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死神の花束《短編小説》

私の初恋は死神だった。
孤独を瞳に宿しながら、私の目の前に立った彼はとても美しい顔立ちをしていた。

「お前を迎えに来た」
私は頷くでもなく「どうしてそんなに悲しそうなの?」
彼は意味が分からない、と言う顔で私を見詰めた。
「死ぬのが怖くないのか?」
私は少し悩み「別に…長く精神患っていたから、今回こんな事したんだし。怖くないかな…。大好きな人達に逢えるなら、私死ねるんだって何だか安堵した」
素直な言葉を伝えたら、彼は複雑な顔で私を見た。
やはり彼の瞳の孤独が揺れている。

「早く連れて行って」
彼は少し考えて「目を閉じて、10数えろ」
私は言われた通りにした。

ふと風が通り過ぎる様な、ひんやりした感触を唇に感じた。

目を開いた時、私は集中治療室にいた。
横に視線をずらした時に、花束が目に入った。

「生きろ」そう聴こえた気がした瞬間、涙が溢れた。

[完]

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