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【ファジサポ日誌】76.上州の湿り風~第38節 ザスパクサツ群馬vsファジアーノ岡山~

「上州の空っ風」とはよく言われますが、この日の前橋の風は寒気を伴った小雨混じりの湿った重たい風でした。
前節の衝撃的な敗戦から1週間、ファジアーノ岡山の選手たちはそんな冷たい風をものともせず勇敢に熱く戦ってくれました。
「湿風」とは晩夏の季語です。
あと1ヶ月、時を戻せるのでしたら、このドローももっとポジティブに受け止められたと思います。
振り返ります。

1.試合結果&スタートメンバー

J2第38節 群馬vs岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

両チームの持ち味がよく出ていたと思いますが、全体的には岡山攻勢の時間が多く、決定力不足が悔やまれます。
岡山としては千葉戦大敗からのリベンジメンタリティは十分に示せました。
今後の戦いに期待が持てる内容でしたが、同時に勝点2を失った事実も重く、逆転プレーオフ進出に向けて更に厳しい立場へと追い込まれました。

メンバーです。

J2第38節 群馬vs岡山 スタートメンバー(岡山保持時)
J2第38節 群馬vs岡山 スタートメンバー(群馬保持時)

今回の対戦相手の群馬はボール保持時、非保持時に明確にシステムが可変しますので、2パターンを示しておきたいと思います。
岡山の保持時には群馬は4-4-2の守備ブロックを敷きます。一方、群馬がボールを持った際にはRSB(5)川上エドオジョン智彗を高い位置に上げ3-4-2-1で攻撃します。これを岡山は両WBを下げました5-3-2で守るという構図です。
群馬のLSH(7)川本梨誉はLCF(47)杉本竜士と頻繁にポジションチェンジします。これも群馬の形のひとつです。

岡山は出場停止のLWB(42)高橋諒に代わり(2)高木友也が入ります。RWBには(17)末吉塁が戻ってきました。そして2トップの一角に(48)坂本一彩ではなく(8)ステファン・ムークが入ります。

ベンチスタートとなった(48)坂本が後半僅かな時間の出場に止まったことを考えますと、結果的にコンディションに問題があったと思われるのですが、スタメン発表段階では(8)ムーク先発による前プレの強化をねらう意図を読みました。やはり前節を受けて、前から奪いにいく自分たちの形に木山監督はこだわったのであろうと思います。

試合前の正田醤油スタジアム
日中は半袖でも平気であったが、
夜の前橋はひたすら寒かった。

2.レビュー

(1)示したリベンジメンタリティ

序盤の5分、群馬は(5)川上エの右高い位置からの持ち上がりにより岡山陣内に攻め込みます。試合開始10分以内での失点が続いていた岡山としては、この時間帯での失点は何が何でも避けなくてはなりません。
サポーターも含めて、緊張感を感じる立ち上がりでした。
まずこの10分間を高い集中力で乗り切ったことにより、岡山は攻守にリズムを掴みます。

特にこの試合で素晴らしかった点は2つあったように思います。
ひとつはチームのコンセプトの一つである前からのプレスがしっかり掛かっていた点です。
群馬の保持時の可変フォーメーションは3バック。
(24)酒井崇一、(2)城和隼颯、(36)中塩大貴の3枚が起点になるのですが、(8)ムークを中心にこの起点にしっかり制限が掛かっていました。特にRIH(44)仙波大志が2トップの位置まで上がり積極的に(36)中塩に制限をかけた動きは効果的で、彼からの配球にブレを生み出していました。
この日の岡山のプレスには連動性がみられ、例えば(44)仙波の裏を通されてもそこにはCH(6)輪笠祐士やRCB(15)本山遥らが前向きにボールを奪える体制を整えていました。

序盤に推進力を見せた群馬(5)川上エ
岡山も簡単に突破を許さない

そして2つめはネガティブトランジション、いわゆるネガトラです。
全体的に岡山攻勢の時間が長い中、幾度か群馬に裏を通されそうなシーンがありましたが、この日の岡山の選手の一歩目は早く、かつ群馬のボールホルダーに最短距離で走り、先に進路に入る、体を寄せることが出来ていました。これも特に(15)本山の出足の鋭さ、チャレンジするタイミングが素晴らしかったと思います。

サッカーは毎試合相手も変われば、状況も変わるので、一概に前後の試合を比較は出来ないのですが、大敗を喫した後のたった1週間でよくここまで戻してきたとの印象が強く残りました。これは今のチームの強みのひとつであると思います。

群馬(7)川本の突破を阻む(6)輪笠

(2)物足りなさを感じた攻撃のクオリティ

試合内容的には岡山がリベンジメンタリティを十分に示した試合であり、その点についてはチームを賛辞したいと思えたのですが、そんな試合であったからこそ勝点3を得なくてはならない、たった1点でいいので得点を奪わなくてはならない試合でもありました。
次に岡山のゴールが「近くて遠かった」理由を整理してみたいと思います。

この試合での岡山のゴール期待値は1.67。1点を奪えていた可能性は十分あったとデータは物語っているのです。
群馬の前節の相手であった東京Vは0.63であったことを考えても、群馬ゴールに迫れていたことがわかります。

ではなぜ岡山はゴールを奪えなかったのか?

