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【ファジサポ日誌】57.「繋ぐ」とは~第21節大分トリニータvsファジアーノ岡山

スコアこそ0-1でしたが、非常に厳しい敗戦といえます。
先週の東京V戦、この大分戦と現在の2・3位クラブとの6ポイントマッチで痛恨の連敗。この2戦は結果のみならず、ファジアーノ岡山の本質的な問題点が浮き彫りとなる試合内容であったと思います。
前回レビューでは、主審の拙いゲームコントロールの問題からみえてきました岡山の「手を使う」プレーについて触れました。今回の大分戦のレビューでは、よりサッカーの内容面について触れていきたいと思います。

数字上は、現段階でJ1昇格という目標を捨てるものではなく、悲観はしていませんが、リーグ後半戦の巻き返しに向けて、サッカーの内容面でかなりの成長が求められる。そのように実感した大分戦でした。

振り返ります。

1.試合結果&スタートメンバー

J2第21節 大分vs岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

完成度の高い大分のパスワークに対して、ある程度ゲームを握られることは岡山も想定していたと思いますが、おそらく岡山の想定以上に前半はゲームを支配されていたと思います。
この前半を何とか無失点に凌ぎ、後半開始から守備を修正したことで岡山もリズムを作り始めますが、アタッキングサードでのパス、シュート共に精度を欠いている中、大分にワンチャンスを決められ敗戦を喫してしまいました。

J2第21節 大分vs岡山 スタートメンバー

岡山は大きくスタメンを変更してきました。外国籍選手がいないスタメンは今シーズン初となります。前節は守備時4-4-2の3-5-2でしたが、この試合は完全な3-5-2(守備時5-3-2気味)であったと思います。RWBには(16)河野諒祐ではなく(22)佐野航大を起用しました。中盤の構成も普段は右の(14)田中雄大が大宮戦以来のLIH、2トップは開幕戦以来の(18)櫻川ソロモン、(48)坂本一彩の若い2トップです。GK(1)堀田大暉は体調不良(後ほど判明)のため欠場、ベテラン(13)金山隼樹が今シーズン2試合目の出場を果たします。(13)金山はこれがJ通算150試合目のメモリアルとなりました。

一方、大分は4-2-3-1の表示にしていますが、実際には(5)中川寛斗を中盤に吸収するいわゆる「ゼロトップ」です。
主に中盤から前線に飛び出していた選手はこの(5)中川、(10)野村直輝、(18)藤本一輝の3人でした。
現在、大分は故障者が続出しており、本職のFWがほぼいないという状況のため、この「ゼロトップ」を採用していますが、元々持っているパスワークの強みを全面に出すことで、直近ではリーグ戦連勝をマークしています。

今シーズンの大分について、筆者の見立てを少々述べます。
開幕前は昨シーズンより厳しい戦いになると予想していました。
三竿雄斗(京都)、下田北斗(町田)、井上健太(横浜FM)、呉屋大翔(千葉)らの穴は大きく、特にFWの補強がなかった点が評価を下げた理由でした。
しかし、徳島との開幕戦でFW(29)宇津元伸弥が劇的な決勝ゴールを上げるなど現有戦力が奮起。昨シーズン1得点のFW(13)伊佐耕平は今シーズン既に3得点をマークしています。
そもそもチームとしてFWの得点にこだわっている様子もなく、元来のパスワークの強みに加えてセットプレーを磨くなど、チーム力の底上げで得点力をカバーしています。

一方でコロッと大敗してしまう試合も散見されます。連戦最中のデーゲーム第16節アウェイ山形戦は0-5と大敗してしまいました。また、天皇杯初戦(2回戦)はJFLのヴェルスパ大分に0-1の敗戦と、連戦に弱いという顔も覗かせます。現在2位でありながら得失点差が+3しかない点はこうした戦いぶりを表しています。

2.レビュー

(1)暗黙のコミュニケーション

この試合、岡山側の視点からもう一つの注目点がありました。
昨シーズンからJ1を中心に笛を吹いている御厨貴文主審がこの試合を担当したことです。
ザスパクサツ群馬やカターレ富山で活躍した元Jリーガー審判として知られ、2019年のJリーグ公式戦(J3)デビューから僅か4年弱でJ1の主審を担当するまでにキャリアを積んでいます。
「正当なフィジカルコンタクト」に関して簡単にファールをとらないジャッジには定評があります。

前節東京V戦で高崎航地主審のジャッジに大きく翻弄された岡山の次戦に、ジャッジ傾向がわかりやすく評価が高い主審を割り当てられた。偶然とは思えないのです。昨シーズンも山形との再開試合は元国際審判員であった佐藤隆治さんが担当されました。憶測に留まりますがJFAの配慮があったように思えます。
あくまでも仮の話が前提にはなりますが、このJFAの配慮に対して、岡山もフェアプレーの意思を示した一戦であったと個人的には感じました。この大分戦、「手のひらを使うプレー」は明らかに減っていましたし、外国籍選手をスタメンで起用しなかった点には戦術的な理由以外にこうした要素もあったと推測します。
そこが勝敗に影響したかといえば…、影響したと筆者は思うのですが、今シーズンの判定傾向から、いずれ岡山の「手のひらを使った」プレーは審判に強く咎められるようになると思っていましたので、まずこのスタイルでの戦いをJFAにアピールできた点は収穫であったと前向きに捉えています。

