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ピンクのバラを贈る人。

◇◇ショートショート
明は小学4年生の時、1年間児童養護施設で育ちました。両親が自動車事故で入院することになり、親戚に引き取り手がいなかった彼は民生委員のおじさんのはからいで児童養護施設に入ったのです。

明はそこで今まで出会わなかった友達と知り合うことになります。

親から虐待を受けて、家にいられなかった子どもや、シングルマザーで家計が困窮して施設に入らざるを得なかった子ども、親の所在が分からない天涯孤独の子どもなど、それぞれの境遇の中で懸命に生きている子どもたちと出会ったのです。

明の両親はとても優しい子煩悩な人で、大きな事故で入院して治療中だけれど自分はまだ幸せだと感じることがたくさんありました。

施設の仲間たちと話すことで、小学生ながら自分の状況を理解することが出来た明には、これまでとは全く違う価値観が芽生え始めました。

「僕はここで出来るだけ仲間たちと仲良く、その仲間たちの心がほんの少しでも幸せな気持ちになるように明るく接していこう」
そう心に決めた明は「笑顔くん」と呼ばれるくらい、いつも明るくふるまって仲間たちのムードメーカーになっていました。

施設では何年も親が迎えに来ない子どもたちが多い中で、明は両親の回復が思ったよりも早く、1年を待つことなく、自宅に戻る事になったのです。

「明、本当にごめんね、長い間あなたを施設に預けっぱなしで、会いに行くことも出来ないで」
「あのね、僕は大丈夫だったんだよ、親がいない子や、家に帰ってもお父さんに暴力を振るわれる子や、約束の日になってもお母さんに迎えに来てもらえない子もいて、みんな可哀そうだった、だから僕は幸せなんだと思う」

明にとって、両親の事故という偶発的な人生の経験は大きな学びになりました。

養護施設にいつも優しく接してくれる女性職員がいました。多美子さんです。彼女はいつも明のことを気にしてくれていて、初めて明が施設に来た時は「私を年の離れた友達だと思って、どんなことでも話してね、おばさんはいつでもウェルカムだから」と言って優しく寄り添ってくれました。
初めの内、慣れない施設に戸惑っていた明は、多美子さんにどれだけ救われたことか。
明が学校から帰ってくると「明君、今日は学校楽しかった、嫌な事は無い、何でも言ってくれていいから、心配な事は私が御両親に変わって聞くよ」そういって手を握って話をしてくれていました。

高校生に成長した明に、ある日多美子さんから手紙が届きました。
「明君元気にしていますか、あの頃の明君の顔がよく目に浮かびます、私はあの頃あなたと同い年の娘を病気で亡くしたばかりで、毎日ふさぎ込んでいたんだけど、あなたの笑顔で救われていました、本当にありがとうね、実は私は仕事を定年で辞めることになりました、あなたには伝えておきたくって、お便りしました」

明はあの頃の多美子さんの顔が頭に浮かびました。「そういえば涙をいっぱい溜めてた時があったな、そんな事があったんだ、僕は何にも知らなかったんだ」明は多美子さんに返事を出しました。

「僕は元気に過ごしています。振り返ってもこれまでの僕の人生で一番寂しい不安な時期でした、両親がどんな風になるのか僕は少しも分かっていなかった、そんな時僕に元気と人の暖かさをくれたあなたの手の温もりを僕は一生忘れません、ずっとずっと元気でいてください」

そして、多美子さんが退職の日に、明はお小遣いで買ったピンクのバラの花束を手に彼女が勤める施設にやって来たのです。

彼女は明の大きくなった姿を見て、「明君、大きくなったね、私これまでで一番うれしい、今日は訪ねてくれてありがとう」と思わず我が子にすがるように明を抱きしめていました。

明は多美子さんの温もりを感じながら、この人の教えを胸にこれからも人に愛を持って接していこうと心に深く誓ったのです。


【毎日がバトル:山田家の女たち】

《今は愛情が薄い時代になったと思う》


「人の愛情は忘れられんのよね、養護施設におってそんな人に出会って良かったねー

「今の子どもたちの中には辛い状況の子もいるよね」

「核家族化で、近所づきあいも希薄なろ、愛情が薄い時代じゃけんね、子どもたちも可哀そうよ

私がショートショートでこのような内容を書いたことが母に響いたらしく、ヘッダー画面のバラの花束を思いっきり魂を込めて描いてくれました。

散策の小さき日溜まり冬菫ふゆすみれ


母は冬の寒さの中で、日溜まりに咲くかわいいすみれの花を詠みました。散歩をしていると季節の変化が手に取るように分かるものです。寒中でもけなげに咲いている花を見ると、何とも言えないほっこりした気分になりますね。
母は可憐な菫をイラストで描きました。菫は私の好きなの花の一つです。


最後までお読みいただいてありがとうございました。たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。この記事が気に入っていただけたらスキを押していただけると励みになります。

私のアルバムの中の写真から

また明日お会いしましょう。💗


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