G7でのアメリカの狙いはなんだったか

 2023年05月22日の読売新聞(西部版・14版)の広島サミットに関する記事で、私が注目したのは「中国問題」である。ゼレンスキーもやってきて、ウクライナに焦点が当たっているのはたしかだが、それは表面的なこと。実際は、中国がいちばんの課題なのだ。ウクライナ(ロシア侵攻)に関しては、すでにロシアが悪い、ウクライナを支援していくということでG7は結束している。
 読売新聞の「首脳声明の要旨」をみると、おもしろいことに気づく。(読売新聞の「要旨」なので、他紙は違うかもしれない。つまり、ここには読売新聞の意向=岸田、バイデンの意向が反映しているかもしれない。いや、反映していると思って、私は読んだ。)
 要旨は「前文」「ウクライナ」「軍縮・不拡散」「インド太平洋」「世界経済」とつづいていく。広島で開かれたのに「核不拡散問題」よりも「ウクライナ」を先に言及しているのはゼレンスキーを利用してG7をアピールするためだろうし、「世界経済」よりも「インド・太平洋」を先に言及するのは、中国含みと、インドを招待しているからだろう。(書き方の順序に、すでにさまざまな配慮が働いていることに気をつけないといけない。)
 で、「インド太平洋」といったん書いているのに、最後にまた「地域情勢」という項目があり、そこに中国のことが長々と書いている。他の項目が20行くらいなのに、「地域情勢」は60行もある。個別に、「軍縮に関する広島ビジョン」「ウクライナに関する声明」というのもあるから、これだけでは何とも言えないのだが、中国を含む「地域情勢」に非常に力点を置いていることがわかる。
 これは「国際面」の報道の仕方をみると、もっとよくわかる。見出しは、

