見出し画像

おいしいってなんだろう?『人間は脳で食べている』伏木亨


とっても興味をそそられるタイトルの本。いくつものトピックがほどよい文章でまとまっていて、その1つ1つが面白いです。でも、この本をまとめて何がいえるか、というとなかなか全体像がイメージしにくい。それは、著者の伏木先生も書いているように、おいしさに関わる脳の情報処理のメカニズムは、未だよくわからないことが多いからなのかも。

ともあれ、内容がおもしろかったことは間違いないです。例えば、甘味と旨味を感知する受容体は、人間に1種類づつしかないけど、苦味や酸味に対しては30種類もあるとか。これは、腐敗物や毒物を食べないための防御システムらしいです。嗅覚も同じように、かなり複雑な模様。

ニンゲンが新しい味覚をおいしいと感じるには、かなり時間がかかるそうです。例えば、油脂を知らないネズミが、初日におそるおそる食べたとすると、それが消化吸収され、高いカロリーを持つことが脳に伝達されます。2日目以降も同じことが繰り返されると、脳のスペシャルメニューにプログラムされるそうです。その後は時間をかけて、脂が食べられるという期待だけで食欲が刺激されたり、食べたい要求が満たされると満足感が得られるシステムが成立します。

日本人は、大正時代よりも前、マグロのあっさりした部分を好んで食べて、トロはあぶらっこすぎると敬遠されていたとか。その後、トロがもてはやされるようになるには、かなりの時間がかかりました。マヨネーズも発売当初はなかなか売れず、現代のように日常的に食べられるまで20年もかかったとは驚きです。

韓国やタイの人たちは、単に辛い料理のが好きなのではなくて、それと一緒になっている食文化が好みなのだそうです。日本の激辛ブームや韓国料理ブームも長い準備期間があって、ようやく現在のように定着したのだそうです。確かに、私が学生時代に新商品だった烏龍茶も、最初見向きもされていませんでしたが、今では普通にコンビニにあります。

ニンゲン世界での食文化の流行は、例えば日本では油脂の濃厚なラーメンと和風だしのきいたラーメンの流行が交互に繰り返されるように、脳に快感を与える最大の2つの成分が繰り返されるだけ。伏木先生いわく、要は脳に刺激を与える食べ物の周りをぐるぐる回っているにすぎないので、味や流行の変化とはいえないそうです。

私が本書を読んで、タイトルとは全然関係ないところでびっくりしたのは、ネズミと人間(サル)の遺伝子配列が9割程度同じで、代謝の仕組みもほぼ同じという部分です。つまり、ネズミの遺伝子配列や代謝の仕組みを少し修正するとヒトになるということで、これはものすごい驚きでした。

他にも、本書の導入部分にあった、神社の清めの水のエピソードや外国人が鍋で下着を洗うといったエピソードも意外性があっておもしろかったです。伏木先生の本は、専門知識も雑学的な内容もとにかく豊富で大好きです。





この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?