見出し画像

【ファジサポ日誌】44.河井陽介のコメントから紐解く〜第9節vsロアッソ熊本〜

期待の裏返しなのか、ファジアーノに対する目が厳しくなっているシーズン序盤であると感じています。これは筆者も含めまして、前年3位チームを応援するという不慣れさからきているとも思います。
考えてみればJ2には長くいますが、決してJ1昇格争いの常連ではなかったクラブです。そんなクラブがJ1に本気で上がろうともがいている。
ひょっとしたら、ファジアーノ岡山は今ものすごい(語彙力なくてすみません)経験をしている最中なのかもしれません。

1.試合結果&スタートメンバー

J2第9節 岡山vs熊本 スタートメンバー

岡山が中3日、熊本が中2日で臨んだこの一戦。対照的でしたのが両チームのスタメンです。
岡山は中盤の(6)輪笠祐士や(8)ステファン・ムークをベンチ外、そしてCF(18)櫻川ソロモンはベンチスタートとターンオーバーを行いました。
一方の熊本は3-1で勝利した前節金沢戦と変更はありませんでした。
勝利の流れを重視したというところでしょうか?

そして岡山のベンチには「エース」(7)チアゴ・アウベスが帰ってきました。最近チームが(優勝を目指すには)低調ということもあり、この絶対的エース待望論は日増しに高まっていました。サポーターの期待も否応なしに高まります。

4位と飛躍した昨シーズンから多くの主力が抜けた熊本のメンバーにも注目しました。
菅田真啓(仙台)、イヨハ理ヘンリー(京都)らが抜けた最終ラインにはMFから転向した(24)江崎巧朗、駒大卒ルーキーのレフティ(22)相澤佑哉が名を連ねます。
やはりビルドアップにこだわった選手起用といえます。
「熊本の心臓」ともいえるアンカーには、鳥栖に移籍した河原創に代わり、今シーズンは生え抜きの(8)上村周平が入っています。

熊本の心臓 上村周平

2.レビュー

J2第9節 岡山vs熊本 時間帯別攻勢守勢分布図(筆者の見解)

ボール支配率は岡山36%、熊本64%と圧倒的に熊本が支配しました。
しかし、上の図でも示しましたとおり岡山もアタッキングゾーンへ侵入する回数はそれなりにあり、シュートも14本を放っています。
特に後半は攻勢を強めた時間もあっただけに、やはりチャンスを決め切れなかった点は悔いが残るといえます。

攻守は連動していますので、ボールを持つ熊本に対する守備という面も踏まえまして、こうした試合を勝つにはどうすればいいのか?という岡山側のシンプルな視点で今回はレビューしてみたいと思います。

(1)河井陽介のコメントから気づいたこと

有料媒体(FAGIGATE)からの引用になりますので、そっくりそのままは掲載出来ませんが(有料ですが登録されていない方はぜひお読みください。ファジへの理解が深まります。)、試合後の(27)河井陽介のコメントの趣旨は、①チャンスを作り続ける、②撃ち続ける、そして③前半の攻守についても触れています。

この試合で(27)河井陽介は63分(44)仙波大志に代わり途中出場、ボランチの位置から攻撃を組み立てますが、いつも以上に積極的にゴールを狙います。
74分にFKのこぼれ球をボックス内に蹴り込み(5)柳育崇が上手くフリック、枠内に飛ばしますがゴールライン上で熊本DFにクリアされます。この流れから75分には熊本GKのパンチングをダイレクトでミドルシュート、強烈な弧を描いたシュートは惜しくもクロスバーを直撃しました。

岡山2シーズン目の在籍となり、筆者も(27)河井の個性を徐々に理解できるようになったと思っています。出場した時にチームに必要なことを淡々と遂行するプレーヤーであると思っています。彼がここまでシュートを狙ってくる、それが現状の岡山に必要であったからだと思います。

ではシュートを数多く打つ、積極的に打つ意義はどこにあるのか?ここからは(27)河井のコメントの意図を発展させながら考えていきます。

攻守に奮闘する河井(中央右)
この日はいつにもまして闘志が伝わってきた
この試合が勝負所とみていたのか

手計算ですが、リーグ戦9試合が経過した時点での岡山の総シュート本数は114本(1試合平均12.6本)、このうち枠内シュートが35本(枠内シュート率30.7%)、得点は13(決定率11.4%)を数えます。
2023シーズンに関しては、まだ一般的に閲覧可能なデータが出ていないので(もしあれば教えてください)、他クラブとの比較は出来ないのですが、決定率が10%に近いあたりというのは、上位を目指すクラブとしては物足りなさを感じてしまいます。

つまり、決定力が低いので得点を奪うにはより多くシュートを撃つ必要がある。当たり前なのですが、(27)河井のコメントから彼のコメント意図とは必ずしも一致はしないかもしれませんが、このようなことを筆者は感じたのです。

