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良い眠りには良い音楽 〜おすすめアルバム5選

 睡眠。それは必要不可欠なものであると同時に悩みの種。私は昔から寝付きが悪く、だいぶ苦労して来ました。
 しかし、睡眠。なんと甘美な響き。寝るのは大好きです。どうせなら、スッと寝てたくさん寝て心地よく寝たい。
 そこで今回は、自分が好きな音楽の中でも、睡眠時のお供・リラックスしたい時におすすめのアルバムをご紹介して行きます。


1.Mercury KX / Flow(2020年)

 まずはこちらを紹介せずにはいられません。個人的な「2020年ベストアルバム15選」 にも選出した一枚。

 私の中で睡眠・リラックスならここに任せておけば何とかなる、と絶大な信頼を置いているレーベルMercury KXによるコンピレーションアルバムです。

 Mercury KXは、ロンドンをベースとしたレーベル。“ロンドンをベースとした”と言うと、音楽好きな方はいわゆるUKロックを想像されるかもしれませんが、Mercury KXは毛色が違います。代表するアーティストがÓlafur ArnaldsやLambert、Keaton HensonやLuke Howardであることからもわかるように、どちらかと言えばアンビエントやエレクトロニカ、クラシック寄りのレーベルです。

 そんなMercury KXが、全力で聴衆を癒してくる楽曲を次々送り出してくるものですから、どうしても体の力が抜けていく……。柔らかなピアノの音色やシルキーなボーカル等、最高の楽曲がこの一枚に詰まっています。人によっては、真っ暗闇の真夜中よりも、夜と朝が混じり合う、薄く霧がかかった空を想像するかもしれません。

 ひとつ注意があるとすると、全体的に結構シリアスな雰囲気の楽曲が多いです。そのため、ちょっと精神的にふさぎ込みがちな時に聞くと、そちらにメンタルを持って行かれやすいようにも思います。どちらかと言うと、一日張り切ってガンガン行った日の夜に、心を落ち着かせる用途の方が向いているなと、個人的には思います。

 ちなみに、Mercury KXはかの有名なユニバーサルミュージック・グループ。そのため、毎年の世界睡眠デー(※世界睡眠医学協会が制定。毎年3月の第3金曜日、睡眠にかかわる活動を行う日)に合わせて公開されるプレイリストの中には、Mercury KX所属のアーティストの楽曲が含まれています。(以下リンクは2022年版)

 また、Mercury KXのYouTubeアカウントには、“Calm amongst the Chaos”という動画シリーズがあり、サムネのインパクトからは考えられないほど全力で癒してくるんですよね……。
 おうちでのリラックス時間や寝る前のひと時のお供にぴったりです。


2.Tom Adams / Yes, Sleep Well Death(2018年)

 イギリスのシンガーソングライターであるTom Adamsは、「まるでJonsi(Sigur Rosのボーカル)の歌声をもったNils Frahm(クラシックとエレクトロニカを組み合わせた音楽性で有名)」と称されるのも納得の楽曲を多く発表しています。

 まず聞いてみて魅了されるのは、Jonsiの歌声に勝るとも劣らないファルセット。この声色が本当に心地よいもので、目を閉じて寝転がって聞いていると、自然と体中の力が抜けて行き、自分までふわふわとどこかに浮かんでいるような心地がします。
 それなのに、なぜか音楽の端々に切なさがあるのが、Tom Adamsの楽曲の大きな魅力のひとつ。浮遊感があり、時に壮大に広がる空を飛ぶような音楽なのに、どことなく内向的だったり独り言の様に聞こえたりする。
 このおかげで、彼の音楽を聴いていると親近感がわいてくるんですよね。音楽が壮大すぎて置いて行かれる、圧倒されすぎる……ということがなく、「ごくごく自然にそこにある素晴らしい音」といった雰囲気があります。この雰囲気が、リラックスにちょうどいい。

 私が彼を初めて知ったのはこれ以前のアルバムです。そちらもおすすめですので、ぜひ。

 また、彼を語る際に外せない、Nils Frahmの名前の通り、ピアノの音色も大変良い。優しく、時に楽曲の主役になる美しい音色は、普段ピアノだけの楽曲を嗜まない方であっても、聞きやすいのでは。
 それも、先述の通り彼の音色の雰囲気がなせる業。肩肘張ったり、自分の腕前を見せつけたりするのではなく、「そこにある音色を紡ぐ」という彼の音楽性が、聴衆の心にある警戒心や緊張感を解いてくれます。

