見出し画像

さすが俺のボディ、予想は裏切っても期待は裏切らない!

17歳の秋、志望大学の判定にEが下されても動じなかった。
志望なんて変えればいい、パンがなければお菓子理論だ。
同級生が赤本を高速でめくる横でエロ本を爆速でめくっていた俺は、案の定浪人が確定、晴れて予備校に通いだすも半年で挫折し、翌年のセンター試験(現:大学入学共通テスト)は結果が悪すぎて使い物にならず、私立大学が個別で実施する試験のみを受験した。およそ7割の解答をサイコロ鉛筆(※窮地浪人生の飛び道具)をブン回して決定したところ、運だけはA判定、見事合格してしまう。

時はこんこんと流れ38歳の冬、人間ドックの判定でFが下された俺は、動じるどころか意識不明の重体に陥った。

一瞬ラテ欄縦読み方式を採用しそうになったが、
とりあえずどこからどう読んでもBADな結果

以前も書いたが(※参考記事)、同年(2023年度)2回目の人間ドックである。
前回の結果が出たのが3月で、その時は微塵の異常もなかったのに、10ヶ月後、突如AからFへの大転落である。遅効性の毒でも盛られたか…ぎりり…とスケジュール帳を開いて確認してみたが、独居房に自ら幽閉されに行った変態か何かかな?と勘違いするほど誰にも会っておらず、したがって買う恨みもつらみも嫉みもないに等しかった。

四十路よそじまで生きたんだから、もういつ死んでもいい、我が生涯に一片の悔いなし!とラオウぶって拳を突き上げていた自分を斬首したい。いや、それでは本当に死んでしまうのでせめて全治1ヶ月くらいにしてやりたい。

F判定を突き付けられた俺は、呆れるくらい生にしがみ付き、生を渇望した。

25年間の過食歴と躁鬱の経験、現在も不眠症を抱えている俺の判定がAという事自体が間違っていたのだ。3年前の人間ドックでも肝臓と腎臓が引っかかってはいたが(※壮絶精密検査奮闘記はこちら)、総合でF判定を下されるとは…さすが俺のボディ、予想は裏切っても期待は裏切らない!

ようやく意識が戻ってきたところで母に架電。
何だかんだ言っても俺には母しかいない。

やん「母さん!俺!!人間ドックで!!!くぁwせdrftgyふじこlpヴィィェ!!!!」
母「ちょっ、落ち着きなさい、やん、こら、やん!えー…お父さんは今、テレビでポツン(※ポツンと一軒家のこと)を見ています、いいですか、お父さんは、テレビで、ポツンを、見ています」
やん「….….. ( ˙-˙ )スンッ」

最近父と折り合いの悪い俺は、母が父の話題を出すとオートマで真顔になるのだ。

母「はい落ち着いた。で、何?ドックの結果、良くなかったの?」
やん「俺の心身がFランってことが発覚したわ…」
母「もう、何意味わかんないこと言ってるの!つまりは良くなかったのね?だったら普通にそう言ってよ」
やん「子宮頸がんの疑いと、緑内障の疑いと、肝臓腫瘍の疑いがかけられてる」
母「立派な容疑者ね…」
やん「ひどい!あんまりや!悪いことしてへんのに!」
母「何言ってるの、悪いところがあるから疑いかけられてるんでしょ」

ぐうの音も出ない。仰るストリート、悪いことをしたから体に結果が表れたのだ。

母「大丈夫よ、精密検査受けたら何ともなかったってこと、ザラにあるんだから。母さんも昔、子宮がんの疑いがかけられてね、看護師さんから早急に検査してくださいってお電話までもらっちゃって、母さんね、自分ががん容疑者ってことよりもね、真っ先にこう思ったのよ、“っしゃー!!!仕事休めんじゃん連休サイコー!!!”ってね」

たしかに母が仕事を休んでいる姿は見たことがない。父も同じくだ。
俺なんてリモートワークの今でさえ、夜更かししすぎて欠勤することもままあるのに、とんだ根性だ(お前がな)。

母「とにかく、すぐに再検査の予約しなさい、話はそれからよ」
やん「うん、さっき3件とも予約した」
母「そう…さすが病院大好きっ子ね」
やん「なんやねんその不名誉な称号は…まぁ正解やけど」

何を隠そう俺は病院が大好きだ。単純に安心するからだ。一歩院内に踏み入れば、刺されようが殴られようが(※なぜか抗争が起こる想定)すぐに処置してもらえるし、当たり前だが病院には病気の(もしくはその疑いがある)人間しかいない。みんな仲間だ。あなたも大変ですね、俺もです、私もよ、お大事にね、お大事にという暗黙の労りが空間に広がっている。イッツ・ア・スモールワールド。

