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【ファジサポ日誌】71.個の力で跳ね返す~第33節いわきFCvsファジアーノ岡山~

よく勝てたな…一言で表すならそんなゲームであったと思います。
今シーズンは試合内容が良くても、ワンプレーで勝利を逃すことも多かったファジアーノ岡山でしたが、このアウェイいわき戦は逆にワンチャンスを活かして勝利することが出来ました。
逆転プレーオフ進出に向けては、もう試合内容にこだわる必要もそこまではなく、これまで積み重ねてきたものをしっかり出していくことがより大事になります。
今シーズン初の3連勝を飾った一戦を振り返ります。

1.試合内容&スタートメンバー

J2第33節 いわきvs岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

「時間帯別攻勢・守勢分布図」をご覧いただきたいのですが、いわきは前後半共に中盤の時間帯に攻勢を掛けています。
他クラブが相手の場合、通常この時間帯はお互いに試合展開が緩み、互いに決定機をつくれない、または互いに決定機をつくれるのですが、いわきの場合は確かな身体能力の下、いわゆる「苦しい時間帯」にも運動量が落ちないことによりほぼ一方的に岡山を攻めています。
岡山としてはこの「赤色」の時間帯にかなり危ない場面もあったのですが、各選手の守備の頑張りといわきの決定力不足によって最少失点に抑えられた、これが勝因のひとつであったと思います。

J2第33節 いわきvs岡山 スタートメンバー

メンバーですが、大きな変化がありました。
ホームのいわきは、前節熊本戦で前線に人数を割く3-1-4-2を採用。熊本のビルドアップに対して前から積極的にプレスを仕掛け主導権を握り大量4得点をマークしましたが、この試合では4-2-3-1に変更。
前節でRIHに入っていた(6)宮本英治がLSBを務める布陣に代えてきました。
試合開始後に田村雄三監督のコメントが紹介されていましたが、システム、立ち位置を変えることで岡山とのギャップを生みたいとの趣旨であったと思います。おそらく以下のような点と思われます。

J2第33節 いわきvs岡山 仮想スタメン

仮にいわきが前節熊本戦と同様のフォーメーションで臨んだ場合の図です。
端的に述べますと、岡山のビルドアップに対して2トップとSH・IHの4人の計6人が前からプレスに行きます。単純計算では、岡山の最終ラインの選手に1人に対して常に2人でプレス出来ますので、高い位置でボールを奪える確率が高まります。
一方で岡山がビルドアップでいわきのプレスを外すと、その背後に大きなスペースが広がっています。例えば図の影の部分です。一気に岡山のチャンスになる訳です。

恐らくいわきは、岡山の(7)チアゴ・アウベスを狙った前線6人の裏のスペースへボールを運ぶ攻撃を嫌ったのではないでしょうか?

筆者はこの試合のポイントは、岡山最終ラインのビルドアップといわきの前プレの対決にあるとみていましたので、少々拍子抜けしてしまったのです。

岡山にも大きな変更がありました。
最近数戦で攻守に「ダイナモ」と呼べるような存在感を放っていたMF(6)輪笠祐士がメンバー外となりました。この件についても試合開始後の情報により体調不良と伝えられました。最終ラインに下りてビルドアップを補助し、ボールを運び、前方へ効果的なパスを送る。岡山としてはリンクマンを失ったことになります。もちろん同様の動きが出来る(44)仙波大志は健在でしたが、やはりこの役割を担える人材が複数人ピッチにいることで、相手マークを分散させることが出来るため、岡山のサッカーへの影響は大きいものと考えられました。
代役としてはМF(27)河井陽介も考えられましたが、彼もメンバー外。最近数試合RCBで定位置を確保しつつあった(15)本山遥を代役に立てました。更にメンバー外にはなりましたが、DF/МF(20)井川空がこの遠征に帯同、試合前のアップにも加わっていたとの情報が現地組サポーターよりもたらされました。今回出番はありませんでしたが、(6)輪笠の体調次第では次節仙台戦にメンバー入りする可能性もあります。

(15)本山がCHに入ったことで(23)ヨルディ・バイスがRCBを務めます。こちらは久々のスタメンです。最近は(15)本山がこのポジションで機動力を発揮していたことから、そのプレーぶりが注目されます。
(15)本山の中盤起用により出番が回ってきたという感じは否めないのですが、いわきの「強さ」をいかに跳ね返すのか?(23)バイスの強さも注目されました。