(2)機能しないシステム

おそらくこの試合の岡山は徳島戦での成功体験に基づき、自信をもって3-5-2にチャレンジしたものと思われます。ゼロトップにより中盤が厚くなる大分に対して岡山も中盤(両ウィングを含めた)に枚数を割くことで対抗しようとしたのではないでしょうか。

しかし、この試合は上手く機能しませんでした。
端的に述べますと、徳島戦と選手の組み合わせが異なったことが影響した、そして大分のビルドアップの完成度の高さに岡山の戦術が通用しなかった、この2点が要因であると考えます。

岡山の戦術は、選手個人の能力・技術・プレースタイルに大きく担保されています。
選手やその組み合わせに変更が生じると戦術の質が大きく変化してしまうのです。


2トップは徳島戦の(8)ステファン・ムーク、(99)ルカオのコンビではなく(18)櫻川ソロモン、(48)坂本一彩が先発しましたが、まずこの2セットではプレスのスピード、強度が異なります。
(18)櫻川&(48)坂本も序盤から大分最終ラインにプレッシャーを掛けにはいきますが、(8)ムーク&(99)ルカオのコンビと比べると相手のプレッシャー、脅威にはなっていなかったように感じました。
もちろんこの2トップで取り切ることまでは考えてなく、おそらく徳島戦のようにサイドに誘導する意図がみえました。
しかし、2トップのプレス強度が徳島戦よりは落ちることで、大分は楽にサイドにボールを運べていたように感じました。

また、(8)ステファン・ムークの場合は相手ボランチへのパスコースを消しながら、前線へプレスも掛けるという「二刀流」的な前線守備が可能なのですが、(48)坂本の場合はそこまで精密には出来ていなかったと思います。おそらく岡山は2トップの守備の精度は計算には入れていて、大分のボランチに対してはアンカー(27)河井陽介が高い位置まで上がり後方からプレッシャーをかけていました。

J2第21節 大分vs岡山 大分のビルドアップ一例

この試合では同じような場面がたくさん出てきましたので、「モデル図」という形で図示してみました。

(27)河井が大分のボランチ(14)池田廉にプレッシャーをかける場面まで説明しました。ここから大分のビルドアップの特長を踏まえながら、岡山のシステムが機能しなかった点について説明を進めていきます。

大分GK(24)西川幸之助はFP並みの足元の技術でビルドアップに加わるため、岡山の2トップと常に3対2の数的優位をつくっていました。ここで岡山に取られそうになると、両SBが下りてくるのです。図ではLSB(17)高畑奎太が下りて岡山2トップと4対2の数的優位をつくっています。仮に岡山(14)田中が大分(31)ペレイラをマークしても4対3です。まず大分はビルドアップの始動の段階で数的優位をつくる動きが徹底されていました。これは両SBに限らず(14)池田や(6)弓場将輝のダブルボランチも状況に応じて最終ラインまで下りていました。

局面がサイドに移ってから感じましたのがこの点なんですね。
大分の選手はボールの受け方が上手いですし、予め前に体の向きを変えられる準備が出来ている。この点は画面上からもしっかり伝わってきました。
岡山としてはこのサイドが「勝負の場面」であったと思いますが、(22)佐野、(42)高橋諒共に劣勢となりました。
大分はこのサイドの1対1で優位に立てますので、そのままウィングが縦に突破するシーンもありましたが、より特長的であったのが中盤を経由して逆サイドに展開する攻撃です(図内では①)。

非常に大分の攻撃は理詰めで1対1で突破できるならそれで良いと思うのですが、そこさえもリスクと捉えて、より確実な手を打つ。それが逆サイドへの展開なのです。ここで「ゼロトップ」が生きてきます。(27)河井が前方への移動を繰り返すことで、中盤に若干のスペースが出来るのですが、ここで大分(5)中川、(10)野村のいずれかがフリーになるのです。SBから中盤を経由して逆サイドの(27)松尾勇佑へ出し一気に決定機へと移行する訳です。

試合全体を通して、特に前半は大分のビルドアップが片方のサイドに寄っている傾向が強かったと思うのですが、そのねらいは逆サイドのスペースを活かすことにあったのです。この形のビルドアップは大分右サイド側でも行われていましたが、全体的には図示しました左サイドからつくるパターンが印象に残りました。それは右でつくって左に展開することで、この試合まで4得点をマークしている大分のRSH(18)藤本一輝がボックス内に走り込める効果をねらったものだと考えます。

実は岡山もこうした大分のねらいはある程度予想していたと思います。
この試合でIH(14)田中と(44)仙波大志の位置を入れ換えましたが、大分の左でのつくりを意識して中盤でボールを奪えた際に数的不利の状況下でボールをコントロールする。(44)仙波にそんな役割を与えていたように思いましたが、自信はありません。

ここまで述べさせていただきましたが、かなりこの試合のポイントについて書いてしまいました。(22)佐野のサイド起用など語るべき点は他にもありますが、総合しますと大分のビルドアップの完成度が岡山の対策を上回ったという事に尽きると思います。

(3)岡山はどのように戦うべきであったか?

