ウィッチンケア文庫

2010年に創刊した文芸創作誌「ウィッチンケア」。次号(第10号)は2019年4月1日発行予定! ここでは同誌にこれまで掲載された作品の一部を、寄稿者の許可を得て掲載しています。しばらくはテストランで無料公開。Enjoy!

インベカヲリ★/目撃する他者

写真家という仕事をしていると、「写真が好きなんですか」と聞かれることがあるけれど、私は別に写真が好きなわけではない。興味があるのは写真ではなく、被写体になっている人間のほうだ。ホームページでモデルを募集し、応募してきてくれた女性たち一人ひとりに会って話を聞く。年齢制限は設けていないので、下は中学生から、上は40代の主婦まで様々だ。相手の精神性などを知った上で、撮影のイメージを膨らませるので、今まで

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東間 嶺/死んでいないわたしは(が)今日も他人

天使すぎる女の笑顔が、目の前で半分、潰れていた。天使の、扇のように広がった黒髪と割れた頭部から姿を見せる脳の断面が、花弁のように鮮やかだった。ゆるやかに流れ出る血と体液の帯が、駅のホームへ、長く長く伸びている。
 さっきから何度も繰り返されている車内アナウンスが、今度はレスキュー隊と警察の到着を知らせている。
 それを聞いたわたしは、操り人形の手が糸で急に引っ張られるときの不自然さで、首から下げた

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小川たまか/夜明けに見る星、その行方

仰向けで眠ることのできない女がいた。上を向いて寝ると、あばらの下からスッと何かを差し込まれる気がする。たとえば槍。もしくは大きな魚の歯。ときには人の手であばらを持ち上げて、めくられるような気がすることもあった。
 そのたびに、まずは片手を腹のあたりに置いてみる。これで槍の侵入を防げるはずだ。しかし数十秒もたてば、「これでは足りない」と不安になってくる。両手を重ねてみるが、心もとない。それどころか、

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ナカムラクニオ/断片小説

籠の中の鳥は青い空に恋をするか?

春の小鳥が、病室で空を眺めている私の句読点を食べに来た。
そして、無口だった私は、突然おしゃべりになった。
「なぜあなたは私の『句読点』を食べるの。おいしくないでしょ?」
「とてもおいしいよ。鳥はコレを食べるから、人間の日常に句読点を打つことが出来るんだ」
と、小鳥は言った(あるいは、言ったように見えた)。
そして、空に飛び立った。
私は誰かと話がしたくて仕方が

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武田 徹/『末期の眼』から生まれる言葉

2013年12月17日にかしぶち(橿渕)哲郎が亡くなった。一年後の14年12月17日に彼の冥福を祈りつつ、過去の橿渕作品を他のアーティストが演奏するトリビュート・アルバム『ハバロフスクを訪ねて』がリリースされている。
 そのアルバムで最初に流れてくるのは、矢野顕子が哀惜を込めてピアノを弾き語る「リラのホテル」。静かに抑えるがゆえに逆に声の勁さが際立つ。共演経験のある矢野がいかに橿渕を愛し、その喪失

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