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【ファジサポ日誌】75.屈辱の日曜日~第37節 ファジアーノ岡山vsジェフ千葉~

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この圧倒的な勝利により、サッカーメディアはこぞってジェフ千葉を称賛し、更にその注目度は増すのであろう。

事実、称賛に値する試合内容であった。
最近特にその雰囲気を感じているが、関東中心のサッカーメディアはオリジナル10の一員である千葉のJ1復帰を望んでいる。

名門古河電工を母体とし、現チェアマンを始め、数多くの名選手を輩出、日本サッカーに大きな薫陶をもたらしたイビチャ・オシムが率いたクラブであり、ナビスコ杯も獲得した。
近年の低迷から復活を遂げようとする過程が今まさに目の前にあるという点を踏まえると、若き指揮官のマネジメントも含めて注目度が高くなるのは当然である。

そんな千葉に比べ、全国的な注目度で言えば、プロビンチャーレのひとつに過ぎない岡山であるが、経営面でもサッカー面においても、まだまだ全国的には知られていない苦労があり、岡山なりの物語を積み重ねながら、ここまで実力をつけてきた。

だからこそ、このホームゲームにおいては千葉の引き立て役になってはならない。
「岡山のサッカーここにあり」という姿を全国のJリーグサポーターに示してやれ、そんな気持ちで選手をピッチに送り出した。

しかし、何もできなかった。マイボールを前に運べない、ハーフコートサッカーのような時間帯、千葉ドゥドゥの煽りに反応した千葉サポーターの歓声が圧倒する「我らが聖地」…。
「前シーズン3位チームの困難」を乗り越えかけている終盤戦をたった1試合で無にされてしまうかもしれない。
すべてが屈辱であった。

しかし、屈辱を感じるだけで終わらせてはならない。この戦いから何が見え、何をチームの成長に繋げるべきなのか?

振り返りたい。

痛恨の失点
堀田は早い段階でファールをアピールしていたが…

1.試合結果&スタートメンバー

J2第37節 岡山vs千葉 時間帯別攻勢守勢分布図(筆者の見解)

残念ながら千葉の実力が上でしたが、これだけの大差がついた原因には岡山の戦い方の選択もあったと思います。ひとつは右サイドの人材選択、そして試合の入りにポイントがあったと考えます。

J2第37節 岡山vs千葉 スタートメンバー

その岡山は千葉よりレンタル加入中のRWB(17)末吉塁が契約上の理由(千葉戦に出場できない)により欠場。週中より代役のRWBが誰になるのか話題になっていました。

ちなみに筆者は故障明けの(16)河野諒祐や(14)田中雄大の状態まではわからなかった為、この2人が不在の前提でRCB(15)本山遥をRWBで起用、空いたRCBに(23)ヨルディ・バイスを入れる形を予想していました。

RCB(15)本山の最終ラインからの持ち上がりが攻撃に好循環をもたらしていた最近数戦を踏まえますと、(23)バイスのRCBは機動力に不安も感じさせるのですが、ベンチメンバーを含めての序列や(15)本山のユーティリティ性、彼の最近の守備のパフォーマンスを踏まえると最も現実的な選択肢ではないかと考えました。
そしてもう一つ、この起用案を推したい理由がありました。
それについては後ほど述べます。

実際は「本職」(16)河野の復帰起用となり、両WBを高い位置に押し出すこれまでの岡山の前半の戦いぶりを考えれば、攻撃面でストロングを発揮する(16)河野の起用も一理あり、後半5バックで守る試合展開になれば、選手交代で対応する策はありと、試合前にはある程度勝ち筋は見えたのでした。

先に述べますが、結果的にこの起用が大誤算であったと思います。戦術のこともあるのですが、そもそも(16)河野のコンディションが悪かったように見えました。
この試合を決定づけた3失点目のPKは(16)河野のクリアを千葉(8)風間宏矢にブロックされたことがきっかけになりましたが、視野を十分に確保出来ていなかったと思います。判断の甘さにも試合勘の鈍りが見えましたし、ベンチも彼の状態を見誤っていたと思います。

また、アジア大会に参加中のU-22日本代表GK(21)山田大樹が急遽岡山に呼び戻されました。
GK陣のコンディションが心配されましたが、この件も結論をまとめると(1)堀田大暉が練習中に負傷も間に合った、(13)金山隼樹にも何らかのアクシデントが発生したということになります。
試合序盤の(1)堀田の様子を見ていて、筆者は手の負傷なのかなと感じましたが、どうやらそうではなかったらしいです。