① 高木とチアゴの関係性
この日のLWBは千葉戦の退場により出場停止の(42)高橋諒に代わり(2)高木友也が入ります。
(2)高木といえば、攻撃時の高性能クロスが強みなのですが、一言で述べるならボックス内にこのクロスのターゲットがいなかったことが痛かっです。

2トップの一角(7)チアゴはヘディングが得意ではありませんし、ターゲットタイプのFWではありません。よって当初(2)高木は(7)チアゴにグラウンダー、低いクロスを供給していました。つまり(7)チアゴに足でシュートを撃たせようと試みていました。
この2人の呼吸をみていますと、事前に擦り合わせがあったようにも見えました。
しかし、ボックス内で人数を掛ける群馬守備陣もそんな岡山の動きについては読んでおり、(2)高木からのクロスはなかなか通りません。
そこで前半の中盤あたりから(2)高木は得意の浮き球のクロスへと切り換えます。今度は遮るものが無い分、高精度のクロスが(7)チアゴに届く訳ですが、(7)チアゴの処理に迷いがありました。28分、ヘディングで撃てば絶好機というクロスを(7)チアゴは胸トラップで処理、シュートモーションに入る前に群馬DFに寄せられてしまいます。
この決定機逸を踏まえてなのか、(7)チアゴは直後の30分のクロスをヘディングで撃ちますが、これは枠外へと消えていきました。

このシュートを外した直後の(7)チアゴの焦燥ともとれる表情が印象的でした。改めてと言いますか、当たり前なのですが(2)高木のクロスは前線にターゲットがいるからこそ活かされるのです。

筆者は過去のレビューで、このような事態を想定して今夏の移籍マーケットではFWの補強が必要と述べました。本当は(18)櫻川ソロモンにこの役割を期待していたのですが、残念ながら彼の成長に目に見える進展がみられない今、別の何らかの方法で攻撃を打開しなくてはなりません。

(2)高木のプレーそのものは素晴らしかったと思う。

② 大きな影響を与えていた坂本の不在
(48)坂本一彩のベンチスタートも岡山の攻撃に大きな影響を及ぼしていたと思います。フィニッシャーとしてという意味もありますが、主に攻撃の組み立てに関する面においてです。
この日の岡山の攻撃の停滞は、ボックス内のクオリティ以外の部分にもありました。それがビルドアップからサイドに出した後の展開です。
特に左サイド(2)高木や(41)田部井涼に出た際には群馬の守備を引きつけていたのですが、それにより中に出来るスペースをあまり使えていませんでした。つまり攻撃全体が「中央→サイド→サイド」のような展開になっていたと思います。
岡山の良い時の攻撃は「中央→サイド→中央→サイド」といったようにサイドから1レーン、2レーンと人とボールが動きながら、相手とのギャップをつくっていくのですが、この組み立てにリンクする(48)坂本の不在の影響は如実に現れていたと思いました。
代わりに(6)輪笠が縦への運動量を増やすことで、群馬ダブルボランチからのプレッシャーを回避、中央での受け手になろうとしていたシーンも見られました。
後半、(27)河井陽介を投入した理由は、この(6)輪笠の立ち位置を維持しつつ、より攻撃的にサイドからボールを引き出すことにあったと考えます。
非常に的確な交代であったと感じました。
(8)ムークもリンクマンとしての役割をやっていない訳ではないのですが、やはりこの試合で彼に求められていた役割の多くはファーストディフェンダーであったと思います。

(3)FW柳の意味

最初に「決定力不足」と述べましたが、決定力不足になる理由として、良い形でボックスに侵入できないので無理筋なシュートが増えてしまっていたという点は挙げられると思います。
この試合の最大の決定機は試合終了間際の(5)柳育崇のシュートでした。
(23)ヨルディ・バイスを最終ラインに入れ、(5)柳を前線に上げる。藤枝戦や清水戦でもみられた岡山の最後の勝負手です。
(5)柳は自らがターゲットになりながら(99)ルカオらとシンプルにパス交換、攻撃をの組み立てに加わりながら相手ボックスへと侵入していきます。最後、途中出場の(48)坂本がボックス内の群馬DFを引きつけて出したパスは、この日唯一効果的に群馬の最終ラインを崩したシーンといえます。
今シーズン初めて同点の場面で(5)柳を最終ラインに上げた意味は重く、それだけ岡山にとってこの群馬戦は状況的にも勝点3が必要な試合であったといえるのです。

後半(7)チアゴが迎えた決定機
ボールは無情にも枠外へ

3.まとめ

実は今回の群馬アウェイ参戦は急遽決定したものでした。
千葉戦大敗を受け、J1昇格戦線生き残りを懸けてメンタル的にも状況的にも厳しくなった。ひょっとしたらこの試合でこの争いから脱落するかもしれない。微力ながら現地で、ピッチに近い場所から熱を送りたい、後押しをしたいと思ったのです。ですから、このドローという結果には悔しさを感じています。これがもう少し早い時期であれば、もっと試合内容を称賛できるのですが、帰りのシャトルバス内では居合わせたサポさんと溜め息ばかりをついていました。

とはいえ、ここで2週間空くというのはチームにとって好材料で、今一度得点を奪うためにボックス内での崩しにこだわってほしいと筆者は考えます。
その意味で左サイドで好連携をみせる(42)高橋諒が次節戻ってくるのは好材料ですし、(48)坂本にも復調してほしいところです。

そして、残り4試合栃木や秋田との対戦を残す事を考えると、ボックス内に1人はターゲットがほしいものです。今一度(18)櫻川ソロモンの覚醒に期待したいと思います。

おそらく現実的にはもう4連勝しかプレーオフ進出の道は残されていないような気がいたします(かつ他力ですね)。
もう一度本気で4連勝を獲りにいきましょう!

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。


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