以上、メンバー構成について長く述べましたが、やはり(6)輪笠不在がこの試合で苦戦した大きな要因のひとつであったと考えます。

2.レビュー

(1)苦戦の要因

試合全体を通した苦戦の要因についてまとめてみたいと思います。
上述しました両チームのメンバー構成が大きく影響していました。

J2第33節 いわきvs岡山 岡山守備時のモデル

岡山の守備時、5-3-2のブロックを形成した際のモデル図です。
いわきの前節からの布陣変更により、岡山のビルドアップの起点になるCB陣にはいわきの各1人がプレッシャーをかける配置になっています。
仮にいわきが熊本戦のシステムを継続していた場合、岡山のCB1人に対して複数人でプレッシャーをかけていた可能性が高かったと考えます(下図参照)。
よって岡山はビルドアップ時に、これまでよりもパス回し、判断の速さが求められる、これがこの試合前の大方の予想であったと思います。

いわきが3-1-4-2を採用していた場合の仮想図

ところが、いわきの布陣変更により岡山CB陣へのプレッシャーは想定ほどでもなくなりました。その代わり、今度はパスを出す先である中盤にしっかりプレッシャーをかける態勢を敷いてきたという事なのです。

岡山としては、この状況下での(6)輪笠不在の影響は大きかったと思います。背後の相手を見ながら受ける作業が必要になるからです。もちろんアンカーの代役(15)本山も頑張っていますが、パスを受け、前に運び、左右に捌く、縦に楔のパスを入れるといった攻撃面での関与については、まだまだ成長の余地があります。

(44)仙波や(41)田部井涼も頑張ってボールを受けようとしていましたが、いわきからすると岡山ボールの預け先を(6)輪笠がいる時よりも限定できる、そのやりやすさはあったかもしれません。

よって岡山のボール運びは自陣の低い位置から(7)チアゴの裏を一発で狙うという形が増えるのです。
いくら(7)チアゴとはいえ、裏抜けできるボールには限りがあります。
最終ラインで回収したマイボールもセンターライン付近でいわきに回収され、再びいわきの分厚い攻撃が始まる。この繰り返しになってしまったことが苦戦の最大の要因であったと考えます。

実はいわきにも弱点がありました。
それはビルドアップの拙さです。いわきの攻撃は質の高いレイオフを含めて、相手陣内では大きな威力を発揮するのですが、自陣最終ラインからのビルドアップについてはほぼ完結出来ていなかったと思います。
この点はいわきの今後の成長の余地とも思えるのですが、この弱点を踏まえても岡山としてはもっと「いわきにいわき陣内でボールを持たせたかった」ところです。そのためには、いわきの攻撃を最終ラインやゴールキックからスタートさせる必要がありました。岡山が最終ラインを押し上げ、(7)チアゴに裏を狙わせるにしてももっと高い位置から配球、前線にフィニッシュで終わらす形が必要でした。やはり中盤の構成力が必要であったと言わざるを得ません。

決勝点のPKが生まれた背景については、交代選手の働きも大きかったのですが、岡山が(23)バイスのアクシデントにより(15)本山を最終ラインに戻し、厳しい時間ながら中盤の構成力を高めたこともいわきを押し込めた一因であったと考えます。

(2)攻守に光った個の力

(7)チアゴへ出しては回収されるの繰り返しで、岡山としてはなかなか自分たちの時間がつくれない厳しい展開でしたが、これも繰り返していると得点に繋がるというのがサッカーの面白いところであり、皮肉なところです。
岡山の先制点、あれだけ左足を意識させて最後右足でニアを打ち抜いてしまう。GKとしてはニアを抜かれたことは痛恨でしょうが、左足からのシュートコースを消しにいく必要もありましたので仕方ないところであったと思います。
これが(7)チアゴの魅力といえます。

この(7)チアゴにパスを出したのが(44)仙波なのですが、いわき3人を引きつけた(48)坂本一彩のボールキープが光りました。序盤に痛恨のPK失敗を喫した(48)坂本でしたが、その後のパフォーマンスが落ちなかった点が素晴らしかったです。構成力で若干落ちる中盤をよく助けていたと思います。この歳でこのメンタルコントロールが出来る、PK失敗により却って彼の新たな一面もみることができました。

