あの日から13年目の春が来る(3)|全部なくなっちゃったけど、やっぱりここは故郷なんだよな。
この投稿は2023年5月4〜5日に書き置いたものをnoteを通して公開したもので、こちらの続きになります。
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東日本大震災という過去と共に力強く生きる松島、石巻、気仙沼の人々
この旅では松島、石巻、そしてこの後に気仙沼にも足を運んだ。
共通することは、被災した方々は皆、東日本大震災という過去と共に力強く生きているということだった。
あの苦しい過去を捨て去らないという選択をしてくれたから、私達はあの日の記憶を知ることができる。
では、私達はどうだろうか。
あの日、テレビの前で様々な思いを巡らせた私達は、
何かしたいとの思いに駆られて思い思いの行動をした私達は、
或いは悲しみや苦しさからテレビや新聞を見ることも恐れた私達は、
今、あの日の記憶をどこかに置いてきていないだろうか。
東日本大震災は過去の出来事ではなく、今に繋がっているものなのである。
その事実を次に繋ぎ、災害時に自分と大切な人の命を守れるようにしておくこと、
それはあの日を生き延びた私達の責任なのではないか。
そんなことを改めて思い返したくて、私はここを訪れたくなったんだろうな、
と旧気仙沼向陽高校を見た時、思った。
東日本大震災を生き延びた私達の責任
あの日、ここには私と同年齢の人たちがいた。
私と同じように普通に生活をして、普通に高校生をしていた。
しかし、全てが一変した。
学校も無くなった。
津波による死傷者はいなかったとはいえ、皆大切なものを失った。
それに気付いた時に、まだまだどこか他人事だった東日本大震災を初めて自分の事のように捉えることができたのである。
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石巻市南浜地区の今
日和山の麓、南浜地区にはかつて数千人が住んでいた。
しかし、コンビニも郵便局も銀行も病院もあった街は無くなった。
それを機に、自分が生まれ育った街を離れる選択をした人がいる。
しかし、よくこの地に訪れるそうだ。
何もかも無くなってしまったが、変わらずにある西光寺を見ると戻ってきたという気持ちになるという。
その一方で、様々な事情から離れないという選択をした人もいる。
不安はあるが、津波が来たなら裏の山へ逃げればいいと考えているそうだ。
現代の我々は忘れがちだが、自然と共に生きるとはそういうことなのかもしれない。
津波で流されたそこに、新たに家を建てた人もいる。
また、非常時には命を守る場所にもなる大きな復興市営住宅も建てられ、ここに戻ってきた人たちもいるという。
旧北上川沿いと海岸には高い堤防が築かれた。
さらに、上流側にはもう一つ橋が架けられたことで荒天時に封鎖されるリスクが減り、他地域へのアクセスも良くなった。
とはいえ、この街の人口は震災前の約十分の一まで減少したままだ。
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石巻南浜 津波復興祈念公園
ここより南に位置する南浜町は津波復興祈念公園として整備された。
震災を伝える様々な伝承施設があり、災害時に命を守るとは何なのかを知ることができる。
その一つ、東日本大震災津波伝承館。
この建物の北端の高さは約6mだ。
これはこの地を襲った津波の高さと同じである。見上げてみるとその高さに驚く。
この津波から逃れるためにはどこへ逃げるべきか、自ずと考えさせられる仕掛けが施されている。
この公園には沢山の人々の手によって、クロマツ等の木々が植樹された。
この木々が育つといずれは津波から人々や街を守る自然の防波堤となる。
また、その景観に調和するような施設となるような開放的なデザインで、東日本大震災津波伝承館は作られている。
人工物と自然が調和した美しい景観は、いずれ多くの人々を呼ぶことだろう。
街から津波が引いた後、避難所のある日和山から人々は、悲しみと苦渋の思いで街へと下りてきた。
そんな人々を励まそうと、避難所から下りてくる時に見えるように設置された看板がある。
この「がんばろう石巻」の看板はここに移され、今尚地元の学生の手で整備されている。
今ある物は3代目だ。
その横には慰霊の火が灯されている。
こどもの日を前に、連なる鯉のぼりが風に乗って泳いでいた。
復興祈念公園として整備されたここには沢山の花が咲き誇る。
ネモフィラの花にはミツバチがやってきていた。
……………
かつて、石巻市立病院のあった場所の近くに、一丁目の丘と名付けられた展望地が築かれた。
ここからは海岸線の堤防の向こうに広がる太平洋と、
門脇町や南浜町を見渡すことができる。
日本製紙の工場の煙突から上がる煙が夕日に照らされて朱く燃えているようである。
街は無くなったが、ここから見える景色はあの頃のままなのかもしれない。
ふと、「奥の細道」に書かれている“不易流行”という概念を思い出した。
“変わってしまったものの中に変わらないものを見出す”
この旅の中で、話を聞けた方の一人がこう仰っていた。
「全部なくなっちゃったけど、やっぱりここは故郷なんだよな。」
まだ5月だというのに容赦のない暑さを、和らげてくれる風が心地良い。
それに乗って、微かに潮の香りがした。
もうすぐ、13回目の夏がやって来る。
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