やなした

〆切の妖精

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距離を超える好意

寂しさ、怒り。 共依存、寄る辺なさ。 成功体験、リスクヘッジ。 うん、いずれもしっくりこない。 「連帯感とは何から生まれるのだろうか」 と、道東を離れてから折につけ、僕は考えている。 連帯感でなく、チームやパーティと言い換えてもいい。 つまり、目的を持ったある種の共感。 それは、何から生み出されるのだろうか? 去年、道東でタクローくんという不思議な男に出会った。 (本稿のカバーフォト、空を見上げる青年がタクローくんだ) それから僕は、そんなことを考えるようになっ

    • 本棚専門店を作りました。

      東京・日本橋の髙島屋S.C.(新館)の5階に「ハミングバード・ブックシェルフ」というお店を作りました。 (たぶん)実店舗としては日本でここだけの(ひょっとすると世界でも珍しい?)本棚専門店です。 かもめブックスをはじめ、これまでに、僕はいくつかの本屋を作り、そこで本を売ってきました。すると、「そもそも本屋に来ない人」に本は売れないんだなってことに思い至ります。(まあ、考えたら当たり前ですね!) だから「普段は本を読まない人、あるいは本屋に来ない人」に本の良さを伝えたいという

      • ソヨンによるニシャーダのためのカレーの話 著:土門蘭

         ソヨンは大学の同級生で、韓国から来た女の子だ。  文学部国文学科という、日本の文芸作品を研究するその学科に、ソヨンは留学生として入学していた。ふっくらとした白いほおに丸めがねをかけ、小さな背中に重たそうなリュックサックを負っている。そこには、本や辞書が入っているようだった。  よく学ぶ子だった。授業では、流暢な日本語ではきはきと発言した。決して遅刻をしないし、レポートを忘れることもなかった。居眠りしているところも、一度も見たことがない。  ただ、春をすぎ、夏を迎えても、まだ

        • 東京

          東京は好きだ。 雪みたいな非日常にも、パニックを堪えて秩序を作るところなんかも好きだ。 (そして、駅員さんたちは今回も東京のヒーローであり続けてくれた) 大雪が昨日をカラフルにしてくれて、普通が普通じゃなくなった。 昼、大手企業さんのマネージャー研修に、校閲を情報リテラシーとして、3時間ほど授業をした。北海道から鹿児島まで、全国から100人弱も集まってきてくれたマネージャーさんたちは、ちゃんと帰れただろうか。 夕方、打ち合わせのための移動が多かった。 帰宅の大波

        距離を超える好意

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        • 日記
          8本
        • 短いもの
          10本

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          恋人の選び方

          伏見の南、宇治の西。そこで先ほど、僕は独りになった。 このままだと、今日中に東京に戻れないかもしれない。フィールドワークで予定が遅れていた僕は、だから、近鉄京都線の大久保駅で車を降りて、京都まで電車で移動することにしたのだ。 京奈を結ぶ24号線から少し外れた大久保というところは、サバーブの起点のひとつで、宇宙に浮かぶ観察衛星からは、無個性な小さな光の粒に見えるかもしれない。けれども、そこには確かに営みがあり、暖かさがあった。この国はサバーブの集合でできている。この既視感は、

          恋人の選び方

          文化比較の入れ子構造

          つらいつらいと言う、そんな男の近くにいる女の子が一番つらいよね。なんて、ポリティカル・コレクトネスでも、保身の弁証でもなく、僕は本心から思うけれども、今したいのは、そんな野暮な話じゃないんだ。 僕は、映画「男はつらいよ」が大好きなんだってことだよ! 参考: https://www.youtube.com/watch?time_continue=2&v=a_iW0rFYzuA (第12作 男はつらいよ 私の寅さん トレーラー) 父の話す東京の言葉とおんなじ調子が、はじめて銀

          文化比較の入れ子構造

          言葉の四積層

          先週の訪バンクーバーは、あたりまえだけれども、久しぶりに英語ばかりでコミュニケーションを行うことになった。大らかなカナダの英語はとても聞き取りやすかったし、人々のマインドも開かれていたので、穏やかな時間だった。聞かれて答える、問いかけて返ってくる、いつものそれらの行動を、いつもでない言葉で行うという、それだけの僅か3日間はとても楽しかった。 うん、たまにはいいよね。 シーズンは秋に移ったばかりで、坂の多いバンクーバーはどこも美しかった。旅行者も使うことのできるシェアバイクな

          言葉の四積層

          ワークの四分儀

          「いい本を作る」ということ。 これまでは、それが僕の仕事のすべてで、これまでは、とてもシンプルなはずだった。 でも、少し先まで見てみると、単純に作るという行為だけでは成り立たなくなりそうで、本を売ってみたり、校閲を情報リテラシーとして再定義する必要があったり、ローカルについて考える必要があったり、会社の仕組みを再度構築しなおす必要があったり、異業種との交流がとても重要だったり、なんだか、この2年でシンプルとは言えなくなってきた。マイッタナー。 まあ、実は、自ら望んで、覚悟を

