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Present《短編小説》

『ねえ…貴方は、幸せ?今も私を愛してる?』


今日もくたびれて、一人きりの部屋へ帰る。
待ってる女も居ない。

愛した奴らは全員、俺を置いて先に逝っちまった。

唯一、俺を支え愛してくれた女でさえも…。

缶ビールを飲み干し、煙草をベランダで吸った。
嫌味な程、星が瞬いてやがる。

お前もそこに居るのか?
柄にもない事を思い、自嘲する。


アイツの温もり、肌の柔らかさをまだ憶えている…。

出逢いは偶然で必然だった。
いつでも俺を愛し、信じて待っている女だった。
俺には、出来すぎた女だった。


ふと、微かに鳴き声が聴こえた気がした。
気のせいか?
「クゥーン……」
いや、気のせいなんかじゃない。

何処だ。俺は何故か助けなければという、直感が働いた。
それはもしかしたら、あまりにもか細い、今にも命の灯火が消えそうな鳴き声だったからかもしれない。

階段を駆け下り、すぐ近くの川沿いに懐中電灯を向けた。多分この辺りのはずだ。
何処だ。もう一回鳴いてくれ。頼む。
「クゥーン……」
さっきよりも近いぞ。
「今助けるからな、待ってろよ!」
必死でライトを向けながら、声がした方に慎重に進んだ。
そこに、段ボールの中に三匹の仔犬が居た。
だが、その内の二匹は既に息を引き取って硬直していた。
まだ息があり、精一杯の鳴き声で助けを求めたソイツを抱き上げた。 
身体が冷たい。
俺は着ていたシャツで、ソイツを包み段ボールも一緒に抱えた。
急いで、夜間も空いてる動物病院を探した。
幸い直ぐに見つかり、連れて行った。

栄養失調と酷い脱水症状だった。

無理だと分かっていたが、あとの二匹も診てもらった。
優しい医者なんだろう。
「何でこんな小さな命が…」そう呟き、後はこちらが引き取りますと言ってくれた。

助かった一匹の性別は雄。生後3ヶ月位。
飼えずに捨てられたのだろう、と医者は怒りを滲ませた静かな口調で言った。

三日程は入院した方が良いと言われた。

俺は頭を下げ、小さな身体に触れその日は帰った。

不思議な夢を見た。
アイツが久しぶりに現れて、お腹をさすって涙ぐんでいる。
『あのね…出来たみたいなの』
俺は声にならずに、ただアイツを抱き締めた。

目が覚めた時、思わず隣りを見た。
居るわけない…、そう思い目を逸らそうとした時、視界の端に何か光る物が映った。

これは…「アイツのアンクレット…」
俺が唯一プレゼントした、最初で最後の…。
でもどうして…。

これは、アイツのお気に入りの硝子ケースにずっとしまっていたはずなのに…。


その日、仕事帰りに拾った仔犬に会いに行った。
昨日よりは、体力も少しだけ回復したらしい。
少し安堵し、医者にお願いをして帰った。

予定より少し長引いたが、退院する日が来た。

色々と準備はしておいた。
後はコイツの名前だけ…。

その時鮮明に頭に広がる景色に、彼女がいた。
抱いてる赤ん坊は男の子だ。
「名前はね…天高く駆け上がって行ける希望を込めて…高希…」

そこで、俺は彼女から受け取ったその重みを覗くと、薄茶色の仔犬に変わっていた。

「高希…お前の名前だ。高希。」

お前の口癖…「ねえ、私の事愛してる?」

「愛してるさ」
滲む視界で、新しい命は澄んだ瞳で俺を見詰めていた。

[完]



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