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背けられた者達《短編小説》

笑いを堪えるのに必死だったぜ。
なぁにが、退職金0だよ。
舐めてんのか?腹抱えて笑いそうになっちまった。

所詮世の中、綺麗な部分を世間様には見せておいて、内情なんかは蓋を開けなきゃ分かんねぇって事。

なぁ、俺ら障害者って呼ばれるんだよ。
好きでこう生まれて来たわけじゃねぇ。

中にはそれすら分からない、重い障害を持ってる奴らも沢山いる。
俺は、軽度の中でも中間辺りなんだ。
だから傍から見たら分かんねぇ。

よく言われるよ。「ソウ見えない」
笑えるよな?ソウ見えない、のソウってさ、障害ある様に見えないって意味だ。

失礼にも程があんだろ…。

生きてく為には、勿論俺らにだって金が必要なんだよ。
だから障害者雇用って枠で働く奴らも大勢いる。

通常雇用じゃ色々な面で難しいからだよ。
だからってな、定年まで働いて退職金0ってそれってどうだよ?
なぁ?自分の身に置き換えて考えてみろよ。

大層ご立派な御託並べて。
雇ってやるんだから、黙ってその恩恵受けろってか?
舐めんなよ。

安い金で働いて、それで手にする希望や夢ってなんだ?

見えないボーダーは、俺らにはハッキリ見えてるぜ。
いつでも目の前にはばかる壁。
隠し通そうとする、障害者の性事情やその他諸々。

俺らにだって性欲はある。
当たり前だ。人間だぜ?
人を好きになって、愛したいと思う事だってあって当然。

けど世間ってもんは、障害者は純粋無垢で人を疑わない、悪い人にすぐ騙される、そんな見方しかしてないのが大多数なんだよ。

考える頭もありゃ感じる心だってあるんだよ。
どんな重い障害だって、心はあるんだよ。

俺らは可愛いお人形かぬいぐるみか?
ふざけんな、反吐が出るぜ。

その変な枠で考えてるんなら、すぐ止めた方が良いぜ…。

いや、もう遅いかもな。
聴こえるか?あの叫び声。
怒号となりやがては大きな嵐になって、お前らを飲み込むぜ。

今日がその日だ。
遅かったな。残念だよ。

来世は立場逆転で会おうぜ。

パンッ!

目の前が真っ暗になって、俺は……

「貴方、貴方?大丈夫?すごいうなされてたわよ」
妻が心配そうに、俺を起こしてきた。

「あ、あぁ…大丈夫だ…何だか妙にリアルな夢を見たんだ…」
「また、仕事の事?もう…」
妻は呆れて部屋から出て行った。カーテンから射し込む光が、朝が来た事を教えている。

パジャマが汗だくだ。
それにしても……今の夢は…。

あの若者の叫びだったのかもしれない…。
障害者雇用の説明会の途中で、舐めんな!と唾を吐いて出て行った青年…。

次の日から行方不明になって3日後に遺体で発見された。
遺書には「背かれた者達の代弁」そう書かれていたらしい。

俺自身が、俺達自身が変えなきゃ世の中は変わらない。
今日、それを幹部全員と話し合おう。

「キャー!あなた、たす…け…」
妻の悲鳴に慌てて部屋から出た、1階の玄関で血だらけになって倒れている妻と、近くに立っている見知らぬ青年達。

「君達!妻に、妻に何を!」階段を駆け下り様とした瞬間、パンッ!
何かが割れる様な音と、一瞬過ぎった感覚…。
それが最期だった。



「俺らは操り人形じゃねぇんだよ…」
撃った男はまだ青年の面影を残している顔で、そう呟いた。

[完]

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