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落下

特に理由はなかった。
これと言って何かあった訳でもなかった。

唯、街に数個しか無い高層ビルのひとつから、窓の外を眺めていた時、1つの夢想に取り憑かれてしまっただけだった。

もし、今指先が触れているこの窓が、はめごろしでは無かったら。
もし、この窓から身を半分乗り出してみたら。
もし、そのまま、地面への瞬間的飛行(あるいは落下とも表せる)が結構出来たなら。

アスファルトに辿り着くまでの数秒で何を感じるのだろうか。肉体がお終いになる瞬間までの、途方もない痛みと対峙して、何を思うのだろうか。

やりたかったこと、やらなければいけなかったこと、忘れてきてしまっていたこと、嫌いな人に、愛しい人に、何方でも無い人達のこと。

頭の中で何度も何度も飛行し、走馬灯のシュミレーションをする。記憶の中に置き忘れた物を取り出せる様な気がして。

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眠れない夜に

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