレる訳なんかないわ。それとも何?あたしたちが翔子ママを女らしくするためにしてあげたお仕度がお気に召さないとか?。」

萌香はここに来て再び得意のS性を少しずつ発揮し、キツめの口調で威嚇するように言い始めている。

「ねえ、翔子ママって男?、それとも女?。」
「あたしは・・・・・お、女です・・・・・。」
「そうでしょう、翔子ママは女よねー。ピンクのお着物がとってもよく似合うお・ん・な。翔子ママって今日はるみちゃんと一緒に男からお・ん・なになったんでしょー。そうよねー。」

と、いつしかその場は萌香による即興での「言葉責めプレイ」の場になっている。

「はい・・・・・翔子は男からお、女になりました・・・・・。」
「そうよねー、翔子ママはメイクして、髪をアップに結って、ピンクの着物着せてもらってはるみちゃんと一緒に親子共々女になったんでしょー?。それに着物が着られてうれしいって言ってたじゃないー。違うのぉー?。」
「いえ・・・・・着物を着せていただいてとても嬉しいです・・・・・。」
「そうでしょー、女なら誰でも着物を着るとうれしくなるわよねー。それに女だったらきれいになった自分を普通は他の誰かに見てもらいたいって思うもんだけどぉー、翔子ママは違うのかなぁー?。」
「は、はい・・・・・あたしもこのきれいに着飾ったお着物姿をお目汚しかも知れませんがどなたかに見て頂きたいです・・・・・。」

と遂に翔子は簡易言葉責めプレイのせいもあり、恥ずかしくはあるがしぶしぶ着物女装姿で外出をする、いやさせられる事となった。

「あのね翔子、お着物姿で歩くときは地面にまっすぐな線が引いてあると思ってその線を一直線に踏むように歩くと綺麗に見えるのよ。ほらやってごらんなさい。」
「こ、こうでしょうか?・・・・・。」

と翔子は初めての女装での外出と着物での外出の二つの「初」が重なった事もあり、恥ずかしさと自分が男である事がバレないか、そして慣れない着物での外出と云う事もあって顔はおっかなびっくりな表情をして、また足元はオドオドした動きでぎこちなくお店の外へと草履を履いて一歩踏み出した。

外へ出てみると室内にいた時とはまた違う股間がスース―する感触が翔子の下半身を覆い、思いのほか女性はこんなにも言ってみれば「無防備な状態」なんだと云う事と、そのスース―する心許ない感触が今自分が女になっていると云う事を否応なく実感させられた。

そして言われた通り「線を踏むように」歩いてみると自動的に内股で歩幅が小さくなり、慣れない事もあって「よちよち歩き」みたいになってしまうのだが、逆に着物を着ている今の自分がもし大股でツカツカと歩いているのは傍目から見ても変だろうからこれでちょうどいいんだなとも思う。

それにしても着物を着ると云う事は幾重にも紐や帯で締められる事で動きが自然と制限され、また着崩れしないように動き自体がどうしても小さめにならざるを得ないし、歩くのだってぴったりと足首をこはぜで留められた足袋を履き、こうして内股でしずしずと歩くようにどうしてもなってしまうのだが、その分仕草や所作が随分とらしくなると云う事も感じていた。

女らしくなると云う事はある意味美しくなる・美しく見えると云う事でもあるし、衣装の特性で拘束されたようにならざるを得ないとは言え、着物を着ると云う事はまるで「女らしさ養成ギブス」のようなものだなと変な例えではあるがともかくそう翔子は思うのだった。

そして翔子たちはそのまま線を踏むように小股でよちよち歩きで何とか近くの公園までやって来れた。

またここに来るまで何人かの通行人とすれ違ったが特に変な目で見られたりはせず、それどころか着物姿の「女性」が複数居る事で逆に目を引いているようで「おっ!。」とか「あら、お着物じゃない!。」と云った具合ですれ違う通行人は誰も概ね好意的な反応を示しながらすれ違って行った。

そしてそれは実際に紅葉や手入れされた庭木をバックに撮影が始まっても同じで「あら、お着物で撮影?。何かのロケかしら?。」とか「やっぱりお着物姿って普通より映えるからいいわねー。」等と通りがかった即席の「見物客」達は先程の通行人と同様に好意的な反応を見せ、翔子とはるみがついさっきまで男だったとは誰も思う人はいないようだった。