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          夜の魔法

          11/27/2016 そういえば友だちと飲むときは、バカバカしい話しかしない。 本当にくだらない話ばかりで、次の日の朝に、夜の魔法が解けたら、どうしておもしろかったのか、まったく理由がわからないことが多い。それくらい、くだらなくて、愛おしくて、バカバカしい。 昨晩もダラダラと飲んでいたら、L字カウンターの奥にいた友人がじいっとモニターを見ている。まばたきすらしない。 「ねえ、恭ちゃん。なんであの人たちは、いい大人なのにキャミソールを着て走り回ってるの?」 パブのモニターには

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          ミッドナイト・ラン

          10/18/2016 今日はバタバタだった。 僕がメールをためておくからいけないのだけれども、今日の今日、大阪から来てくれるTGさんの打ち合わせに、急遽、合流させてもらうことになった。神楽坂から城南エリアへ小さなジャンプ。歩いている人がみんな背広で、気のせいか街の景色が黒い。でも、こういうのきらいじゃない。丸の内あたりよりも、もっと堅い感じ。 無事に打ち合わせが終わって、アフターミーティングをしようと思ったら、関西の身内から「体調急変ヘルプ!」の知らせが入り、入院

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          ベーコンエッグ

          あらためて、自分が日ごろから執心しているものをプレゼンテーションするとき、その一点突破力というか、チームの訴求力というか、人心掌握のすごさは、群を抜いているなって思う。 最近、自分でも仕事しなくちゃと思うけど、ベーコンエッグの画像検索をずーっと見ていて、定食屋でチープな主菜にあれば必ず頼んだりして、この料理が好きで好きで、気になってしょうがない。ああ。 色みかな? 匂いかな? 味かな? そのビジュアルのためだけに、スキレットを買ってしまった。どうしてもっと早く買わなかったん

          ベーコンエッグ

          そういえば、

          「台風一過」を「台風一家」だと思っていた僕の友人は、今ごろ何をしているのだろう、なんて、思いが飛ぶのは今日みたいな嵐が去った朝ですね。机に座って、ラップトップを開く。昨日入れたポットのコーヒーがぬるくなっていて、これはこれで嫌いじゃない。もうひと踏ん張りがんばるぞ! 今、僕は人生ではじめてといっていいと思う「プレゼンテーションの資料」を作っていて、慣れない作業に手こずっています。プレゼンテーションはしたことがあるけれども、「資料」を作りこむということはしたことがありません。

          そういえば、

          2014年の読書経験

           自分のために書き残しておくノートに、正確性を求めるときりがないけれど、たしか、あれは、2014年のはじめだとおもう。僕はキンドルを買った。  プラットフォームとしてのキンドルは、いわばただの空っぽの箱で、そこには(本といってもいいけれど)コンテンツが入っていなくては、役には立たない。……はずなのだけれども、3Gの、あるいはWi-Fiの速度でe-inkのブラウジングなどは、男の子的なガジェット心をくすぐって、しばらくそれで遊んでいたりした。通信速度によってでなく、ハードウェ

          2014年の読書経験

          ヒコーキ

           たそかれの時間に西の空を見上げると、オレンジの夕方と藍色の夜が、くっきりと、きれいに、まるでフロートカクテルみたいに、二層を作っていることがあります。それらは混ざることなく、藍色がじわじわとオレンジを押し下げ、身応(やが)て、電柱に灯りが点ったり、車の目が光ったり、気がつけばまわりは夜ばかりになっていき、そのステキな時間は過ぎていきます。これはもちろん、いつでも見ることができるわけではなくて、ふと、人生のおまけとして、たまに僕らに訪れる幸運な時間なのです。  さらに、僕達

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          年表の色

           フワフワと、世界のどこかに浮かんでいる仮想の雲の中から、一曲ずつ、音楽をダウンロードすることになった今、それでも僕は、アルバムという概念を知った上で音楽を聴くことが、クールなことだと信じている。  僕はトモフスキー氏の「NEGACHOV & POSICOV(ネガチョフ アンド ポジコフ)」を、今でも色あせない名盤だと思っていて、その補完し合う曲群は「盤」という概念こそが相応しい。テープに曲をまとめるときは、アルバムから抜き出して編集されるべきものなのだ。  そうさ、僕

          年表の色

          テセウスのおでん

          おはようございます。 「おでんと哲学」の時間です。今日は皆さんと、おでんを使って、アイデンティティについて考えていきましょう。 ええ、そうです、おでんです。あなたの聞き間違いではありません。アイデンティティについて考えるのに、我々はおでんを使おうとしています。 冴えたやり方ですよねえ。だって、哲学を嫌いな人はいても、おでんを嫌いな人はいないでしょう? ハ~イ! 実存、唯物、プップクプ~!(ジングル) では、いつものように、静寂のリビングでカウチに横になってくださ

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