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君のstory《短編小説》


いきなり来たメッセージ。
そこには、止まった時間を動き出させてくれる、愛があった。


初夏が訪れ様としていた。
私は精神病院に入院して、もう1年が経つ頃だった。
閉鎖病棟ではなかった為、何か必要な時は看護師さんが携帯を渡してくれる。
「誰かからメールが来てるみたいだから」
穏やかな雰囲気の、大らかな看護師さんは微笑みながら携帯を渡してくれた。

確かにメールの表示が出ている。
私にメールを送ってくるのは、家族以外居ないはず。
少し不安になりながら開いた。

そこには、かつて私がいたSNSでお世話になった彼女からのメッセージだった。
が、よく読むとそれを書いたのは、彼女ではなかった。

私は彼女の私生活までは知らなかった。
彼女が既婚者で、高校生になるお子さんが居る事すら。

彼女との最後のやり取りになったのは、彼女が「少し視界が欠けて来てるから、入院するかもしれない」

彼女の視野が狭まって来ている事は、前から聞いていた。
心配していた矢先に、そのメッセージが最後になった。

彼女の娘さんが送って来た内容は、彼女がもうほとんど視力が無く、手術も難しい状態、このまま失明してしまうとの事が書かれていた。

彼女が娘さんに書いてもらったメッセージが載っていた。

「妹の様な貴女に出逢えた事、すごく幸せ。今貴女が抱える苦しみが、いつか明るい陽の光に照らされる事を、いつもいつまでも願い祈っている」

私は肩を震わせ泣いた。彼女の愛、思いやり、優しさ全てを抱きしめ、ベッドに腰掛け泣いた。

彼女の娘さんからは「私は将来、医者になる為に今猛勉強しています。医大に入って、様々な患者さんに寄り添える医者になりたいんです。いえ、必ずなります」

そう力強く書かれた文章で締めくくられていた。

写真が添付されていた。
開いてみると、相変わらず美しい彼女と、よく似た娘さんが顔を寄せ合い笑顔で写っていた。


『貴女なら、きっと素晴らしいお医者さんになれます』
私はそう送り、携帯を胸に抱いた。

まるで2人の強い絆と愛を抱きしめるかのように、いつまでもずっと彼女達に祈りを捧げていた。

[完]


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