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ロシア人監督が撮った日本の天皇。映画『太陽』ロシア、イタリア、フランス、スイス、2005年。


久しぶりの充実した映画。2時間があっという間に過ぎました。映画評論家さんのDVDレビューを読みながら、日本では公開されないんじゃないかと思っていた頃が嘘のよう。しかも、結構ヒットして上映映画館が増えているらしい。さすがのイッセー尾形と桃井かおりの演技力です。

映画の舞台は、1945年8月15日前後の日本。でも、映されるのは空襲受けてる場面とかじゃなくて、天皇が住む皇居のみ。外の様子は側近たちから聞かされる報告でしかわからない天皇が、降伏までを悩み、降伏後はマッカーサーと対面する。「国家元首としての天皇」じゃなくて、自ら全てを知りえないのに、現人神として祭り上げられ、不自由な生活の中で重大な決断を迫られる天皇という個人を描いている。

監督はロシア人のソクーロフ。ヒトラーを描いた『モレク神』、レーニンを描いた『牡牛座』に引き続く三部作のまとめが昭和天皇ということらしいです。

ハリウッドとかがつくる日本が舞台の映画は、少し前までは「そんな日本人いない」的なシーンや場面がてんこ盛りでした。もちろん、日本のジブリ映画だって、例えば『魔女の宅急便』はヨーロッパ各地の要素がまじっていて、ごちゃまぜの「ヨーロッパのどこか」であちらの国の人たちには落ち着かない映画らしいです。ともあれ、ジブリはアニメで、ファンタジー。

でも、歴史映画でそれをやられると辛いです。幸い、この映画はほぼ尾形イッセーが主役。桃井かおりの皇后も準主役級。どちらも実力派二人が演じているし、侍従長は佐野史郎だし、他の人たちも実力者ばかりで安心してみられます。しかも、監修は吉田裕。日本近現代史研究の第一人者が監修。ため息がでます。

なのに、まじめな歴史ものではなく、舞台劇。ユーモアとか皮肉とか諦閑とかがつまっています。すばらしい。日本人にはこういうの、無理。

イッセー尾形の筆の持ち方が鉛筆の持ち方と同じなのと、字が上手くない感じだけは気になったけど、実際の昭和天皇はどうだったのか気になります。そして、そんな些細シーンもご愛嬌に見えたりしる。食事シーン、研究室、防空壕、マッカーサーとの会見や写真撮影・・・などなど。ロシア人の監督が、どうやってあのフィクションのディテールを積み上げたのか気になります。

主役のイッセー尾形は文句なくよかったけれど、登場が少ない香淳皇后の桃井かおりのシーンもよかった。この映画のオフィシャルブックがでているらしいので、監督の話とか、撮影エピソードがたくさん書いてあるなら読みたい。とにかく、おすすめな映画です。

邦題:太陽(原題:Солнце)
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
主演: イッセー尾形、ロバート・ドーソン、佐野史郎、桃井かおり
製作:ロシア、イタリア、フランス、スイス(2005年)115分

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