米、対中協調に手応え/バイデン氏 議論リード

 アメリカは、中国に狙いを移している。(すでにロシアたたきは成果を上げている。ウクライナがどれだけ苦しむかは気にかけていない。)
 記事にこう書いてある。(読売新聞は、ほんとうに「正直」である。)
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 バイデン氏はアジアで唯一のG7メンバーである日本でのサミットで、インド太平洋地域への欧州の関心を高めようと努力した。フランスのマクロン大統領が4月に「台湾問題に加勢して欧州に利益はない」などと発言し、温度差が露呈していたためだ。
 バイデン氏が議論をリードし、中国を念頭に置いた経済安全保障分野での協力拡大に努力した。重要鉱物のサプライチェーン(供給網)の構築や対立国への貿易に制限をかける「経済的威圧」に対抗するための協力などが首脳声明に盛り込まれた。
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 バイデンは、デフォルト問題をアメリカ国内で抱え、G7はリモート出席になるかもと報道されたが、やってきた。なんとしても中国問題でリードしたかったのだ。
 ウクライナと違って、「台湾」はヨーロッパにとっては、世界の果。陸続きではない。マクロンが言うように、そんなところに「欧州の利益はない」。
 言い直そう。
 マクロンは「フランスにとって需要なのは中国であって、台湾ではない」と言っている。なぜかといえば、中国の方が人口が多く、経済力も大きいからである。台湾が中国になってしまおうが、台湾のままであろうが、そんなことは気にしない。共産党政権であろうが、そうでなかろうが、経済関係が変わるわけではない。物が売れる、物が買えるという関係はかわらない。
 ところが、アメリカは違う。アメリカは台湾をアメリカの支配下において、中国を抑圧し続けたいのだ。台湾に米軍基地をつくり、いつでも中国大陸を攻撃でするぞ、破壊できるぞという圧力をかけたいのだ。「地勢学的」にアメリカは台湾を手放したくない。それだけなのだ。そして、台湾から圧力をかけ続ける限り、中国は軍事費にも金を注ぎこまなければならない。経済発展が阻害されかもしれない。それも、狙いだ。
 考えてみなければならないのは、台湾とは、どういうところなのか。ウクライナとどう違うのか、ということである。
 ウクライナには、陸つづきであるためにロシア系のひともいた。台湾はどうか、もともと中国人が住んでいた。そして、大陸に共産党政権ができると、金持ちが台湾に逃げてきた。台湾は、いわば中国大陸の縮図のようになっているのではないのか。中国大陸各地にいた金持ちが住んでいる。それは「侵略」ではなく、逃亡だった。多くのひとは、中国大陸を逃れてきた。そのひとたちのなかには、「故郷」へかえりたいと思っている人もいるかもしれない。彼らが、「金儲け」だけのために、台湾の独立を望むだろうか。彼らが「共産主義」と戦わなければならない理由はどこにあるか。
 「自由を守るために?」
 違うだろうなあ。
 香港を見ればわかる。中国に返還されて、政治体制が変わり、自由がなくなった。しかし、それで住民が「戦争」を起こしたか。そんなことでは、戦争は起きないのだ。戦争は、住民が起こすのではなく、政治家が起こすものだからだ。
 アメリカが守ろうとしているのは、台湾のひとたちの「自由」ではない。(香港のひとたちの「自由」を守るために、アメリカは何か軍事的な行動をしただろうか。)アメリカが守ろうとしているのは、アメリカの「経済」だけである。アメリカが金儲けをつづけるためには、台湾が必要なのだ。台湾から、いつでも中国を攻撃できるぞ、とおどし続けることが必要なのだ。
 ヨーロッパでは「国境」をなくしてしまうという動きがすでにおこなわれている。パスポートコントロールなしで自由に他の国にいける。フランス・スペインの国境のバスク民族のすむ地域では、「国境を越えた行政地域」の試みも起きている。そういう「政策」を生きているヨーロッパが、同じ民族の中国・台湾の「分離」を支持するというのは、ヨーロッパの理念にも反する。
 こういうことは、たとえば中南米でも、重要な問題のひとつである。「国境」は政治的なものであって、国境を越えて先住の人々が生活しており、そこには同じことば、同じ文化がある。
 「国家」は作為的なものなのだ。
 「作為」に注目し、そこから、いったい誰が「台湾」を必要としているか。なぜ「台湾」が中国から独立していないいけないのか、を考えないといけない。
 もし台湾の中に、ぜったいに台湾は独立しなければならないと考える人がいるとしたら、それは自分の金をほかの人には指一本も触れさせたくないという人だろう。彼らにとっての「自由」とは金を自分の好きなようにつかう、ということである。
 台湾に住んでいるのは、最初からそこに住んでいた人だけではない。中国大陸から移住してきた人がたくさんいる「中国隊陸の縮図」が台湾なのだという認識から、「台湾有事」を見つめなおさないといけない。
 ほかの国が、台湾に「作為」を持ち込んではけない。

 別の視点も、付け加えておく。
 日本はほんとうに「島国」を生きている。海の向こうには「違う人間」が住んでいるとかってに思っているひとが多い、と私は感じる。同じ感覚で、台湾は島だから、中国とは別のひとたちが住んでいると考えていはしないか。
 少し脱線するが、最近ちょっとおもしろい会話を、ある外国人としたことがある。違う民毒と結婚した場合、生まれてきた子どもは「混血」とか「ハーフ」かは呼ばれることがある。いまは、こういうことばはつかわないのだが、便宜上、つかっておく。日本人の場合、たとえばイタリア人と結婚すれば、日本人とイタリア人の「混血」「ハーフ」。日本人と中国人、あるいは日本人と韓国人の場合は? 露骨に「混血」「ハーフ」という呼び方はしないが、「差別」は根強く残っていないか。で、問題は。では、イタリア人がフランス人と結婚したら、それは「混血」「ハーフ」? イタリア人、フランス人は、それをどう呼ぶ? 日本人は、それをどう呼ぶ?
 そこからひるがえって。
 中国隊陸の人と台湾に住む人が結婚し、子供が産まれた場合、それは「混血」「ハーフ」? ばかげた疑問(質問)と思うかもしれない。それをばかげた疑問と思うなら、台湾の「独立(自由)」を各国が協力して守らなければならないというのも、ばかげた「理想」に見えないか。
 なぜ、そんなものが「理想」なのか。
 ベルリンの壁がなくなったとき、西ドイツと東ドイツはあっというまに融合した。一方で、むりやり統合されていた民族が分離し、いくつもの新しい国が生まれた。こういう問題に、当事者ではないよその国の人が口を挟んで、いったいどうなるのか。

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