シュートを増やすためには、これも当たり前ですがチャンスを増やさなくてはなりません。
Football laboさんのデータによりますと、岡山はショートカウンターでの攻撃指数が高くなっています。これはリーグ4番目の高さで、岡山のチーム内では攻撃セットプレー(指数59)に次ぐ高さ(指数55)です。
しかし、ゴール率はわずか0.6%、その前段階であるシュート率も13.0%に止まっています。
これは指数2位の秋田と同じぐらいなのですが、他の指数が高いクラブと比べますと4ポイントほど落ちるのです。
つまり、ショートカウンターを仕掛けるが十分フィニッシュに至っていないということが言えます。

実は(27)河井のコメントには③前半の攻守について、カウンターの質の部分についての言及もあるのです。こうしたデータを知っているのどうかはわかりませんが、やはり(27)河井の目は的確にチームの現状を捉えているのだと思いました。

この試合での岡山の前半を総括的に振り返ってみたいと思います。

(2)岡山の攻守について

先ほどは触れませんでしたが、岡山のシステムに大きな変化がありました。これまで中盤をダイヤモンド型にする4-4-2を軸にリーグ序盤を戦ってきましたが、この試合では(44)仙波大志と(41)田部井涼が比較的同じ高さでプレーをしていました。いわゆるダブルボランチと考えてよいと思います。
これに伴い中盤をダイヤモンドから正方形、もしくは台形に変えてきました。

岡山はキャンプから中盤ダイヤモンドのシステムを様々な選手の組み合わせで試してきましたが、このシステムはこの日欠場した(6)輪笠や(8)ムークあってこそなのだろうなと思いました。
特にアンカーを務められる人材はリーグ広しといえどもJ2では貴重です。
昨シーズン(15)本山遥がアンカーに挑戦していましたが、あの頃を思い出せば、やはり誰でもこなせるポジションではないといえます。
更に(6)輪笠を上手にサポートしていました(43)鈴木喜丈の不在の影響もあったと思います。

それでは前半のカウンターの質について徐々に触れていきたいのですが、カウンターの話ですので、まずはボールを奪うところ、守備の面から振り返ります。実はダブルボランチ採用のねらいには、メンバー的にダイヤモンド型が難しいという理由以外に熊本の攻撃対策があったのではないかとみました。

相手コートでボールを持ちたい、出来るだけ高い位置でボールを奪いカウンターに繋げたい岡山は、どの試合でも高い位置からのプレスを重視しています。2トップがいかにプレスをかけられるか?まずはここが重要になります。

この試合の2トップは(9)ハン・イグォンと(99)ルカオでした。
ターンオーバーの要素が強いのですが、この2人がしっかりしたプレスをかけるイメージは正直なところ、あまり湧きませんでした。
(38)永井龍の長期離脱は痛いと改めて思いました。
それでも試合序盤はこの2人に「プレス!」と後方から指示が飛んでいました。

木山監督の選手起用は基本的には選手の特性、良さを全面的に出させ、チームに還元させるスタイルであると筆者は理解しています。
一方で、今シーズンは「相手コートでボールを持つこと」にこだわっている分、試合内容的にJ1を意識している分、各選手に一見自身の特性と合わないようなプレーにもチャレンジさせている、そんな印象を筆者は持っています。(5)柳育崇にビルドアップさせている点はその典型です。

その点で誤解したくないのは、選手の特性を無視して理想を追求している訳ではなくプレーの幅を広げるよう選手に成長を促していたり、J1昇格に向けて、フォアザチームの観点からそうしたプレーをさせているという点です。そのように見えるのです。

おそらく木山監督は(9)ハンと(99)ルカオのプレスがどこまで出来るのか?見定めていたと思います。そして十分に出来ない可能性も踏まえて次善の策も練っていたと感じました。

熊本の攻撃はアンカーの(8)上村から決定的なパスが出ます。(9)ハンと(99)ルカオの2人は熊本のGK、最終ラインがボールを持った時に(8)上村を上手く背中で消すことが出来ていました。

熊本の攻撃の一例

しかしながら(9)ハンと(99)ルカオのプレスは、全く出来ていない訳ではないのですが、強度やタイミングといった面で有効ともいえませんでした。熊本の最終ラインの技術がしっかりしていたこともありますが、前半は(8)上村を消していても他の選手へのパスは楽に通されていたと思います。

ハンとルカオ、それぞれ持ち味を発揮しようとはしていたが…

上の図は特定の時間という事ではなく、熊本のビルドアップの一例と捉えていただければよいのですが、大きな特徴は中央にボールも味方も集めて敵を引きつける、引きつけた事でサイドに出来たスペースに出して前進する点にあります。これを筆者は「圧縮」と「開放」と勝手に呼んでいます(圧縮の対義語は伸張ですが、それだとわかりにくいので)。
熊本が3-3-1-3(3-3ー3ー1)を導入している理由は開放時にサイドで受けられる人を作れるからだと考えています。

こうした熊本の攻撃に対して、岡山はサイドのスペースにボールが出た際に、熊本のサイドプレーヤーと1対1になるのではなく、例えば岡山右サイドであれば(16)河野諒祐や(14)田中雄大にボランチの(44)仙波がスライドして守備に加わり、数的優位の上でボールを奪おうとしていました。これはよく考えられた仕組みであると思いました。

