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夏虫疑氷

「炎は凍らないよ。凍るというものは、液体や物体の水分が凝固点を迎えたときにはじめて発生する現象だ」 「なら、炎はなんですか?」 「燃焼して分解された火種の粒だ。そ…

2024/05/19のつぶやき

文学フリマ東京38 終わりました。 みなさまお疲れ様でした!

ほとりに

そのほとりには、露出した根が足をつける気があった。苔が少しかかり、男性的であると下世話な芸術家の顔役を名乗る男は口にする。 その話を聞いたものは、我こそはと押し…

文学フリマ東京でます、

マスタードみたいな

 ガタガタとかしましい洗濯機にコップを置いて、洗面台の蛇口をひねる。 中古品をクリーニングして捨てる予定だったものを友人から譲り受けたのだから、いい加減にがたが…

ティアドロップ

誰が見つけたか、月が溶けて垂れていた。 はじめは潤んだ瞳のようだったから、大気圏が歪んでいるだとか、月が涙を流そうとしているだとかの話が行き交った。 しかし、日…

キリオオカミの

 キリオオカミの狩りの仕方は、まさにその名をあらわしていた。進めば濡れる夜霧に紛れ、牙を突き立てるそのときにだけはっきりと姿を見せる。ただし、彼らは実体をもつこ…

君たちはどう生きるか めも

観たので、メモ書きです。 あんまり長く書くのは恥ずかしいのでぼんやりとした調子にします。 家族について描いたのかなと思いました。 そして、物語のベースはギリシア神…

ずっとむこう

 星の光が届くずっとずっとむこうの、さらにもっとずっとむこうのその先で、小さな瞳がそれを覗いた。  青い星がぐるぐると、いのちのもとをまぜていた。いつもと変わら…

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シトラス・ジャム

オレンジが染みて定着するまで、それほど時間はかからなかった。 白い肌着にあざやかな夏色。 彼女は気付かず頬張りつづけ、下腹部にシミをたくさんつくる。 まだ幼いとあ…

ねむけまなこに

青いネオンとオレンジ色があそんでる。お互いに相手を飲み込もうと形を変えるけど、水と油みたいに弾きあっていた。 なんだか、仲のいいふたつが戯れているようだ。暗い部…

想像世界の廃棄場

「大量だ」 「大量なの?」 「おうとも、こりゃもう大量の大量よ」 ほこりっぽい風のながれる街とも言えぬ街。 そこは想像世界の廃棄場だった。 「ほら、これは城だろ。…

なぜなに

すっかり目が悪くなってしまったせいか、もう文字は手のひらほどじゃないと見えなくなっていた。 とはいえ、そのせいかぼやけた輪郭からたいていの言葉を予測できるように…

寂しいならば、お話ししましょう

この窓を通して、ずっと向こうでこちらを見ている。そんな気がしてならなかった。静かで遠い、ぼやけた向こう側。 「こちらは寒いよ。あなたはどうかしら。しっかりあたた…

想像に難くない

滴ろうとするしずくは、どちらになりたいのだろう。もしかしたらこのまま時が止まってしまうか、凍りついてしまえたらなんて考えているのかもしれない。 もし落ちたなら、…

氷消瓦解

ひとつ、またひとつと足跡が増えていく。 サクサクと鳴ればまだしも、せっかちが飴玉を噛み砕くようにギシリギシリと音を鳴らした。それは崖っぷちにかけられた橋を渡るよ…

夏虫疑氷

夏虫疑氷

「炎は凍らないよ。凍るというものは、液体や物体の水分が凝固点を迎えたときにはじめて発生する現象だ」
「なら、炎はなんですか?」
「燃焼して分解された火種の粒だ。そこに水分はないだろう。水分は燃焼を邪魔するものでもあるからね」

彼は先達の言葉に肩を落とした。炎を凍らせる現象と相対した際、彼が取れる行動といえばただ己の無力と身の危険を省みて距離を取るのみであったから。

「君の言いたいことはわかる」

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2024/05/19のつぶやき

2024/05/19のつぶやき

文学フリマ東京38 終わりました。
みなさまお疲れ様でした!

ほとりに

ほとりに

そのほとりには、露出した根が足をつける気があった。苔が少しかかり、男性的であると下世話な芸術家の顔役を名乗る男は口にする。

その話を聞いたものは、我こそはと押しかける。言いえて妙と鼻で笑うものがほとんどであるが、反感を抱いたものにできることは少なかった。彼らにできることといえば、ほとんどが自然礼賛的な大言壮語を並べることが関の山だった。

反感は伴えど、その言葉を簡単に打ち消せるものとはならなか

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マスタードみたいな

マスタードみたいな

 ガタガタとかしましい洗濯機にコップを置いて、洗面台の蛇口をひねる。
中古品をクリーニングして捨てる予定だったものを友人から譲り受けたのだから、いい加減にがたが来ている。
 アパートの一階であるおかげでありがたいことに苦情が届けられたことはない。もしここが二階で角部屋でもないとしたら、毎日が苦情の対応に追われていただろう。

 どうでもいいか。早く今日を終わらせよう。ほんの少しだけ、小窓から差し込

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ティアドロップ

ティアドロップ

誰が見つけたか、月が溶けて垂れていた。
はじめは潤んだ瞳のようだったから、大気圏が歪んでいるだとか、月が涙を流そうとしているだとかの話が行き交った。

しかし、日を追うごとに月は欠けていき、三日月型になったが最後、決して満月にはならなかった。次第に大きくなりゆく人々の心配をよそに、三日月の下には溶けた月が垂れ落ちそうになっていく。