ひと通り撮影を終えて再び写真館に戻る頃には翔子も大分着物女装と着物外出に慣れてきたのと幸いにも自分が男であると云う事がどうやらバレてないと云う件にも安心したのか自然な表情や笑顔が出るようになっていた。

男として今までほとんど「カッコいい」と言われた事なぞ無かった自分がこうしてメイクして髪型をアップにし、女らしい色柄の訪問着に身を包む事で見知らぬ人にさえ「きれいね」「かわいいわね」「ほんと着物がよくお似合いね」などと自分の外見や着ているものをを褒めてくれる。

そして褒められる事で翔子の気持ちもいつしか上機嫌になり、女として、そして着物女子としての時間を楽しめるようになっていた。

写真館に戻るとちょうど別の女性3人組がスタジオ撮影を終え、翔子たちと同じように近くの公園にロケ撮影に出かけるところだった。

その女性3人組なのだが大人二人と子供一人で、大人はひとりは水色の訪問着、もう一人はクリーム色の訪問着、そして子供は七五三用の濃い紫の着物を着ていると云う三人全員が「着物女子」のいで立ちだった。

ただ翔子はそのうちのクリーム色の訪問着を着た女性に見覚えがあった。

「あれ?、もしかしてあのクリーム色のお着物の方ってさっきあたしたちと入れ替わりでスタジオに入ってこられた方じゃないかしら?。」

そう思っていると水色の訪問着を着た女性と七五三用の紫の晴れ着を着た女の子が恥ずかしそうにうつむき、そしてさっきの翔子のように内股でよちよち歩きと云ういかにも着物慣れしていない感じのまま横をすれ違っていく。

「わー、みなさんお綺麗ですねー。」とその3人連れの「着物女子」を見てみどりが感心するように言うとクリーム色の訪問着の女性は微笑んで会釈しながらすれ違って行ったがあとの水色の訪問着の女性と紫の晴れ着の女の子はとても恥ずかしそうにやっとの思いで後を付いて行っている様に見える。

「もしかして・・・・・あの3人って・・・・・。」

と怪訝な表情で三人連れの着物女子たちが外へ出かけて行くのを翔太が見つめていると萌香が「翔子ママ、あの方たちの何かが気になるのかしら?。」とまたまた見透かしたように聞いてくる。

「いや・・・・・あの・・・・・確かあたしたち家族が外で撮影している間には夫婦と小さいお子さんの3人家族さんしか居なかったですよね?。」
「そうよ、今日の家族写真の予約は小倉家さんともうひと家族さんだけ。」
「で、その家族連れさんの女性は先程すれ違ったクリーム色の訪問着の方かなあって思うんですけど、確かスーツを着たご主人と蝶ネクタイのお子さんが別に居たように思うんですがどうしちゃったんでしょう?・・・・・。」

そう翔子が言うと萌香は「そうね、どうしちゃったのかしらね?、うふふ。」とクスっとイタズラっぽく笑いながら意味深な表情をする。

3人いた中で女性だけが一人だけ先程見た時と同じいで立ちで、残りの旦那とおぼしき男性と息子とおぼしき男の子はやはり店内のどこにも見当たらないし、お店のスタッフ以外には人の気配はしない。

まさかクリーム色の訪問着の女性だけを置いて男二人は帰った訳でもないだろうし、それに少しの時間の間に上手い具合に別の女性と女の子に入れ替わるだなんて事も不自然だ。

などなど不可解な事があるものだと頭をひねっていた翔子に萌香が笑いをこらえながら「ねえ、翔子ママ。スーツの旦那さんと蝶ネクタイの男の子がどこ行ったか教えてあげようか?。」と言ってきた。

「は、はい・・・・・。どこ行ったかご存じなんですか?。」
「そうよ、あたし知ってる。あのね、あのご家族は公園に紅葉をバックにロケに行ったわよ、うふふっ。」
「え?・・・・・公園に・・・・・ですか?。」

そう言われてますます翔子は訳が分からなくなってしまっていた。
「公園で紅葉をバックにロケ」とはまさに先程まで小倉家がしてきた事そのもので、それに「あのご家族」と言われてもクリーム色の訪問着の奥様は分かるが後の旦那さんと男の子は居ないではないか・・・・・。