つまり、SHまたはSBとボランチで相手を挟み込みボールを奪えていたという事です。(44)仙波、(41)田部井がスムーズにサイドへスライドする為にも、この試合はダブルボランチで臨む必要があったというのが筆者の見解です。

これであれば相手コートとはいかないまでも、最終ラインからビルドアップすることはなく、比較的高い位置からカウンターを仕掛けることができます。

先発の田部井、前回の先発時よりもスムーズに試合に入っていた
ボールを持つと可能性を感じさせてくれる

それではボールを奪った後、岡山の攻撃への切り替えを振り返ります。

結論から述べますと、ここがよくなかったのです。しかし、この試合に限ったことではないのかもしれません。

奪ったボールを前線の(99)ルカオに当てる、また彼や(9)ハンの裏へ出そうとするのですが、(99)ルカオに関しては全く収められない訳ではないにしても、やはり十分収められる訳でもありません。
収まったと思ってもファールを取られる場面も多かったです。(99)ルカオの特性を活かそうと彼の裏抜けに期待するパスもありましたが、やはり難度は高くなりますね。

これは(9)ハンにしてもそうなのですが、相手DFを背負った状態で待つ上に2人ともポストプレーヤーではないので、これではなかなか収まらないです。
(99)ルカオはボールを引き出しに下りてくる場面もありましたが、回数も十分ではないですし、(9)ハンもそうした動きに連携してほしかったと思います。

よってせっかく苦労して奪ったボールもすぐに相手に回収されてしまうという悪循環に陥っていたのです。

今回のレビューの切り口になっている(27)河井のコメントはこうした状況への苦言、危機感なのだと筆者は捉えています。

後半、開始早々から岡山は攻撃の圧を強め、55分と早い段階で(18)櫻川を投入したことにより、岡山の前線でボールがある程度収まります。
後半チャンスを多く作ることができた要因ではありますが、それでもマイボールのロストが多いという現状は改善の必要があります。
(48)坂本一彩が戻ってくれば、(18)櫻川と(48)坂本の2人にボールを預ければ、岡山の攻撃時間も増えるとは思いますが、この2人へのこの先の負担を考えれば、奪ったボールをいったんサイドチェンジで大きく展開するであるとか、ボランチのもう一人に預けるなどボールの経由地を作りたいものです。「縦に速い」を目指しているのはわかりますが、前に蹴るだけでは意味がありません。

ボランチのもう一人に預ける…やはり(27)河井が必要です。

この試合でもう一点気づきましたのが、右サイドからのビルドアップの変化です。
(5)柳がなかなか中盤に当てるパスを出せない現状ですが、サイドへパスを出す際にパスの受け手が(16)河野ではなく(14)田中が受けている回数が多かったです。おそらくこの局面が相手に狙われていることを踏まえて、相手選手を剥がせる(14)田中に受けさせたのだと思います。
自陣からドリブルで運んだり、決定機に絡んだりと、この試合細かいミスは多かったかもしれませんが(14)田中の獅子奮迅の働きぶりはチームを助けていました。

まとめ

引き分けが多くなってきました。
勝ち切るためには何が必要なのか?明確化された試合でもあったと思います。シンプルにマイボールの時間を増やしたい、マイボールの時間を増やせれば攻撃の回数を増やせ、得点が増える。筆者はそういうことだと思います。しかし、今のボール運びではなかなかそれが難しくなっているということなのでしょう。

(7)チアゴ・アウベス復帰の明るい話題もありました。彼にボールを預ければ、今までの苦労は何だったのかというぐらい簡単に相手コートにボールを運べてしまいます。また(48)坂本が良いコンディションで復帰できれば、前線へのターゲットとは別にボールの預け先が増えます。
悲観することではないのですが、マイボールの保持という点では(18)櫻川も含めて、非常に属人的な要素に頼らなければならない。
岡山の強みであり弱みでもあります。

復帰したチアゴ・アウベス
前の推進力はさることながら、守備時も丁寧に相手のパスコースを消そうとしていた

首位大分は、昨年のサッカーの肝と思える主力が引き抜かれ今シーズンは厳しいのかなと筆者は思っていましたが、繋ぐサッカーを維持しながら非常に守備の堅いチームを作ってきています。アタッカーをボランチに起用してその能力を開花させたり、懸案のストライカーに関しても開幕戦でJ初得点を決める選手が出るなど、非常に良い循環を作っているように見えます。

ここに追いつくとなると相当頑張らなくてはならないというのが筆者の現在の見解ですが、他の上位チームについてはまだつけ込む隙はあるのかなともみています。

今を諦めないことですね。連戦が終わり、メンバーが完全に戻ればいい試合を作れるのではないか、そう感じさせてくれる一戦でした。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。



この記事が参加している募集

#スポーツ観戦記

13,393件

#サッカーを語ろう

10,673件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?