あれが種火になるかもしれない。新しい命を結ぶため、月はああして小

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キリオオカミの

 キリオオカミの狩りの仕方は、まさにその名をあらわしていた。進めば濡れる夜霧に紛れ、牙を突き立てるそのときにだけはっきりと姿を見せる。ただし、彼らは実体をもつことがないゆえに肉をくらうことは決してなかった。

 キリオオカミの出生については諸説論じられている。ひとつはオオカミの霊魂が夜霧の中で形を持つことを許されたこと。ひとつは酔いどれの夢。ひとつは与えられた概念が環境適応に成功したこと。

 い

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君たちはどう生きるか めも

君たちはどう生きるか めも

観たので、メモ書きです。
あんまり長く書くのは恥ずかしいのでぼんやりとした調子にします。

家族について描いたのかなと思いました。
そして、物語のベースはギリシア神話の「ヘラクレスの試練」を元にしているのかなと思っています。

描かれてはいませんが、
最後はお母さんが双子座となり主人公を見守っているのかな。
と、「地球儀」が流れてから想像してすこし泣きそうになってしまいました。

自分が双子座なの

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ずっとむこう

 星の光が届くずっとずっとむこうの、さらにもっとずっとむこうのその先で、小さな瞳がそれを覗いた。

 青い星がぐるぐると、いのちのもとをまぜていた。いつもと変わらぬ緑と青のその星は、ときどきうんと青く、うんと赤くきらめく点が出来上がる。

 そちらはこちらを覗いているのだろうか。小さな瞳の彼は、日課を毎日たのしんでいた。あの星には、知らない誰かがいるのだろうか。もしかして、知ってる誰かがいるのだろ

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シトラス・ジャム

シトラス・ジャム

オレンジが染みて定着するまで、それほど時間はかからなかった。
白い肌着にあざやかな夏色。
彼女は気付かず頬張りつづけ、下腹部にシミをたくさんつくる。

まだ幼いとあきれながら、ぼくは口元を拭いてやった。
「上品に食べてるように見えて、ずっと汁が垂れてるよ」
「わかってるよ」
「それにほら、こんな青いの食べられないって」
「それは未熟に見えるだけなの。おいしいんだから」

ムキになってしまったか、未

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ねむけまなこに

ねむけまなこに

青いネオンとオレンジ色があそんでる。お互いに相手を飲み込もうと形を変えるけど、水と油みたいに弾きあっていた。

なんだか、仲のいいふたつが戯れているようだ。暗い部屋で二つの色がこの世ならざる光をまとっている。それを眺める私はなにか。

「少しおしゃれに言いたいけれど、ただ振られてきたばかりのヒトだよ」

言葉にすると、かなしい。それに恥ずかしくもある。なんなの、夕陽が似合う雪みたいな星に行きたいか

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想像世界の廃棄場

想像世界の廃棄場

「大量だ」
「大量なの?」
「おうとも、こりゃもう大量の大量よ」

ほこりっぽい風のながれる街とも言えぬ街。
そこは想像世界の廃棄場だった。

「ほら、これは城だろ。見たこともねえ機械にぐにゃぐにゃの金」
「おもしろいよ!おもしろいね!」
「な、こりゃ大量だろ?ほら、早くとるものとってずらかるぞ」
「そうだなあ」

グッ。
みにくい声が漏れた。彼が振り向くとその子はうずくまって背中に手を当てている

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なぜなに

なぜなに

すっかり目が悪くなってしまったせいか、もう文字は手のひらほどじゃないと見えなくなっていた。
とはいえ、そのせいかぼやけた輪郭からたいていの言葉を予測できるようにもなり、それとなく生活するくらいはできる。

「これなんだ?」

そんなことを知ってか、孫はよくクイズを出すようになっていた。書いた文字を披露してくれるのだが、習いたてのせいかところどころ文字ではないものも混ざっている。

「おさのこさいさ

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寂しいならば、お話ししましょう

寂しいならば、お話ししましょう

この窓を通して、ずっと向こうでこちらを見ている。そんな気がしてならなかった。静かで遠い、ぼやけた向こう側。

「こちらは寒いよ。あなたはどうかしら。しっかりあたたかくしてね」
「うん」

声が聞こえたような気がして、わたしは返事をした。
これが呪いであったなら、このまま魂なんかを抜かれてしまうだろう。そしたら体はここにいて、もしかしたら次にこうしてわたしのように返事をする人を待つのかもしれない。

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想像に難くない

想像に難くない

滴ろうとするしずくは、どちらになりたいのだろう。もしかしたらこのまま時が止まってしまうか、凍りついてしまえたらなんて考えているのかもしれない。
もし落ちたなら、しずくは何を思うのか。走馬灯の中に生まれてからの短い時間を振り返るのか。

落ちるまでは生きている。そんな気がした。この星が人間にとって都合良く回っているならそう思ってもいいだろう。
そう思わせてほしかった。そう思わせてもらえたら、今だって

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氷消瓦解

氷消瓦解

ひとつ、またひとつと足跡が増えていく。

サクサクと鳴ればまだしも、せっかちが飴玉を噛み砕くようにギシリギシリと音を鳴らした。それは崖っぷちにかけられた橋を渡るような、物悲しさを響かせる。

時計の針を止めきれたらば。うぬぼれと後悔は支えきれない彼の背中にのしかかった。

「ばいばい、ありがとう」

あの子の言葉を好意的に解釈するには、彼は打ちのめされすぎた。折れた背中を伸ばすこともない。

限ら

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