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「みかん風呂」語り

ー2021年の初湯(下)

話は初湯に行く前日の1月1日にさかのぼる。新年の挨拶を兼ね、両親と実家の近くにある喫茶店でお茶を飲み、翌朝(2日)に初湯を銭湯に浸かりに行くという話を振る。すると、父が湯船にみかんを浮かべる「みかん風呂」の話を懐かしそうに話しだした。記憶があいまいな部分もあるというが、こういうときの父の話は実に面白く聞いていて飽きない。

関連リンク(「2021年の初湯」シリーズ):「カオスとアブノーマルー2021年の初湯〈上〉」、「男湯の金魚ー2021年の初湯〈中〉

「絶対イヤ」

父が話したのは銭湯の話だ。たいていの銭湯は2日に初湯があり、よく行ったという。父によると、湯船には丸ごとのみかんが浮いていて、それを湯上りに食べると美味しかったとか。とにかく皮が剥きやすく、きれいに剥いたみかんを頬張るらしい。

誰だか分からない人がたくさん浸かった湯に浮いていたみかんを食べるのは、どうにも不衛生な気がする。しかも、そのみかんは常識的に考え、銭湯のものだろう。それを食べるのは窃盗だ。父が銭湯と自宅の風呂での思い出を間違えている可能性はある。

ただ、少し温まったみかんは、確かに皮が剥きやすいし、そのみかんを食べると、普段とは違う美味しさがあるのは事実だ。今度自宅でやってみようと奥さんに顔向けると、微笑みを返す顔の真ん中に「絶対イヤ」と書いてあった。断固たる拒否。気持ちは分からないでもない。

保温効果

銭湯にとって一年の営業開始を告げる初湯をみかん風呂にするチャレンジングな銭湯があるか否かは別にして、みかん風呂にはさまざまな効果がある。インターネットによると、保温をはじめ、美肌、消臭・洗浄、リラックス、塩素除去といった各種効果が得られるという。

保温効果については、みかんの皮に「リモネン」という成分が含まれており、そこに保温効果があるとされているらしい。ただ、丸ごとは必要なく、皮だけで良いという。さらに皮も乾燥させた方が良いとか。それをネットに入れて湯に浸けるそうだ。

過去の常識

父のみかん風呂の話は、少なくとも30年以上も前の記憶だ。過去の常識が現在の非常識になっているケースなど幾らでもある。そのため、一概に父の記憶違いとも言い切れない。父の思い出話を基にいろいろ調べ、それを確かめる作業を通じ、さまざまなことを知れる。

だから、父が懐かしそうに話すことには興味が尽きない。(終わり)

(写真:湯船にみかんを丸ごと浮かべた「みかん風呂」について懐かしそうに話す父=フリー素材などを基にりす作成)

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