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わたしは月の王女さま 〜青い地球に憧れて〜

わたしは月の王女さま。
どんなところなのか知りたくなって、こっそり地球に遊びにきた、月の王女さま。

月から見た地球の青さに憧れて、秘密の大冒険の旅に出たわたし。
「月に住む者は、絶対に地球では暮らすことができない」
こんなことを周りの人が言うのを聞くたびに、「本当にそうなのかしら?」と好奇心がどんどん膨らみ、ある日、月を飛び出した。


わたしは、どこまでも青い地球の海に憧れた。
その青の中に飛び込んで、どこまでも泳いで行かれる自由を手に入れたいと願った。
月にいたら見ることができない景色を、無限に広がる青の中にすっぽりくるまって、いつまでも眺めていたいと思っていた。

でも、自由を手に入れるということは、そんなに甘いことではなかった。
月にいたわたしは、地球の重力の中で暮らす大変さについて、何も知らなかったからだ。

月からかぶってきた王冠はとても重かった。
月の上では軽やかに動いた足は、まるで鉛のように重く、身体中に痛みが走った。
思うように歩けない戸惑いと落ち込みの中でも、時は流れていく。
わたしの気持ちに寄り添うように、窓の上に輝く月が、次第に満ちてゆくことにすら気づくことなく、毎日が過ぎていった。

季節は冬に変わっていた。
ある日、夜道を一生懸命歩いていると、滑らかな黒い夜空から、ひとつ、ふたつ、雪が舞い降りてきた。
ふわり、ふわり。
マフラーに落ちたかと思うと消えていく雪たちの儚い美しさに、わたしは思わず空を見上げた。

細い三日月が輝いていた。
しんと凍てつく空気の中、銀色に輝く三日月は、青い地球にはない気高さをもって、夜空に光っていた。

思わずほろりと涙が浮かんだ。
自由を手に入れるために、青い地球に憧れた自分。
今、頭の上に輝く月は、あんなに綺麗だというのに、その美しさに気づくこともなく、故郷を飛び出した自分。
雪降る道、わたしは故郷を眺めて、初めて泣いた。

自由に生きたいと願って地球に来たはずなのに、その青い世界は想像以上に重く、何もできないまま時は過ぎていく。
月に帰れば、また王女の生活が待っていて、再び精神的自由はなくなってしまう。

自由とは何か。
権利とは何か。
幸福とは何か。

寒空の下、故郷の光を浴びて、わたしはまたひとつ、地球の雪道に足跡を残した。

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