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腸内マイクロバイオータ

前回、自分にとって有効なダイエット法を誰でも簡単に見つけられる方法として、「ウンチに聞く」ということを書きました。
便はからだからのお便りです。
「便りがないのは良い便り」ということわざがありますが、もし便が出てこなければ、どうすれば良いのかを聞くこともできず、まったく頼りになりません。
理想は毎日、少なくとも2、3日に一度は、からだからの便りを聞きたいものです。
そこで今回は、からだの中で毎日せっせと便を生産してくれている、働き者の腸内細菌について取りあげます。

ヒトの腸内には1000種類以上の細菌が住んでいて、その数600〜1000兆個、重さにすると1〜1.5kgとなり、「マイクロバイオータ」と呼ばれる細菌叢を形成しています。
ヒトのからだの本体を構成している細胞の数は、ボローニャ大学のEva Bianconi博士らの試算によれば37兆2000億個とのことなので、全細胞の20倍もの数の細菌が、腸内に生息していることになります。
もし、人体内に暮らしている全てのクリーチャー(生き物)たちが総選挙をしたとしたら、腸内細菌たちの代表ばかりが当選して、圧倒的多数の議席を占めることになるでしょう。

ただし、腸内細菌たちも決して単一政党ではなく、善玉党vs,悪玉党vs,日和見党などという宿主であるヒトの勝手な分類による理解をはるかに超えた、カオス的社会力学の影響下で、しのぎを削り合っています。
たかだか数十億人程度で構成されている地球上の人間社会でさえ、やたらと複雑で誰の手にも負えず、常に分裂やクーデター、紛争戦争を繰り返しています。
そのことから憶測してみるに、数十兆、数百兆もの個体で作られている、からだや腸の社会は、イメージすることさえ困難な、魑魅魍魎の世界であると言って間違いはないでしょう。
事実からだの一部分である脳は、数百億個の神経細胞からなりますが、その仕組みや働きすら、全くもって解明しきれていないのです。

ところでその脳と、脳神経の一万倍の数のマイクロバイオータが蠢く腸の間には、深くて密接な繋がりがあります。
例えば代表的な神経伝達物質であるセロトニンは、腸内細菌によって生産され、腸から脳に出荷され使用されています。
セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、安心感や幸福感をもたらしますが、腸内環境によってその生産量が増減します。
つまりマイクロバイオータのご機嫌次第で、脳の状態や働きがコントロールされていることになります。

こういった脳と腸の関係性は様々あり、まとめて “脳腸相関” と呼ばれますが、それらの関係はあくまでも、「腸が主、脳が従」です。
何しろ腸一家は、脳神経の一万倍もの数の構成員を抱えている、強大な裏組織なので、政府の公式機関である脳といえども、これに逆らうことは御法度なのです。
腸内マイクロバイオータという名の、光の全く届かない世界にある暗黒社会は、独立自尊の精神を持って、からだ内に暮らす一般庶民たちを、あらゆる外敵から守っています。
外の世界から食べ物と共に腸管に入って来た病原菌やウイルスが、腸壁から体内に入り込まないよう、腸内パトロールをしながら、辻々に置かれたパイエル板に控えている免疫細胞たちに対して、回覧板を回して不審者情報を流したりもしています。
ヒトの全免疫システムの70%が集中しているといわれる腸の免疫力は、こうしたマイクロバイオータ団の働きによって維持されているのです。

毎日の食事によって、腸内マイクロバイオータは変化します。
そして、あたまやからだの働きは、マイクロバイオータによって左右されます。
体重の増減や寿命の長短についても、マイクロバイオータが関係しているということも徐々にわかりつつあります。
食物繊維や発酵食品、オリゴ糖などは、マイクロバイオータの健全化に役立つようですが、いろいろなものを食べ分けてみて、次の日の便の色や形、匂いなどの観察をしてみるのも面白いかもしれませんね。

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