母「で、具体的に辛いことはないの?大丈夫?」
やん「まぁ強いて言えば眠れんことかな?」
母「そう、薬も飲んでるのよね?」
やん「うん、最近カフェインも控えとるわ」
母「そう、何か出来ることあればいいんだけど…って、あ!!!!」

急に叫んだかと思うと、少しの間通話が保留になり、何やら電話越しにバタバタする音が聞こえてきた。

母「あったあった、これこれ、メディカルパッド!いつも読んでる○○(※御用達の通販雑誌)に載ってるのよ、すごくいいらしくてね、でね、○▼※△☆▲※◎★●!▲☆=¥!>♂×&◎♯£?%*+~?」

どうやら該当ページを読んで聞かせてくれているようだ。
長すぎて意識が再び遠のきそうになる。

やん「え?パッド?肩にでも入れんの?」
母「ばかね、そんなバブリーなわけないでしょ、ベッド用のパッドよ」
やん「ほ~?」
母「あ、ほら書いてある、数多の高齢施設で使われているベストセラー、ですって!」
やん「え!俺もう高齢者枠なの?!泣いちゃう!」
母「も~そんな風に捉えないの、それくらいいい製品ってことよ」
やん「ぐすっ…」
母「有名作家さんや俳優さんもコメント寄せてるわよ!えーと…これは何て読むのかしら?ひらいずみなり…?さんとか。ほら、おじいさんの俳優さんの…」
やん「おい、おじいさんは余計やな。あと平泉成ひらいずみせいさんな。気持ちはわかるよ、俺も“さんぽとちんぽ”、よく間違えるし」
母「待って!これメディアカル枕ってのもあるらしいわよ!いいじゃない!パッドと枕!セットで!セットで安眠!」

自慢じゃないが俺のベッドには今、2個のマットが重ねて敷かれてある。どちらも体に合わなかったけれど捨てるのもめんどくさいので、色々騙し騙しでそのまま使用していた。ちなみに枕も使ってないものが2個ある。そちらは鋭意イスの背もたれとして活用中だが、とにかく合う寝具がないのが通年の悩みではあった。

やん「マット使うてても腰のところがたわんできて、そこだけに体重かかってしんどいねん。かと言うてこれ以上マット乗っけたらベッドの足折れる気~して怖いわ。枕も合わんかったらイスの背もたれになるだけやし、背もたれ用の枕置きすぎて、もはや俺が座れんとか本末転倒やん」
母「1cm!パッドはたった1cmよ!」
やん「ペラペラやん!むしろそんなペラいやつに俺の体支えられんの?って話やわ」
母「ひらいずみ、せいさん?そう、せいさんも書いてるわ、“とにかく腰に負担がかからないんです。最近では姿勢までよくなってきましたねって、マネージャーが”だって!」
やん「ほんまかマネージャー!ステマちゃうやろな?!」
母「もう、一度試してから文句言いなさいよ、せめてパッドだけでも使ってみれば?」
やん「でも…お高いんでしょう…?」
母「も~!!!分かりました!いいでしょういいでしょう、母が買ってあげましょう!その代わり自分にできることはちゃんとしなさい。検査もそうだけど、運動とか寝る前スマホ見すぎないとか、出来ることは、しなさいね」

やっぱり俺には母しかいないし、母がいてくれたらそれでいい。
病院は大好きだし安心するが、母がいてくれるこの世界はもっと好きだし安心できる。

母がパッドに課金している間、俺は眼科で珍妙な検査を受けたり、肝臓のCTを受けたり、婦人科では金属を膣にぶっ刺されて半泣きになったりと、出来ることをしっかり全うしながら時を重ねた。

1週間後、無事に届いたパッドをマットの上に敷いて眠りについた。
爆音の目覚ましで体を起こした翌朝、平泉成のステマ疑惑が軽やかに晴れた瞬間であった。

あなた!体の3分の1が脂肪じゃない!
と母を絶叫させた体脂肪率。

先月末無事に誕生日を迎え、俺は39歳になった。
17歳の秋、軽やかに志望を変えて運のA判定で無事大学に合格したように、39歳の冬、ため込んできた脂肪だって軽やかに減らせば努力のA判定できっと健康になれるはずなのだ。

見ててくれ、母と平泉成(道連れ)!

この記事が参加している募集

新生活をたのしく

美容ルーティーン

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?