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中国映画市場の底力を現地で見た話

先日のnoteに記しました、僕が今取り組んでいる3つの事

1つ目は「俳優エピソード本」
2つ目は「演技カフェ」

そして、今日は3つ目についてお話させて頂きます。

僕が今、取り組んでいる事
3つ目は

「トレース」です。

「トレース」という言葉、改めてネットで調べてみると「写す」「なぞる」という意味のある言葉でした。「移す」だと思って使っていたけど、まぁまぁ、ね。

僕はこれまでの俳優人生、沢山の演出家や俳優の皆様から、演技の技術を盗み、自らの演技論にして参りました。(ありがとうございます!)

いわば、その方々の技術をトレースしてきました。

そして僕は、「演技講師」「演出家」として、これまで得てきた技術をまた新たな人々にトレースしていっています。

ここで、突然ですが

僕が中国で体験してきたお話をお伝えさせて下さい。


おととし、北京で映画撮影をしていた時のこと。

監督の「スリー、ツー、ワン、アクション!」の声と共に回り出すカメラの脇で

他にも回り出すカメラの存在。

スタッフさんやエキストラの方々が、僕にスマホを向けて、携帯撮影をしているのです。

今、まさに、本番を撮影している真っ最中にです。

最初は、現場に参加した記念に隠れて写メでも撮っているのかなぁと思っていたのですが、その携帯撮影者の多さと、堂々たる態度に、どうやら、コソコソと、という訳ではない事に気がつきます。

そして、それらの動画は、次の日には、続々とSNSにアップされていったのです。

これには流石に度肝を抜かれました。まだ日本では撮影地すら発表されていない作品の現場映像が流出され続けていました。

お国柄、情報漏洩についての感覚が緩いのかなぁ〜?くらいにしか思っていなかったのですが

次第に、彼らのこの行為にある感覚の本質は、どうやら別のところにあるのだという事に僕は気付かされます。

彼らが持つこの感覚がもたらす結果について、真剣に目を向けざるを得ない状況に僕は置かれる事になります。

この現場でカメラマンを務めていた方のSNSをその後も追っていくと

彼の次の現場での秀逸なカメラワークが、携帯撮影され、SNSにアップされていた事実に巡り会いました。

これ、もちろん公開前の作品でのカメラワークです。日本だったら絶対に公開NGとなるOFFショットが大胆に映し出されています。

数秒間撮影されたそのカメラワークの素晴らしさは、携帯越しにも一目瞭然です。その動画をアップした張本人は、もちろんカメラマン本人であります。

この事実が何を物語るのか。

通常、映画は、撮影を終え、編集をし、公開されるまでに、一年程時間を要します。ましてや、OFFショット動画は日本では公開されない事の方が多いです。

そんな中、中国の皆さんは、その一年を待たずして、現場の技術を取って出ししている事になります。

この事実に置いて、ポイントだと思える点は2つ。

本来、公開されるまで明かされる事のないカメラマンの技術が、中国では、撮影を行ったその瞬間に関係者に拡散され、絶賛撮影中でありながら、その技術を必要とする関係者の目に触れ、次の仕事のオファーが舞い込んできます。

一年後の映画公開時が、売り込みのタイミングではなく、撮影期間中が最大の売り込み期間となり、一年前倒しで物事が進んでいく時短がされるのです。

撮影中=即プロモーション期間です。

そして、その素晴らしいカメラワークが施された作品の、数秒の裏側公開という行為が、いつわりのないドキュメンタルなメイキング映像として、映画自体の視聴意欲をそそる「広告」となるのです。

1つの行為に、いくつもの意味を持たせ、有効利用してゆく。

登る階段の一段一段の駆け上がるスピードが早ければ早いほど、到達地点が高いのは明白です。

この行為が十年繰り返されていたとしたら…。

中国の映画市場は、ハリウッドに迫る勢いだそうです。

中国映画市場の目覚ましい発展は、彼らが本質的に持ち合わせている技術共有の感覚と、このネット時代のシェア文化とが、うまくシンクロした結果とも言えるのではないでしょうか。

日本の演技技術はとても高いです。けれど、情報に対する規約は厳しく、トレースされるべき技術が表に出てこない事も少なくないのではないでしょうか。

中国では、僕の現場での演技がバンバン携帯撮影され、SNSに載っているのです。

もし、もしも、日本でも役者の現場での映像がSNSに転がりまくっているとしたら、その役者への注目度はどうでしょうか。その作品を観たいと思う人は増えるのではないでしょうか。

もちろん、作品が第一です。その想いが揺らぐことはありませんが、日本の発展状況や、認められていかないアンダーグラウンドを見つめた上で、その辺りのバランスをもう少し整えてみたら、これからもっと面白いんじゃないかと思いました。

僕が中国で得た実感の是非は分かりません。でも、僕は技術公開を目の当たりにしました。

日本の有名キャラクターを模したグッズがお土産屋さんに並んでいます。無許可なパクリはもちろん良くありません。

ただ、そうした行為に内包される技術共有がもたらすものを見つめていくと、発展に対して考える部分があるのではないかと思います。

中国の都心部では、公式の日本キャラクターが大流行し、イベントが中心街で大々的に開催されていました。本家への広告に一躍を買う側面を持っている。その是非は、観点に置いて変わってくるかと思います。

絵の具を作った人は、絵の具の権利を主張しなかったそうです。

絵を描きたい人に、フリーで絵の具を渡したからこそ、世界中のみんなが絵を描ける様になったそうです。法的な大人の難しい話は僕には分かりません。あえてそこは論じずに

中国という土壌が生み出す動きの速さ、持てるものをシェアしていく惜しみなさに、この時代に飛躍した意味を、見出す事は出来ないでしょうか。

僕は僕の技術をトレースしようと思いました。

演技講師でも、講義でも、開け放ち持って帰ってもらいたい。

僕の身の回りが、シェアによって、歩を進めたら、こんな嬉しい事はありません。

もちろん賛否ある部分だと思います。

でも、もし、僕のこの16年の現場での技術が常にSNSにアップされ続けていたとしたら、僕の現状は違ったのだろうか。

演出家様方の技術が僕の中で新たな技術を生んだように、日本中の技術が何処かの誰かに飛散し、育まれ、革新し、業界全体の飛躍に一躍買えたかもしれないと妄信するのは馬鹿げているだろうか。

もし映画「カップケーキ」の映画祭上映が全て終了し、様々な許可が下りるのであれば、僕はこの現場での携帯撮影映像をネットに公開してみたい。まぁ中国では、もう丸見えになってしまっていますから、許可も何もあったもんじゃないんですが(笑)あの現場の熱気をお伝えしたい。

中国では映画「カップケーキ」の長編化が決定しました。去年公開の短編映画がシェアされ続け、テレビ放映され、スポンサーが付き、制作に至ります。やはり速いです。カップケーキに備わる技術をすぐに認め、新たにトレースする。

僕の活動に取り入れずにはいられません。

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