 余談ですが、Tom Adamsがデビューしたきっかけには、こんな出来事があります。
 デビュー前のTom Adamsはベルリン旅行中に、偶然Nils Frahmのライブに足を運びました。そのライブ中、Nils Frahmが観客に演奏するよう声をかけたところ、ふわりとステージに上がったのがTom Adamsでした。Tシャツ・短パン姿のラフな格好な彼がステージに上がり、演奏するうちに観客やNils Frahm本人を魅了していく姿は、まるで奇跡のような瞬間です。

 この動画を見た時、私までその場に立ち会ったような心地がしました。
 そんな偶然と奇跡の巡りあわせで、彼の音楽が聞けるんですから幸せなことです。ありがとう音楽の神様。なんてセンスがいいんだ。


3.London Grammar / If You Wait(2014年)

 イギリスのLondon Grammarは、女性ボーカルのハンナの力強いボーカルが印象的な3人組です。しばらく活動が緩やかだったのですが、2020年にシングル“Baby It's You”で戻って来てくれました。

 私が彼らの音楽を知ったのは、このアルバムにも収録されている“Night Call”をauのCMで聞いて一気に引き込まれたから。“Night Call”自体は彼らの楽曲ではなくカバーなのですが、見事にLondon Grammarの音楽として昇華させています。

 このアルバム以降は、次第に壮大さが増すというか貫録が出て来る彼らの音楽ですが、“If You Wait”での彼らはごく一個人といった気配を感じます。なんででしょうね、ハンナの声は今も昔も変わらず美しいし、楽曲自体が素晴らしいのは変わらないんですけれども。

 あるとするならば、“If You Wait”全体を通して感じる哀愁やもの悲しさ、美しさと言ったものの方が、身近に感じやすい親しみを覚えやすいもののように思います。それらを抱えながらも飛び立つ心根みたいなものが、このアルバムから溢れ出しているような気がして、心のわだかまりもスッと成仏してくれる……。
 だから、London Grammarというとどうしても私は、このアルバムを思い返してしまいます。ただの一人の人間が、ベッドの上で孤独感と一緒にぼんやりしている・何か悩みを抱えてうずくまっているのを、同じ視点から見ていて、音楽に変えてくれるような印象です。
 
 こうした“孤独感”や“もの悲しさ”を美しい楽曲に変えてくれる音楽というのは、聞く人や気分によっては重苦しく感じられるのですが、私は結構好きですし、心が落ち着きます。

 London Grammarの他にも、DaughterやThe XXもそういった雰囲気があり、とても好きです。寝る前に聞きたくなるのは、こうした楽曲だったりします。


4.最新アルバムからのおすすめ

 そうそう、ところで。この記事は、カクヨムで以前公開したエッセイのアレンジ版です。もちろん、今(本noteは2022/04/24公開)も先述のアルバムがおすすめであることに変わりはありませんが、去る4/22にリリースされたアルバムに、これは!というものがあったので簡単にご紹介します。

・James Heather / Invisible Forces

 うっとりしている間に召されてしまいそうなピアノの音色が特徴のJames Heather。音だけ聴くと、レーベルがNinja Tuneなのは少し意外かもしれません。

 今回のアルバムは、彼のパーソナルな経験を反映した楽曲を含んでいます。例えば、かつて彼をトラックで轢いた運転手(行方知れずだそうです)への赦しの曲"Hidden Angel"。脳震盪になった父についての曲"Balance"など。
 彼がピアノで語り出せば、どんな苦悩やその果ての赦しもすべて美しい音に変わる。その事実に何故かこちらの心が安堵する。そんなアルバムです。


・S. Carey / Break Me Open

 Bon Iverのドラマー/サポートボーカリスト。そんな冠をつけて語られることの多い彼ですが、そんな言葉はこのアルバムの前にすればサラサラと消えてしまいます。だってそこに広がるのは、紛うことなきS. Careyの世界なんですから。

 彼の音楽がいかに居心地いいものかは、1曲目"Dark"を聴いていただければおわかりいただけるはずです。スモーキーなボーカル、ひんやりしたエレクトロニカ、暖かなアンビエント……あらゆる音色で織られた美しさ。
 このアルバムは、個人的な苦悩やパンデミックを経験したが故の悲しみ、喪失を扱っています。それを乗り越え、愛や希望に満ちた人生に昇華させる音楽。本当に素晴らしい。目を閉じたまま浸っていたいアルバムです。


 さて、すっかり長話をしてしまいました。今晩のお供にしたい音楽は決まりましたでしょうか? 不安が脳裏をかすめて仕方ない夜、そわそわして落ち着かない夜、あらゆることを抱えて横たわる寝床の中で。あなたを眠りに導いてくれるのは、きっとこんな音楽だと思います。
 それでは今晩も、これからも。どうぞ、良い眠りを!

※本作は、以下のエッセイの更新版です。


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© 2022 Aki Yamukai

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