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技術進歩が「人間とは何か?」を教えてくれる〜DNAから探る『人類の起源』読んで

 知的好奇心がくすぐられる本でした。おすすめしたいです。

文化人類学者になりたかった

 「人類の起源」というのは、「地球の始まり」とか「宇宙人の存在」とかと並ぶ、知的好奇心をくすぐるテーマです。
 僕は中学3年生のときに、中公新書の『文化人類学入門』を読んで、めちゃめちゃ興味を持って、文化人類学者になりたいと思いました。高校に入って、バンドとかやるようになって、他に楽しいことをたくさん知ったのと、当時の研究者像は、コツコツ積み上げるストイックなイメージの職業で性格的に向いてないと思いました。同級生で研究者になったら絶対かなわないなと思う奴がいたこともあって、高校生のうちに断念しましたけれど。ヨーロッパの知識人が、自分たちの文明が優れた文化だと思っていたことを反省して、フラットに民族を捉えて、フィールドワークしていくという感覚には影響を受けています。民族音楽学者の小泉文夫さんの本を読んで、芸大楽理科に進学したいなと思ったりもしました。それも、あっさり挫折しましたが音楽プロデューサーとして、エスニックな音楽要素を取り込んで新しいJ-Popを創るというコンセプトからメンバーを集めて、「東京エスムジカ」というユニットを立ち上げたのは、そういう10代の読書体験が大いに影響していました。
 そんな文化人類学に憧れた頃の自分を思い出す興奮させられる本でした。

ゲノム分析技術の進歩が教えてくれた

 近年のテクノロジーの急速な進歩は、様々な科学分野の研究を新しいフェーズに進めていますが、人類の人類の起源をめぐる研究の急展開は、従来の考古学的な研究に加えて、DNA分析が及ぼしているそうです。化石からDNAを採取して分析する手法は最初はミトコンドリアのDNAだけだったのが、次世代シークエンサという分析機器によって細胞核のDNAまで調べられるようになり、画期的な進展を見せているそうです。
 その成果を踏まえて、「人類の起源」について、わかりやくまとめられたのが本書です。人類学、考古学、歴史に興味のある僕でも知らないことがたくさんありました。

「サピエンス」はいろいろいた!!

 ネアンデルタール人という、今の人類(ホモサピエンス)と系統の違う種がいたことは知られていますが、こんなに多様な「サピエンス(=人類)」がいたとは知りませんでした。これらの「化石人類」を総称するホミニンという言葉も初めて知りました。
 線でつながっているのは、子孫ができたということですから、我々「ホモ・サピエンス」の誕生には、様々な「前史」があるんですね!

篠田謙一. 人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」

アフリカから地球中にひろがった人類

 人類の起源はアフリカで、そこから地球中に広がっていったというのは知られている話ですが、気候変化で移動が停滞したり、違うサピエンスと混血(子供ができるということは同じ種ということですね)したり、その過程は僕らがイメージしているよりもずっと複雑なようです。文字のない時代の研究は難しいのですが、ゲノム解析技術の著しい進歩が従来の考古学の枠を超えて、様々なことを解明してくれていることがこの本を読むとよくわかります。

 文字のない時期に起こったことを明らかにする学問が、考古学や自然人類学です。これらの研究で明らかになったこと、すなわちホモ・サピエンスがアフリカで生まれ、やがて世界に拡散して各地で文明をつくり上げたという事実は、言い換えれば、世界中の文明がヒトという共通の基盤の上に立っているということでもあります。歴史的な経緯とそれぞれの地域的環境の違いはありますが、それはあくまで各地に散らばった人びとの選択による「多様性」なのだ、という認識はぜひ持っておいてください。これは、現実世界を理解する上でも欠かせない視点だと思います。

篠田謙一. 人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」

「民族」問題解決法を知る

 ロシアのウクライナ侵攻や、台湾海峡危機などは、民族をベースに国家を作るという「国民国家」という概念に縛られていることによって起きています。国民国家が良いという考え方は19世紀にできたものですから、たかだか200年弱の歴史しか無いわけです。しかも、しばしば語られる民族という単位が、少なくとも医学的、生物学的には実態がないことが語られています。

しかし、ここまで見てきたように、人びとの持つ遺伝子は歴史の中で複雑に絡み合っており、「民族の血統」などというものには実体がなく、幻想に過ぎないことがはっきりする日も近いでしょう。

篠田謙一. 人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 

 各民族の「文化」には価値があると思いますが、それは血統で担保されるものではないということですね。日本人の起源についても分析されていますが、縄文人と弥生人みたいな区別も単純な二元論では無く、もっと複雑なことがわかっています。
 民族を裏打ちするものが血統ではなく、文化だとしたら、白人でも黒人でも日本文化を深く理解すれば、「日本人」と思ってよいのでしょう。混血(ハーフ)のアスリートが日本代表選手として活躍する姿も最近は自然に受け入れられているようになっていますし、「日本人の定義」も複雑性を前提に考えたいですね。僕はざっくりいうと、「日本の文化にリスペクトを持ち、自分に取り込むつもりが有り、日本に税金はらって」いれば日本人と考えてよいのではないかなと最近思うようになっています。そうなると出生率だけで日本の人口を考える必要が無くなりますね。

人類とは何かをテクノロジーが教えてくれる

 その本を読んで強く感じるのはゲノム解析というテクノロジーの進化が、人類発祥の謎を解いてくれていることです。
 遺伝子研究が人類の起源を教えてくれるというのは、AIを研究すると「人間とは何か?」を突き詰めることになるという話と似ているなと思いました。大阪大学石黒浩さんの動画が面白いので興味ある人は観てみてください。JAPAN HOUSEのCo-FounderとしてSXSWのスピーカーに石黒さんにお願いして、米国オースティンにお連れした時のワクワク感を思い出しました。宗教観にとらわれずに、AIやロボティクスを通じて、「人間とは何か?」を掘り下げている姿勢に、僕は「日本人らしさ」を感じます。

 さて、この本に惹かれた人にはもう一冊薦めたい本があります。 
 「この国の深い魅力は本当に理解されているのだろうか?」というキャッチコピーが刺さる本です。松岡正剛という知の巨人ともいうべき、スーパー編集者の日本論です。読みやすい本ではないかもしれませんが、日本のカルチャーを仕事にしようとしている人は読むべきだと思います。

松岡正剛著『日本文化の核心「ジャパンスタイルを読み解く」』から学ぼう!

 この本にも感化されつつ、機会があれば、日本カルチャーの捉え方とキュレーションの仕方、海外市場での売り出し方という観点で書いてみたいと思っています。なかなか重いテーマですが、めちゃ重要ですね。


モチベーションあがります(^_-)