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中国政治のあわせ鏡。『台湾総統列伝』本田善彦


本田さんの本はいつも内容が濃くて、おもしろいです。そして、他のライターさんとは、視点が違うので新鮮なインパクトがあります。

台湾の政治家って、普通の日本人にはあまりなじみがないと思います。詳しい人でも、年輩の人なら蒋介石とか李登輝くらいなイメージだろうし、若い台湾好きなら女性初の大統領になった蔡英文を知っているかも。あと、政治家ではないけれど、政治に関わる台湾人としてオードリー・タン(唐鳳)は天才の閣僚で、最近インタビューがたくさん出ています。

本田さんの本は2004年出版なので、蔡英文はまだ官僚だった時代です。歴代の総統として、蒋介石、蒋経国、李登輝、そして陳水扁(当時)までを描いています。本田さんは、台湾のマスコミに勤めていた経験と観察眼を駆使して、世間でいわれるような「親日台湾」みたいな、単純な味方にも手厳しいです。

本書で特におもしろいのは、日本ではエアポケットのように抜け落ちて、注目されない蒋経国。彼は蒋介石の息子ですが、ソ連に留学した経験があって、しかも奥さんがロシア人。台湾に来てから、父親の蒋介石の右腕として有能さを発揮しました。

余談ですが、蒋介石の妻の宋美齢は有名ですが、蒋介石には宋美齢との結婚前にも妻が何人かいたし、結婚後もそれなりに中華圏の指導者らしく……(以下、略)。宋美齢には子供がいないので、蒋介石の子供は全て他の女性との間に生まれた人たちです。

閑話休題。

歴代台湾の総統と、中国トップとの水面下でのつながりを本田さんに紹介されると、さすが中国人だと思わせられます。本音と建前がしっかり分けられる。それから、蒋経国とリー・クアン・ユー(シンガポール元首相)の関係の良さにも納得です。リーは華人ですし、2人が碁盤を囲んで対話するエピソードは、とても自然に目に浮かびます。

ただ、やっぱり蒋経国の評価が少し高すぎかなあと思わないでもないです。民主化して、中国との関係が不安定になった今、開発独裁の開発側面が懐かしがられるのはともかく、独裁・弾圧の側面まで評価が高いのは、ちょっと納得がいかないです。


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