3失点目のPK
堀田はコースを読み切っていたが、
惜しかった

2.レビュー

(1)論点の大半は序盤に尽きる

筆者が現地で観た感想と、DAZNでの見直し後の感想は一致しており、この試合に関しては細かい戦術や配置などはさておき、「試合の入り」を失敗したことに尽きると思いました。
そこで気になったのが、この試合の岡山のゲームプランが実際にどのようなものであったのかということです。

つまり、試合序盤をラインを低く設定して受けるのか、それとも高く設定するのかということです。
今シーズンこれまでの岡山の「文脈」やCB(5)柳育崇の身振り、そして試合後の木山監督のコメントを観ていますと、おそらく岡山は両WBを高い位置に上げ、相手コートでサッカーを展開するいわゆる「自分たちのサッカー」を展開したかったのかなと推測します。

そのためにベンチは(16)河野の攻撃力に期待したのだと思います。

しかし、現実はそのようになりませんでした。
千葉はこれまでの試合と同様に序盤からハイペースで強度の高いハイプレスを岡山のボールホルダーに対して複数人で仕掛けてきます。

また選手個々で見た時に(15)本山遥は千葉CF(9)呉屋大翔との最初の競り合いで強く接触され、以降マッチアップでは後手に回ります。
試合後(15)本山は千葉のプレスについて、これまで経験が無い速さ、強さと語っていました。振り返ってみれば(15)本山の入団時のポジションはSB、昨シーズンは主にアンカーを務めていました。対人能力の高さには定評はありますが、CBとしての経験値はまだまだ不足しているのです。

更に岡山の裏を狙った千葉の正確なロングボールが岡山の最終ラインを押し込んでいきます。

(15)本山が低い位置に貼り付けられたこと、そして最終ライン全体が押し込まれたことによって、岡山は受けざるを得なくなったのだと推測します。

おそらく、最近の千葉の試合を観ていればこうした展開は予想されたことであり、筆者が最初に「(15)本山RWB-(23)バイスRCB案」を推した理由は、前半を低い位置で受ける展開も想定したからなのです。

では、そんな受ける展開にも関わらず守備面で不安が残る(16)河野を起用したベンチの失策と直ちに批判するのかというと、実はそんな気持ちも筆者にはないのです。

個人的な気持ちとしては、明確に守備ブロックを敷いて低い位置で受けてほしかったと思っています。

しかし、この点の見方が木山サッカーの「ミソ」なのかなと思うのです。
当然、ベンチはプロですから千葉のプレスのスピード、強度と自チームの力量との差がプラスなのか、マイナスなのかは見当がつくはずなのです。

おそらく木山監督は、特に今シーズン「自分たちの良さ」を出すことにこだわっています。だからあえて、この試合に関して対症療法的なサッカーではなく、自分たちのストロングを出す布陣で臨んだのだと思います。
そして、受ける展開からどうすれば攻勢に転ずることが出来るのか?
それをピッチ上で選手に考えさせていたように見えたのです。
劣勢ながらも、ピッチ内で選手同士の会話が絶えなかったのはその現れであったと思います。

この戦い方については評価が別れるのかもしれません。
J1昇格戦線を戦っている状況ではもっと現実的な戦いにシフトしてほしいという想いを個人的にも持っています。

しかし、一方でこの良い意味でプレッシャーが掛かる状況でこそ、選手の自主性を促す戦いは、彼らの急激な成長を生み出しているのかなとも思うのです。
振り返れば、今シーズンも左サイドはずっと佐野航大に任せていて、もっと早い段階で(42)高橋諒や(2)高木友也といった「本職」に任せていればもっと簡単に勝点を積み上げられていたのではないかとも思うのですが、あえて佐野に「考えさせた」。
そして「考えさせた」結果がオランダへの移籍に繋がったのかもしれないのです。

おそらく、こうした選手の成長を促す戦いというのは残留争いのような戦いでは出来ません。ある程度の順位、結果を残しつつ、勝負にこだわりつつ、選手の成長も促す。木山監督ならではのマネジメント、胆力ではないかと考えています。

(2)劣勢打開にはもう一歩の努力が必要

さて、劣勢の選手たちの打開策がどのようなものであったのか?
それは素直にこれまで積み上げてきた「自分たちのサッカー」を展開するというものでした。

キャプテン(5)柳は押し込まれながらもラインを上げようと抵抗していましたし、(48)坂本一彩は動きに精細を欠いていたように見えましたが、いつもどおり下りて受けようとしていました。(7)チアゴ・アウベスも裏を狙い、LWB(42)高橋も左サイドを崩そうとしていました。
そのチャンレンジする姿勢自体は悪くないと思うのですが、この岡山の各ストロングについても、千葉のスカウティングが勝っており、なかなか岡山は有利な状況をつくれません。

