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どう使う?マーケターが知りたい行動経済学のあれこれ

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マーケティングの大家、コトラー教授は「行動経済学はマーケティングの別称である」と言ってます。専門用語が多くてとっつきにく印象のある行動経済学の理論を取り上げてマーケティング施策へ… もっと読む
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記事一覧

「実践 仕掛学」を読んで

大阪大学で仕掛学の教えている松村真宏先生の「仕掛学」の続編である「実践 仕掛学」を読みました。 実践編ということで、ページの半分以上を著者と教え子たちが実際に行った45の実例に割いています。成功例だけでなく予期しない結果となったものも紹介されていますので、仕掛を取り入れてみたいと思っている場合には多いに参考になると思います。 仕掛学とは、つい行動してしまうきっかけを作る仕掛けを体系的にまとめたものです。 行動経済学とのナッジと類似性が高いです。本書ではその違いも明確にさ

良いことばかりも悪いことばかりも続きません-平均への回帰-行動経済学の理解と実践67

2024年になりこれから新しいスタートというときに、日本では地震、飛行機事故と悪いニュースが続きました。そんなこともあって、SNS等で2024年は災厄の年なんじゃないのか、というような不安な書き込みがあるそうです。 被害に遭われた方々には心からお見舞いしたいと思いますし、微力ながら個人としてできることはないのかとこれからも考えていきたいと思います。 それはそれとして、やはり2024年をよりポジティブな気持ちで過ごせるよう、今回のテーマは平均への回帰にしたいと思います。

「思わず押してしまう」アフォーダンス理論とは

子供の時に、バスの降車ボタンを押したいからタイミングを待って早押しした経験のある人って多いのではないでしょうか? 実は、私、今でも降車ボタン押すとちょっとだけ気分が盛り上がります。 以前に、降車ボタンのおもちゃが売れているという記事を読んだ時に、売れる理由がわかるような気がしました。 この記事では、ボタンがあるとついつい押してしまうというのは認知心理学におけるアフォーダンスがあるからだとしています。 アフォーダンスは、人間の感覚(五感)に働きかけるマーケティングやプロ

理由に基づく選択とは-行動経済学の理解と実践65

「理由に基づく選択(Reason-based CHoise)」仮説は、人間は効用の最大化ではなく十分な理由があって選択することに自己を正当化するだけの理由があれば、その理由に基づいた選択を行うと考えるものです。 心理学のエイモス・トベルスキー先生、行動科学者のエルダー・シャフィール先生らによって提唱された理論です。 従来の経済学では効用関数モデルといって、合理的に判断して予算の範囲の中でもっとも大きな効用(ベネフィット)を得ることができるものを選択することを前提にしていま

一貫性の心理とは-行動経済学の理解と実践64

一貫性の心理とは、一貫した立場を取り続ける方が心地よい、あるいはぶれない人だと他人に思われたいという心理バイアスのことをいいます。 一貫性の心理は、他の心理バイアスとも深く関わっています。 例えば、人やモノに対してある一点を高く評価すると他の部分も良い印象を持つことになるハロー効果です。 上司がある部下に対して一度優秀であると認めたとしましょう。上司にとっても、最初に高く評価したことをくつがえしたくないという思いがあり、他の点もよく評価したり少々の難点に対して寛容になっ

保有効果を一層高めるファン・マーケティングとは-行動経済学の理解と実践63

保有効果とは、自分が一度所持してしまうと持っていない人よりもそのモノに対して高い価値を感じてしまうことで、認知バイアスの一種とされています。 コーヒーメーカーをオフィスに設置してカートリッジを定期購入する「〇〇〇〇〇アンバサダー」も無料でコーヒーメーカーを貸与することで手放したくないという思いを喚起する保有効果を狙ったマーケティングです。 他にも、DMに「あなたに無料プランを差し上げます」的なメッセージも保有効果を狙ったものと言えるでしょう。無料でも一度もらってしまうと自

要注意 バンドワゴン効果の功罪-行動経済学の理解と実践62

ランチの時間帯、街で見かけた2軒のラーメン屋。1軒はお客さんはまばら。もう1軒は満員で行列ができています。あんたはどちらのラーメンが食べたいですか? 答えはほとんどの人がよっぽど忙しい時じゃない限り後者と答えるでしょう。 今回は、行列の及ぼす心理効果であるバンドワゴン効果について解説します。 バンドワゴン効果とは? 音楽隊の行進を走る先頭の車のことをバンドワゴンといいます。その後に、音楽隊の行列が続いて行進するわけですが、ここから、人が流行に乗って次から次へと行列を成

