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伴名練『なめらかな世界と、その敵』を読んで

『なめらかな世界と、その敵』伴名練 2022.4.20 発行 ハヤカワ文庫JA

内容
 いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描く表題作や、ありえたかもしれないもう1つの日本SF史を活写する「ゼロ年代の臨界点」、伊藤計劃の『ハーモニー』にトリビュートを捧げた「美亜羽へ贈る拳銃」、未曾有の災害が発生した新幹線の乗客と取り残された人々のドラマ「ひかりより速く、ゆるやかに」など、人の心の隔たりと繋がりをめぐる奇跡の傑作集。著者渾身の1万字あとがきを併録した決定版。

裏表紙より

 SF好きにとって必読の一冊。一つ一つの話が濃厚かつ切ないです。

 特に、「なめらかな世界とその敵」「美亜羽へ送る拳銃」「ひかりより速く、ゆるやかに」が良かったです。

「なめらかな世界と、その敵」

 無数の並行世界をスライドしつつなめらかに生きる少女と、それを可能にする「乗覚」に障害をきたして一つの人生しか生きられなかったマコトの物語。

 嫌なこと、困ったことなどが起きれば瞬時に「そうならなかった可能性の平行世界」へと移動でき、それらを回避することができます。
 そんな世界で主人公は、友達が「乗覚障害」に陥っていると知ります。無限の世界にいる自分に意識を移動できて、それが可能になった世界が描かれているため、ある意味ユートピアな世界です。
 しかし、逃げ続けることで得るものはなにか。それによって、大切なものが欠けたり落ちたりすると思いました。逃げ続けても良いけど、いつかは向き合わないといけないときがくるかもしれません。

「美亜羽へ贈る拳銃」

 外的処置により、人間の思考や嗜好を改編させることができるようになった世界。同一人物でありながら全く異なった思考を持つこと、性格を変えた後の自分は果たして自分なのか。

 自分は自分が変わったことに気づかないかもしれませんが、他人から見たら、まったくの別人に見えるかもしれません。自我は思っている以上に曖昧かもしれないと思いました。

「ひかりより速く、ゆるやかに」

 "低速化災害"という未曾有の災害に巻き込まれた新幹線の乗客たちをめぐる書き下ろし作品。

 主人公は修学旅行を欠席していたため巻き込まれずに済みましたが、否応なしにその後の世間の変化に巻き込まれていきます。残された人々の感情、低速化が始まって、人間のリアルな動きが描かれています。

 科学技術が進んでいくにつれ置き去りにされてしまう感情があり、私達はそこにロマンのようなものを求め無鉄砲な行動が胸を打つことがあります。
その中で人間臭さはどうしても残り、あくまで人間は人間だと思いました。


 ここまでお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いできたらと思います。

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