そこで、今後岡山が更に成長する上でも更に必要となるのが、状況に応じてプレーの幅を広げることです。
真面目な岡山の選手たちの欠点とも思うのですが、予め用意されたプレーを愚直に実現する力が高い反面、想定外の事態に対しての柔軟性はやや欠けるように感じられるのです。

前項目の冒頭で「岡山のボールホルダーに千葉は複数人でプレスしてくる」といった内容を述べましたが、複数人でプレスにくるということは、その裏にスペースがあるという事です。単純にこのスペースをもっと使えば良かったかなと思います。

39分のRIH(44)仙波大志のドリブル、57分のLCB(43)鈴木喜丈の持ち上がりはスペースをシンプルに使うという意味で効果的でした。
もっとこういうシーンを増やしたかったです。
実はМF(27)河井陽介の先発起用が最も効果的であったのかなと、これは後から思うことです。
しかし、磐田に良い形で勝利した後の試合ですので、RWB以外のポジションは触れないのも理解できます。あくまでも結果論です。

39分千葉中盤のスペースを突いた仙波のドリブル
もっとこうしたシーンを増やしたかった
鈴木の持ち上がりから左を崩そうとする岡山の形
千葉、田中の寄せが速く、パスの精度が少しずつ狂う

そして、残念であったのが岡山2トップのプレスについてです。
千葉GK(23)鈴木椋大のキックの精度は非常に高く、特に左サイドLSB(67)日高大やLSH(77)ドゥドゥを狙ったタッチ際へのキックは高い確率で通っていました。
岡山が自陣に張り付けられた要因の一つでしたが、岡山の2トップがほぼここにプレッシャーを掛けられていなかったのは痛かったです。
おそらく展開力のあるCH(4)田口泰士に通されるのを嫌がっていたのだと思いますが、千葉の最終ラインのプレー選択はリスク回避が最優先(ビルドアップはほぼ捨てている)と感じましたので、例えプレスを剥がされてもいいので、もっとGKにプレッシャーをかけて欲しかったです。
これを徹底するだけでも全然結果は異なったと思います。

※千葉GK(23)鈴木から(4)田口にはほとんどパスを通していない。

J2第37節 岡山vs千葉 千葉GKキック時のパターン

3.まとめ

以上、千葉戦の振り返りでした。
あえて千葉の弱点といえば、自陣でボールを持たされた時の展開にあると感じました。
これは今後千葉と戦うチームの参考になるとは思います。
この試合に関しては、序盤の入りで岡山が後手を踏んだことが全てと述べましたが、千葉の今のサッカーが比較的にサッカーの原則を大事にしていることからも、岡山ももっとシンプルにスペースを使うといった原則で対抗すれば、もう少し点差を縮められた可能性はあったのかもしれません。

今シーズンは切り換えの速さ、強度といったサッカーの原則を強化したチーム、この千葉や町田もそうですが、ビルドアップの構築にこだわらない非保持型のチームの躍進が続いています。
一方、昨シーズンは新潟に代表される保持型のチームが多く上位に進出しました。

サッカーのトレンドの流れがどのように決まるのか?
筆者にはわからないのですが、結果的に岡山はJ2のトレンドの逆を行ってしまっているような気もします。
保持型が躍進する年に非保持型であり、非保持の年は保持型を目指しているといった具合です。

もっと正確にみれば、岡山は保持・非保持のミックス型のようなチームであると思います。そういうチームは保持、非保持のどちらかに全振りしているようなチームには圧倒される一方で、柔軟な戦い方も出来る点が良さであると筆者は感じています。
磨くべきは戦法の柔軟性なのだと思います。
そういう意味では戦況に応じた戦いが出来なかったこの千葉戦は残念でした。

この屈辱的な敗戦をも糧にして、残り5試合、木山ファジが魅せてくれている急成長に懸けたいと思います。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

高橋のDOGSO退場の場面
今季の岡山はファールを取られやすいことから、
プレーの強度が上がらない
手の使い方については更なる改善が必要
前半、CKから柳のヘディングシュート
ゴールから遠い位置からのシュートになった
少々素直過ぎたか
柳を囮にしたパターンも欲しかった
点差は離れても木村やルカオの前進は、
サポーターを沸かせた

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。

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