初頭効果と新近効果の上手な使い方-行動経済学の理解と実践61

ちょっとした発表会とか、ビジネスだとプレゼンコンテストだとか、就職活動の集団面接の場面なんかでもあるかもしれません。 あなたは何番目に発表したいですか? 一番最初とか最後は緊張するしいやだなぁって思われている方はもしかすると損していたかもしれません。(私が実は真ん中あたりで済ましたいって思ってしまう小心者タイプです) この記事は、最初と最後に印象が残る初頭効果と新近効果についてです。 初頭効果とは 初頭効果とは、初めに得た情報が印象に残って、後の評価に影響を与える、

フット・イン・ザ・ドアとは何か?-行動経済学の理解と実践60

小さなお願いから承諾してもらう交渉テクニックとなるものがフット・イン・ザ・ドアです。 玄関ドアに足先だけを入れた状態のことをいいます。いきなり中に入り込むのではなくて、まず足だけ入れさせてもらいましょう、って感じですね。押し売りが玄関ドアに足突っ込んで閉めさせないようにしているのとは違います。 フット・イン・ザ・ドアについてフリードマン(Freedman. J. L)とフレイザー(Fraser. S.C)という人が詳細な研究をしています。 ある大きな依頼をするために、以

ブーメラン効果とは-行動経済学の理解と実践59

もう30年くらい前に流行った歌謡曲にこんな歌詞がありました。 反抗期の中高生は、親に「勉強しなさい」ってやかましく言われるてやる気なくしてしまったって経験ある人もいるのでないでしょうか? 今回は、こんな反抗期や恋愛の時の微妙な心理の状態の説明にもつながるブーメラン効果についてです。 ブーメラン効果とは? ある人が他者の説得をしようとして失敗してしまった時の反動としておこるもので、相手がますます頑なになってしまい拒絶の態度をとってしまうことをブーメラン効果といいます。

果報は寝て待て スリーパー効果-行動経済学の理解と実践58

スリーパー効果とは? スリーパー効果とは、信頼度の低い情報源からの情報であっても時間の経過ともに情報の内容だけが記憶に残り信頼性が向上することをいいます。また、逆に信頼度の高い情報源の情報に対しては、最初は高い信頼を抱きますが、時間が経過すると情報源の記憶が薄れて情報への信頼性も薄れてしまいます。 スリーパー効果は、20世紀で最も影響力のある心理学者の一人であるといわれるイェール大学のカール・ホブランド氏とワルター・ワイス氏によって提唱された理論です。人を説得する上でどの

真実性の錯覚とは-行動経済学の理解と実践57

それが正しいのか間違っているのかは抜きにして、何度も同じ情報を聞いているうちに信じ込んでしまったり支持してしまうようになることを真実性の錯覚(Illusion Truth Effect)といいます。認知バイアスの一種です。 何度も接点を持っているうちに好意をいだく単純接触効果とも関連が深いです。 昔から権威主義的な国家の独裁者によって用いられていた手法です。 ナポレオンも反復法といって「同じ主張を何度も何度も繰り返すことで、民衆に真実である受け入れられる」と述べています

ゾーンに入った? ホットハンドの誤謬-行動経済学の理解と実践56

今年の夏の高校野球もいよいよ決勝まできましたね。この猛暑の中、選手の精一杯のプレーが繰り広げられて盛り上がってますね。 ということで、今日はちょっと野球を題材に始めてみたいと思います。 あなたはプロ野球の監督です。現在、9回裏、あなたのチームは5−4で勝っています。ところが、抑え投手が連打を許し現在2アウト2、3塁の逆転サヨナラのピンチです。 次の3番打者は打率は2割5分程度ですが、今日は絶好調で3安打打っています。次の4番打者は3割打者で、本塁打王争いをしている強打者

解釈レベル理論とは何か?-行動経済学の理解と実践55

ちょっと昔の話ですが、プロみたいな写真が撮りたいと思って一眼レフのカメラを色々と調べていたことがあります。せっかくだからしっかり腕を磨こうと思い高性能のカメラを中心に見ていたのですが、いざ買いに行こうと思う段階に至って、やっぱり使い方とか難しいよなとか、そもそもレンズも何個も買うとなると予算が、、とか結局色々な理由で怖気付いて買えなかったことがあります。 解釈レベル理論はこのような私の体験を説明してくれるものです。 解釈レベル理論とは 解釈レベル理論は、人々が対象や出来