しかし、スコアは0-1。昨シーズンの大分との対戦は1勝1分と勝ち越し。これがサッカーの面白いところで、どれだけ完成度の高いサッカーを目の前にしても勝つチャンスはあるのです。
大分のサッカーはボールを受ける際の細かい動き出し、最終ラインに下りる動き、前線に飛び出す動きなど、パス能力だけではなく高い運動量が求められます。この試合でも実際に大分の運動量が落ちていると思われた時間帯はありました。後半、岡山にも自分たちの時間はありましたが、残念ながら決定力不足によりモノにできませんでした。

岡山が極めていきたい道、昨季からの流れを踏まえるのであれば、こうした試合を4ー3で逆転する力を身につけることではないでしょうか?

【ファジサポ日誌】40.ミスを論じるよりも~第5節vsヴァンフォーレ甲府~

5節のレビューの一部です。相手にどのようなサッカーをされても、どれだけ自分たちのミスで崩れても、火事場の馬鹿力でもなんでもいいので、最終的に相手を上回る。今シーズンは、そこへのこだわりが昨シーズンよりも薄れているような気がします。個人名は出しませんが、マイボールになった時の簡単なロスト、シュートを撃つべき場面で撃たない、そして致命的な決定力不足。昨シーズンの岡山が出来ていたことが今シーズンは出来ていないのです。

ちなみにこの甲府戦のレビューでは「ビルドアップはトライ&エラーの繰り返し」とも筆者は述べていますが、この試合を観る限り、岡山のボールの繋ぎについては選手間の意思がバラバラであるようにみえました。

それは、ボールホルダーが味方に近づく、もっと寄るようにジェスチャーを出す場面が頻繁にみられること、そしてスローインが全く上手くいっていないことからもわかります。

この状況であれば、この試合は早めに(23)バイスを入れて、ビルドアップを捨ててもよかったのかもしれません。

最近の木山監督のコメントからは「もっと上手くなる必要がある」との趣旨が強く伝わってきます。昨シーズンと同じサッカーでは成長がないとの意識が非常に強いのかもしれません。
しかし、シーズン当初、岡山のビルドアップの位置づけはあくまでも戦術の補助的要素であったと筆者は記憶しているのです。

それが最近数戦はビルドアップへのこだわりが徐々に増していっているような気がします。上位進出への条件がビルドアップの向上にあるとチームとして捉えているのであれば、それは少々危険な考え方なのではないかと思えるのです。

3.まとめ

右下のコレオで表現された「繋」の一文字。
正直なところ、完敗だなと思いました。

試合中に今シーズン琉球から移籍した大分(14)池田のコメントが紹介されていましたが、選手からも「繋ぎ」に自信を持っていることが伝わってきました。
また、GKの(24)西川は今シーズンから試合に出始めましたが、昨シーズンの正GK(1)高木駿に引けをとらないビルドアップ能力を魅せています。
つまり大分のサッカーはクラブの「型」に選手が染まっていくので、誰が出場しても一定のレベルまでは安定したサッカーを披露することができるのです。

一方、岡山はGKが代わっただけで、ビルドアップの質そのものが大きく変わってしまう。大分との対比で述べるなら「型」がない属人的なサッカーといえます。

片野坂監督時代から何年も「繋ぐ」サッカーに取り組み続け、その間にJ2復帰、J1復帰、J2降格と激動のシーズンを送り続けてきた。浮き沈みがあるというのは、ある意味何シーズンもチャレンジを続けてきた証といえます。
その取り組みがボールだけではなく、クラブとサポーター、人と人との「繋ぎ」へと広がっている。
サッカークラブの理念というのは色々あると思っていまして、岡山にも「子どもたちに夢を」という素晴らしい理念があります。
しかし、この試合に関しては、クラブが取り組むサッカーの内容とリンクした理念の素晴らしさと完成度を見せつけられたと思います。

岡山にもサッカーの「型」がほしいと思った夜でした。
岡山には、岡山の子どもに岡山の地において、トップリーグの試合を観せるという夢があります。しかし、その高い理想をどのようなサッカーで実現していくのか?サッカーの中身については試行錯誤中といえます。

その可能性については近々、レビューとは別に記事を作成する予定です。

一方で、大きな夢も小さいことから始まります。
今の岡山ができること、それはスローインをしっかり繋いだり、ボールホルダーを助けるなど、大分の立ち位置と比べますと悔しいですが、泥臭く一つ一つのプレーを見直すことではないでしょうか。

次は甲府です。ホームでは悔しさを味わった相手です。しっかり守って、マイボールを繋いでほしいです。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。

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