この試合の岡山はサッカーの組織力という面では分が悪かったのですが、個の頑張りという点ではいわきを上回っていたのかもしれません。
攻守にハードで粘っこいスプリントを繰り返したRWB(17)末吉塁の働きは、いわきボールが全体的に左サイドに寄る中、より効果的でした。
この点は千葉のユン・ジョンファン体制でよく鍛えられていたのだと思います。岡山にとっては欠かせない戦力になりましたが、彼の今シーズンの累積警告は千葉在籍時を含めて3。あと1枚イエローカードを貰うと次節出場停止となります。
望むべきことではありませんが、契約上出場できない千葉戦の前に…と思わなくもないです。

もう詳細を書く必要もないと思いますが(1)堀田、(5)柳の頑張りは言うまでもなく、岡山は個の力によりこの試合の勝利を引き寄せたといっても過言ではありません。

(3)近づいている?バイスからの卒業

さて久々のスタメンとなったRCB(23)バイスでしたが、相手ボールホルダーに詰める出足に以前よりも鋭さが感じられませんでした。失点シーンもそうなのですが、岡山右サイドへの相手の侵入に対しての間合いが中途半端に感じられました。(17)末吉の頑張りで事なき得たシーンも散見されました。そうした技術や体力面もさることながら、今の(23)バイスからは昨シーズンまでのような有無を言わさない気力が欠けてしまっているように見えます。

一度はキッカーを主張するも(48)坂本にあっさりとPKを譲った場面、失点後の崩れ落ちるような姿、交代時にあっさりとキャプテンマークを譲る姿、ひょっとしたら体調に問題もあるのかもしれませんが、ちょうど一年前山形との再開試合で鮮やかな間接FKを決めた(23)バイスと比べると明らかに気力の減退のようなものを感じるのです。
様々な要因が考えられますが、ひとつはやはり昨シーズンの昇格に全てを注いでいたことによる「燃え尽き」のような現象が考えられます。
そして、もうひとつは自身のプレースタイルが審判に受け入れられない傾向が強まったことによるモチベーションの低下、これもあるように思えます。

しかし、先日のファジゲートのインタビューを読んでも感じましたが、今の(23)バイスは現状の自分を受け入れようとしているようにも見えます。
その上で、後進に少しずつチームの核を任せようとしている。
あえてこう書きますが「身の引き方」のようなものを模索しているように見えるのです。
今回、話題になったPKにしても、これまでは(23)バイスにお任せであった訳です(チアゴは除いて)。
このいわき戦の大きな収穫を上げるなら、(23)バイスが岡山入団後ずっと背負ってきた重圧を他の選手たちが肩代わりして勝つことが出来た点にあると思います。

とはいえ、このままずるずるとフェードアウトしてしまうには残り9試合(以上)は長過ぎます。(23)バイスの戦力としての貢献を考えた場合、それは攻撃的なピースとなりそうな気がします。
これまでの途中交代の試合でも前向きにボールを奪う、失わないことで彼の持ち運びから一気に決定機をつくるシーンもありました。そしてFKでの得点もまだまだ期待できると思います。

3.まとめ

結局、決勝点の場面については何も触れずまとめに入りますが、いわきに厳しい判定であったと思います。序盤からいわきのフィジカルコンタクト、特に足を出すプレーに関しては主審は厳しい口調で注意を与えているように見えました。伏線はあった訳ですが、いわきのプレースタイルを考えますと、急にそれを変えることも出来なかったと思います。
岡山としては運に恵まれた勝利でしたが、サッカーのみならず震災からの学びや地元海産物を積極的にアピールする等、意欲的ないわき遠征を展開したサポーターに勝利というご褒美が舞い降りたのではないかと、筆者は思いました。

今シーズン初の3連勝を果たしました。
チームは急激に強くなっています。しかし、このままシーズンを突き抜けられる力まで確認は出来なかった。これが率直ないわき戦の感想です。
だからこそサポーターの後押しが必要なチームなのだと再認識しました。

今週末の仙台戦、ホーム側は週明け早々に完売。満員に近い形でチームを後押しできます。今の仙台も比較的前から獲りにくるチームであると思いますが、奪ってからの質の高さはおそらくいわき以上であると予想されます。
簡単な戦いにはならないと思いますが、選手の粘りを引き出せるような応援がしたいですね。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。






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