考え込んでしまっている翔子を見て再び笑いをこらえながら萌香が言う。
「翔子ママ、まだ分からないの?、うふふっ。」
「ええ、何が何だか・・・・・。あっ?!、も、もしかして・・・・・。」
「そうよ、そのもしかよ。も・し・か。分かったかな?、きゃははっ!。」

そう言われて翔子は水色の訪問着と紫の七五三用の晴れ着を着た「女性」と「女の子」は自分やはるみと同じ「女装子」だと言う事を悟った。

「やっとお分かりのようね。さっきの方も翔子ママとはるみちゃんみたいにメイクして髪をアップに結ってお着物を着て女になってもらったのよ。どう?、なかなかきれいでお似合いでしょ?。うふふっ。」
「・・・・・・。」

それを聞いた翔子は二つの意味でびっくりしていた。それはひとつはとても元は男とは思えないくらい二人とも着物のよく似合う女性にしか見えなかったのと、もう一つは小倉家以外にもこうして女装して家族全員で女の姿になるお客が居ると云う事に対してだった。

驚いて言葉が出ない翔子を尻目に今度は振袖を着た比較的背の高い二人組の若い女性が奥の支度部屋から出てくる。

「わあー、きれいになられましたねー。」
「ほぉーんと二人ともお振袖がよくお似合いですー。」

そうスタッフに誉め言葉で迎えられた振袖姿の二人組はうれしそうな表情をしつつもどことなく恥ずかしそうな表情と着慣れない振袖のせいもあるのかぎこちなさを感じさせる仕草を見せながら撮影スタジオに入っていった。

ただ確かにこの振袖姿の二人組はきれいでとても着物がよく似合っているが女性としては少し背が高いように思えたし、それにいささか女性にしては肩幅が広くていわゆる「いかり肩」に見えない事もないと翔子は思った。

「あの・・・・・萌香様・・・・・。」
「なあに?翔子ママ。」
「今の振袖を着た二人組のお嬢さんって女性ですよね?・・・・・。」

そう言われた萌香はクスっと笑って「そうよ、”今は”女性よ。成人式の前撮りで振袖をお召しのじ・ょ・せ・い。もっとも”今は”だけどね、うふふふっ。」と答えた。

「”今は”って言うと、もしかして・・・・・・。」
「そう、その”もしか”よ。翔子ママも大分勘が良くなってきたわね。あのお二人は元は男で、成人式の前撮りをお振袖着てやりたいって言う事でメイクと着付けをして女の姿になったの。どう?やっぱりお振袖は綺麗よね。」

やっぱりそうだったのかと翔子は思った。聞けばこの振袖姿の女装子二人組は男性でも本格的なメイクと着付け込みで振袖を着せてくれる写真館があると噂に聞いて申し込んできたとの事だった。

それにしてもこんなに次から次へと男性を完璧なまでに女装させて女の姿にしてしまうとはこの写真館のスタッフの技術にも驚きだが、それと同じぐらい女になりたい、そして女にさせたいと思うニーズが世の中にあるとは翔子は思いもよらなかった。

またそれを現実のものとして実現させてしまう萌香をはじめとしたスタッフのメイクや着付けのスキルにはただただ驚くほか無かった。

そうしていると「小倉様、お帰りのタクシーが参りました。」と菜美が言う。

ただタクシーが来たと言われてもみどりはいいとして翔子もはるみもまだ着物姿のままだし、何よりメイクもしたままなのでこのままでは帰れる訳がない。

なので「みどり、タクシーが来たって言ってもあたしもはるみもまだ女の恰好のままよ。」と翔子が言うとなんと綾乃が「小倉様、どうぞ今日はこのままお着物姿のままでお帰り頂いてもよろしいですよ。今お召しのお着物はまた明日にでも当店までお持ち下さい。翔子さんとはるみちゃんが着てこられたお召し物は当館でお預かりしておきますので。」と言うではないか。

するとみどりは「あらそうですか。それは助かります。ではお言葉に甘えて今日一日もう少しおうちでも家族全員お着物姿を楽しませて頂きますね。じゃあ翔子ママ、はるみ、帰りましょう。」と言い、そうすると綾乃以下写真館のスタッフも「お見送りモード」となり、あれよあれよと云う間に着物姿の小倉家の3人はそのままタクシーに乗せられてしまった。

「は、恥ずかしい・・・・・。今度は女装してお着物のままでタクシーだなんて・・・・・。バレないかしら?・・・・・。」

(つづく)






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